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あなたは「傘」から何が見えるか | 見るトレ

はじめまして、コピーライターの梅田悟司です。いまは仲間とベンチャー・キャピタルの経営をしていますが、その前は広告会社に勤務し、マーケティングやクリエイティブに関する仕事をしてきました。その経験を活かして、起業家と議論しながらビジョンの策定をしたり、サービスやプロダクトの価値を言語化したりと、コミュニケーションを軸にベンチャー企業の経営支援を行っています。

この度は素敵な出会いをいただき、日経COMEMOにて寄稿させていただく機会を頂戴しました。日経COMEMOを書くにあたり、どんなテーマがいいか、ずっと考えていました。書いては修正し、しっくり来ずにそっと閉じる。このループを何度も繰り返したことか……。そして、最後にたどり着いたのが「見える情報量を増やす方法を言葉にする」ことでした。

コピーライターの仕事は「書く」ことであると思われがちです。もちろん、最後に言葉を生み出すのは事実です。しかし、もっとも大事なのは「書く」の前にある、どんなプロセスを経て言葉にたどり着くかに他なりません。そこで僕が重視しているのが「見る」ことです。ある商品やテーマを与えられた瞬間に、その対象から何を感じ取れるか。それこそが勝負であると思っています。

「使っている人や光景」を見ようとする。
「なぜそれが生まれたのか」を見ようとする。
「新たに生まれてしまった課題」を見ようとする。

ここでいう「見る」は、感じ取るわけですから、実際に目で見えているわけではありません。目に見えない関係性に気づき、その関係性を言語化していくわけです。その点でいえば、言語化よりも「言語によって可視化する」といったほうが正確かもしれません。

では、どうすれば見る力を鍛えることができるのか?

日経COMEMOでは、考え方から方法論までを、毎回1つの対象を取り上げながら解説していきたいと思います。見る力を鍛えるトレーニング、題して「見るトレ」。第一回目のお題は「傘」です。

あなたは「傘」を見て何を思うか?

「目の前に傘があります。あなたには何が見えますか?」

この問いに対して、こう答えるでしょう。

傘。透明傘。ビニール傘。100均で売っている。壊れやすい。

こうした言葉が浮かんだのではないでしょうか。これらの答えはあくまでも目に見えている範囲です。では、ここから見えないものを見ようとするトレーニングを始めましょう。ひとつ目のポイントは「自分の経験を思い出す」ことです。傘と自分に関する経験を思い出しながら、傘を見てください。

台風の時にそっくり返ってしまった。ビニール傘はすぐに盗まれる。相合傘でドキドキした。剣に見立ててチャンバラした。お気に入りの傘があって、雨の日が楽しみだった。日傘もあるよね。

このように、自分の経験を思い出しながら傘を見ると、傘だけではなく、傘を使っている人との関係性が見えてきます。では、さらに次のポイントです。それは「なぜそれが生まれたのか」「当時どうだったのか」に思いを馳せることです。

服が濡れないように。風邪をひかないように。その昔は木と和紙で作られていた。濡れたら破れたのだろうか? 重くなかっただろうか? 傘を持ち始めた人は、周りの人にジロジロ見られていたに違いない。

対象の起源に思いを馳せながら見ると、その対象があった世界と、なかった世界の「差」を明確に意識することができます。この段階でも、だいぶ見える情報量が増えてきたと思います。そして、最後のポイントです。ここが最も重要です。「その対象の周辺に点在する課題」を見ようとするのです。

傘を見て、ゲリラ豪雨や異常気象、ゴミ問題を思えるか

「その対象の周囲に点在する課題」とは何でしょうか? 

わかりやすく言えば、いま起きている、新聞やニュースで取り上げられる話題と対象を関連づけることと言い換えられます。では実際に、具体的に傘で考えてみましょう。

まず考えられるのは、ゲリラ豪雨や異常気象です。「傘」→「雨」→「大雨」→「ゲリラ豪雨」→「異常気象」といった順に抽象度を上げることで、傘の周囲にある課題が見えるようになってきます。

次に考えられるのは、ゴミ問題でしょうか。特にビニール傘は、安価なぶん壊れやすく、ゴミになりやすい特性があります。「ビニール傘」→「安い」→「壊れやすい」→「大量生産・大量消費」→「ゴミ問題」といった流れです。さらに言えば、ビニール傘であれば、ビニールとプラスチックと金属でできているので「分別しづらい」「再利用しづらい」というところまで見えた方もいるかもしれません。

こうしたプロセスを経るだけで、1本の傘から、見える情報量がかなり増えます。しかし、ここまで見てきた世界は、対象物である傘と直接関係がある領域に留まっているのも事実です。さらに見ようすると、こんなことも見えてきます。

ニューノーマルで外出が減ったから、傘を使う機会が減った。

上記で示した、ゲリラ豪雨やゴミ問題は傘から発想しています。その一方で、「コロナ禍で外出の機会が減り、傘を使う機会が減った」ことについては、私たちの生活や暮らし、つまり行動から発想しています。ここまで見えるようになると「雨の日以外に傘を有効活用してもらうには?」といった発想も生まれてきます。

このように「対象を起点として見える情報量を増やす」「ひとの行動を起点として見える情報量を増やす」の両軸を意識するだけで、見える情報量は飛躍的に増えるのです。

見える情報量が増えれば、書く情報量も増える

1本の傘を見て、これだけの情報を瞬時に見えるようになれば、発想の幅も広がります。僕は瞬時に多くの情報を見ようとすることを日々心掛けています。そのトレーニングの過程で、見える情報を体系化したチャートがありますので、今後の参考にもなりますので、ご共有します。

物事は「物性、利便性、存在意義」の三層構造になっており、見えた情報をこの三層に当てはめながら整理しています。マーケティングにおいては、第一階層の物性は「機能的ベネフィット」、第二階層の利便性は「情緒的ベネフィット」と、明確に定義されています。

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僕が最も大事にしているのが第三階層の存在意義です。この存在意義を「社会的ベネフィット」と呼んでいます。この社会的ベネフィットは、いま世の中で起きていることと密接に関係しており、同時代性が高い領域とも言えます。そのため、社会的ベネフィットが見えるようになるだけで、社会性や時代性を帯びたメッセージを生み出すことができるようになるのです。

まだ見える情報が「実際に見えている情報」を超えない方は、トレーニングとして、三層構造を頭に浮かべながら見える情報を一段階ずつ、内から外へと、増やしてみることをオススメします。すると、いつの間にか見る力が鍛えられ、三層構造を意識することなく、見える情報が増えるはずです。

コピーライターは書く仕事にように思われがちですが、実はそうではありません。見える情報量が増えなければ、書く情報量は増えません。逆に言えば、見える情報量が増えれば、書く情報量は自然と増えるものです。

第一回目のお題は「傘」でした。第二回、第三回とお題を変えながら、連載を続けていきます。見る力を鍛えるトレーニング「見るトレ」を続けたいなと思われた方は、スキやフォローのご登録をお願いします!

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