あーちゃんが振り返るとき 2
調子はどう?
診察室に入って、簡単に挨拶をしてから、獣医師は、努めて平坦な声を出した。マウソックの表情を見て、努める必要があると判断したのだろう。
マウソックは、正直に答えた。
わからない。
この1週間、ほぼじっとしているあーちゃん。
じっとしているだけで寝ている様子もない。
毎日毎日不自然に大きく動く上胸の上下運動ばかりが目に入る。
先週から症状が好転していないことは、わかっていた。
わかっていながら、本当は少しでもよくなっているかもしれないという、根拠のないうっすらした希望を混ぜ合わせると、「わからない」という言葉になった。
獣医師は、小さく微笑んだ。
わからないか・・じゃあ、あーちゃんをここに入れて。
小さな体重計の上に新品の透明な容器が置いてあった。
単にきれいだけの容器に、なんともいえない羨ましさが溢れてくるのを
こらえながら、あーちゃんを入れた。
体重を測り、心音を確認した獣医師は、無言のままあーちゃんをマウソックに渡した。
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