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小泉進次郎氏の「解雇規制見直し」とは? ジョブ型の基本もわかりやすく解説

9月27日に実施される、自民党総裁選。
小泉進次郎氏が「解雇規制見直し」を争点に持ち出し、波紋を広げています。

「日本経済のダイナミズムを取り戻すために不可欠な労働市場の本丸」
「今のままだと一度解雇をしたら、ずっと雇わなければならない。そのしわ寄せで今まで非正規雇用が続いていた」

と小泉氏。

進次郎が総理になったら、自分も正社員になれるかも?」と何となく期待する人もいるかもしれませんね。

しかし、本当にそうでしょうか?
日本と欧米の雇用システムの違いを比較して考えてみます。


日本は解雇規制が厳しいわけではない。むしろゆるい

さて、小泉氏が言う
今のままだと一度解雇をしたら、ずっと雇わなければならない」のは本当でしょうか?

実を言うと、日本の解雇規制はそれほど厳しくありません。
民法627条に、「解雇・退職は労使どちらからいつでもできる」と規定されています。
つまり、いつでも会社側から「辞めてね」と言えるし、労働者側から「辞めます」と言えるということ。

これに歯止めをかけるのは、民法1条の「権利濫用の禁止しかありません。むやみに権利を使うなよ、ということだけです。

これに対し、フランス、ドイツ、イタリア、スウェーデンなどの欧米では厳しい解雇規制があります。労働者の権利を守るため、一定の条件や手続きが必要になるうえ、解雇に客観的な合理性が求められます。

OECDが公表している、雇用保護法制の強さを数値化した「EPL指標」を見ると、日本が比較的解雇しやすい環境であることがわかります。

OECD Employment Outlook 2013 Chapter2 Figure2.6

この図表から、アメリカがかなり解雇されやすい環境だということがわかります。朝、会社に行ったらすでに席がない、社長の“お気持ち”で辞めさせられる……そんなことも珍しくないようです。

ただし、アメリカは例外。他の国はほぼ解雇規制があります。

長い時間かけて「一人前」になる。そんな日本の会社の仕組みはかなり特殊

正社員が会社の「メンバー」。日本の「メンバーシップ型」システムとは

そうはいっても日本では、同じ会社に勤めて20年、30年が珍しくないという人も多いでしょう。
これは、法制度というよりも、雇用システムが深く関係しています。

日本で働いていると、日本の雇用システムが当たり前すぎて、海外も同じじゃない? と思うかもしれませんが、実は違う。日本の雇用システムは、世界と比べてかなり珍しいです。

日本は、大学(高校)在学中にいっせいに就職活動をし、卒業したあと4月にいっせいに入社します(これを新卒一括採用といいます)。下っ端仕事から始め、いろんな部署をローテーションしながら、その会社の「メンバー」として成長していく。アラサーでチームリーダーを任され、アラフォーで主任、そのあと課長、50歳くらいで部長になります。

会社の業務全般をこなすことで、組織の一員として成長していく。だから、最初はど素人で構いません。むしろそのほうが「会社の色に染まる」というわけで歓迎されます。中途採用も、年齢制限を設けているのが当たり前(欧米では違法ですが)。日本人のメンタリティとしても、「私は営業マンだ」というより、「私は○△社の社員だ」にアイデンティティを感じる人が多いでしょう。

お給料も、定期昇給などで上がっていきます。そのため、年次が上であるほどお給料が高いのが普通です。

このように、「人」にフォーカスした雇用形態を「メンバーシップ型」雇用と呼びます。

職務内容にフォーカスする、欧米の「ジョブ型」雇用

ところが、アメリカやヨーロッパは事情が異なるのです。
(アメリカとヨーロッパでも事情が異なるのですが、ここで違いを説明すると大変なことになるので、あえて雑にくくります)

欧米では、雇用契約に「これをやってください」という職務が規定されています。営業なら営業シニア職、企画なら企画アソシエイト職など、職務範囲が決まっています。

日本は、「最初の3年間は地方の支店で営業を頑張ってね。そのあとに本社に戻って、勉強のために広報を担当してもらおうかな。次の2年間は……」とジョブローテがありますが、欧米は基本的にこれはしません。

じゃあどうするの? というと、最初から「このスキルが満たせる人だけ来てください」と会社から要求されるのです。

最初はやさしい仕事をして、覚えていったら中くらいの難度の仕事をする、という日本の教育システムはありません。企画のアソシエイト職ならば、企画アソシエイト職がちゃんとできるレベルのスキルを求められます。

そして、日本のようにいっせいに就職するわけではありません。欧米の採用活動は、基本的に欠員補充です。営業レベル2の欠員が出たら、営業レベル2の人を雇うのです。

日本と欧米の違いを図にすると、以下のようになります。

Canvaで20分で作った図表をご笑覧ください

お給料は、その職務に値札が貼ってある感じです。年収300万円のポスト、450万円のポストというように。だから、同じポストにいる限り、お給料は上がりません。

同じ職務で昇進することはありますが、「◯年目だからそろそろリーダーに」というのはありません。そもそも年次という概念がないので、30歳の自分の後のポストに、40歳の人が来ることも当たり前にあります。

このように、仕事内容にフォーカスした働き方を「ジョブ型」と呼びます。

成果主義? ジョブ型雇用の誤解と、それぞれのメリデメ

ジョブ型というと、「あー、なんか能力主義? いや成果主義? の働き方でしょう?」と思うかもしれません。そもそも能力主義と成果主義は違いますが…。

これはまったくの誤解です。欧米だって別にふつうの人がふつうにジョブ型で働いています

ジョブ型社会では「カードル」という、大学院卒や有名大のMBA保持者のエリート層がいて、この人たちは昼夜なく、めちゃくちゃに働きます。査定も厳しいですが、お給料は高い。

一方でその下の普通層は、お給料はイマイチ(というか上がらない)けど、17時になったら即帰宅。バカンスだってしっかりとります。査定も、別に成果が求められるわけではない。ただ自分の仕事がきちんとできていればいいだけです。

ジョブ型の誤解は、日系企業が導入した「日本型ジョブ」に起因しているのではないでしょうか。

メンバーシップ型の良さは、新卒の就職がしやすいこと。そして定期的に昇給していくことでしょうか。業務はともかく会社のスペシャリストになり、年次が上がるほどに知識も身につくので、複雑な仕事ができる。だから、自分に合った会社ならずっと働ける。

ジョブ型の厳しさは、自分にスキルがないと就職できないところです。しかし、そもそも欧米では、大学の卒業証書はスキルを保証するものなのです(だから卒業するのが大変)。また、公私の職業訓練校がたくさんあるので、ここでも必要な職能を身につけられます。

メンバーシップ型とジョブ型のメリデメは、また改めて書きたいと思います。

「ウインドウズ2000」が辞めても、非正規労働者に特に恩恵はない

さて、それでは小泉進次郎氏の発言について。

解雇規制の見直しを通して
「非正規の方が正規で雇用されやすい環境を作っていく」。

??

よくわからないが、おそらく本人もよくわかっていない
そもそも日本は解雇規制がゆるいというのは、すでに述べました。

ジョブ型の社会ならば、離職してもスキルがあれば、同じポストで職を探すことができます
ところがメンバーシップ型の日本社会では、長期間かけて会社の「メンバー」を育てるので、会社を辞めたらまた再スタートになってしまうのです。

この状況で解雇規制がさらにゆるくなったら、もう阿鼻叫喚ですね。
入口を整えず、出口だけガバガバ。

まあおそらく、「ウインドウズ2000」みたいな、消化試合中の中高年男性を切りたいというのが経営者の本音でしょう。

ただし、彼らの首を切ったからといって、非正規労働者に恩恵が回るわけではありません

なぜなら、日本における非正規雇用というのは「雇用の調整弁」だから。
不景気になったらすぐに人的コストをカットできるように雇うのが、非正規労働者です。会社のメンバー=正社員を守るために、そのような制度を採用しているのです。
できるだけ抑制すべき労働コストなのだから、余程のことがない限り、正社員にしないし賃金も上げない。

正規と非正規の間に格差が生まれてしまうのは、メンバーシップ型雇用社会の特徴であり、最大の弱点です

それゆえ、非正規雇用の働き方を本当に見直すなら、そして解雇規制の見直しを労働市場の活性化につなげるなら、メンバーシップ型社会から本格的なジョブ型に変えるのかを検討しなければなりません。

でも、小泉進次郎氏はその辺りを理解していないのでしょう。
なんとなく「変革を起こす感じが出ること」を言ってみただけで(言わせた背景には“ある大きな存在”がありますが)、中身はないという相変わらずの話でした。


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