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小さな違和感をガマンしない勇気 『ヒョンナムオッパへ』 #451

かつて「ダメンズ」という言葉が流行りましたね。いまではすっかり普通語として定着しているみたいですが、もともとは倉田真由美さんのマンガ『だめんず・うぉ〜か〜』から始まったもの。ダメな男=ダメンズを渡り歩いてしまう女性の体験談を紹介するマンガでした。

ダメンズの特徴として挙げられるのは、虚言癖やドメスティックバイオレンス、浪費癖、浮気癖などです。「こいつ、マジであかんヤツじゃないか……」と思っても、なかなか離れられない女性たち。ひとりの男と別れても、またダメンズと付き合ってしまうんですよ。

この循環から抜け出すには、自分で気づくしかないのかもしれません。「わたしは、支配されている」のだと。そして、「わたしを支配する権利なんて誰にもない」のだということを。

地方からソウルに出てきて出会った先輩・ヒョンナムに恋をした主人公が、ふたりの関係のいびつさに気づくまでの物語「ヒョンナムオッパへ」は、そんなダメンズに傷つけられた女性たちを思い出してしまうお話でした。

韓国での「#Me Too運動」の火付け役となったチョ・ナムジュさんの『82年生まれ、キム・ジヨン』。この本の出版を皮切りに、韓国では「フェミニズム小説」が台頭したそうです。2017年に発刊された『ヒョンナムオッパへ』は、そのチョ・ナムジュさんほか、全7人の作家による「目覚め」の物語が収録されています。

東京大学名誉教授の上野千鶴子さんが「“フェミニズム”とはまず“母と娘”の問題だ」と語るように、キム・ヘジンさんの小説『娘について』や、ドラマ「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」のジナとママなど、「母娘問題」も正面切って描かれるようになったのは、たしかにこの数年のことのようです。

チェ・ウニョンさんの「あなたの平和」は、家の奴隷として生きるしかなかった母と娘の物語なのですが、これがまたイタイ話なんです。密度の濃い母娘の関係は、ひとつ間違えると「刃」になってしまうのかもしれない。

一方で、支配型のママに「作品」として育てられた「サイコだけど大丈夫」のムニョンのように、母を切り捨てることで乗り越えようとする姿も最近では登場しています。

一筋縄ではいかない母娘の「乗り越え」という点からみても、最近のドラマや小説はフェミニズムにマジなんだなと感じますね。

ただ「女だから」という理由だけで課される生きづらさは、当たり前のことなんかじゃないと気づいた女性たち。小さな違和感を見逃さないこと。それが「目覚め」への第一歩なのかもしれません。

一度「ルビンのツボ」に気づいてしまえば、もう認識を元に戻すことはできない。とても海の向こうのお話とは思えない、身につまされるような短編集です。

小さな違和感、がまんしていませんか?


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