ブス認定 vol.02

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 その後、公的ブス認定は、思いのほか私の人生に影響した。

 何か行動を起こそうとしたときも、「私はブスである」という一言が私を立ち止まらせる。
積極的に、能動的に動くことができない。なぜなら私はブスだからだ。

「ブスがこんなことしても無駄」「ブスがこんなことしたら笑われる」

 その代わり、ブスに関係なさそうなことには俄然やる気を出した。その一つが勉強だったり絵を描くことだったりだったが、さほど自分の自己肯定には役に立たなかったので大して生活は変わらなかった。

 そんなこんなで、全ての行動に「ブスだから」の枕詞がついてしまった私は、卑屈になって消極的になって、とうとう心まで本当のブスになってしまった。

 たった一言、全くといっていいほど関わりのない、中学校を卒業して、行方もわからないような、ピッチャーくんの放った呪いの一言に緊縛されてしまうなんて、思春期の純粋さに恐怖さえ感じるが、これっぽっちも疑うこともなく、長い間私はピッチャーくんの呪いを人生に採用し続けたのだった。
 これまでだって何度もこのエピソードを披露しては、同情もされたし、一緒に腹を立ててくれる人もいた。見事な言葉を私にくれて、うっかり呪いを手放しそうになったこともあったけれど、いやいや、私の呪いは永久凍土なので、と頑なに自ら縛られ続けた。

 そんな呪いがかけられて、数十年が経った頃、ある日、ある人の、ある一言であっさりとこの呪いが溶けてしまったからさぁ大変。

「それってさ、そいつの好みの話なだけだよね?」

「!!!!????」

 シャボン玉が勢いよく弾けるように、催眠術士が催眠術から解く時に指をパチンと鳴らして現実に戻すか如く、呪いは私から一瞬で消えていった。

 こんなお見事な回答が今まであっただろうか?私は感動すら覚えた。

 その人はこうも続けた。
「食べ物もそうだけど、美味しい不味いなんてその人の味覚に由来するし、そんなもんあんたと正反対の女子が好みならあんたは否応なく「ブス」だし、あんたがタイプなら「かわいい」になるに決まってるじゃない」

「でもそこにいた奴らに笑われたけど?」

「中学生なんか何にでも笑うでしょう」

何も言い返せない。なぜ私はこの答えに出会えなかったのだろう。
少なくとも10代にこの答えに出会っていれば、私の人生はもっと違っていたかもしれない。

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