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白昼夢:会話のはじまり

 どうも、高校生です。勉強も部活もほどよく中だるみの、高校二年生です。

 部活が休みの月曜日、放課後に教室で勉強しているつもりで、おしゃべりに花を咲かせた後の下校。いつもより一本遅い電車のなか、私はうとうとしていました。
 ふと目を覚まして顔をあげると、正面につり革をつかんで立っている人がいました。見覚えのある顔です。ああ、そうだ、去年のクラスメイトです。今年はクラスが違うし、同じ授業もなく、接点がほぼ皆無なので、見かけるのは久しぶりでした。そういえば、部活等の都合で基本的に時間は違うけれど、通学に同じ路線を使っていたのでした。
 他人ではないけれど、こちらから声をかけるほどの仲ではありません。向こうが私に気付いてくれたら良いのに。
 そう思っていると、元クラスメイトはいじっていたスマホから顔をあげ、こちらを見ました。そして驚いた顔をして
「久しぶり」
 と口を動かしました。自分で願っておきながら、私はもう驚いてしまって、頷くような会釈しかできませんでした。そのくせ、会話が続けば良いな、なんて願ったのであります。すると、なんということでしょう。
「いつもこの時間?」
 スマホをポケットにしまいながら、元クラスメイトが尋ねたのです。
「いいや、いつもは一本前」
「だよね、見ないもん、いつも」
「そうだね」
「今、何組だっけ?」
「三組」
「あー、竹本先生のクラスか。大変だね」
「でも竹本先生、ホームルームでは意外と面白いよ」
「そうなの?数学だとあんなに厳しいのに」
 そんなことをぽつり、ぽつり、と、話しながら、電車は進んでいきました。元クラスメイトは、またね、と手を振って、私の最寄り駅よりふたつ前の駅で降りていきました。

 次の日の朝です。またあの元クラスメイトと会えると良いな、と思っていました。すると、改札を出たところで声をかけられたのです。
「おはよ」
 おはよう、と返しつつ、私は戸惑いました。普段はこの時間に会わないからです。すると私の表情に気付いたのか、
「朝練、休みなんだ」
 と教えてくれました。ふたりで駐輪場まで歩きながら(駅から高校まで自転車で通う生徒が多かったのです)、やはりぽつり、ぽつり、と、話をしました。
「英語の小テストなんだ」とか、
「竹本先生の数学が憂鬱」とか。
 それだけのことですが、駐輪場に着くまでのわずかな時間に、ぱっと花が咲いたようでした。

 数日後の放課後のことです。駅のホームで、私はぼんやり電車を待っていました。元クラスメイトに会えないかな、なんて思いながら。
 すると…、もう、お察しかもしれません。
 本当に現れたのです。元クラスメイトが!
「おつかれ」
 そして、私の隣に並びました。
 うまく会話を続けたいな。私は話すのが苦手だから、いろいろ質問してくれないかな。つい、願ってしまいます。
「今、体育は何選択してるの?」
「バスケ」
「お、一緒だ。人気だよね、バスケ。得意なの?」
「ううん、他のが嫌だったから…」
「へえ。そういえば何部だっけ?」
「放送部」
「そうなんだ!知らなかった!じゃあ、二組の中谷もいるでしょ?」
「うん、中谷くんもいる」

 もっと聞いてくれないかな。部活のこととか、勉強のこととか、友だちのこととか。
 好きな人はいるの?とか…。

 …
 いや。
 それは違うな。
 そういうのは、願って、聞いてもらうことではないはずです。

「あのさ」
「ん?」
「好きな…、」
 好きな…?
「好きな、歌手とかいる?」

 ああ、これです。
 これぞ、会話。
 こういう会話から、友情は、恋は、始まっていくべきだと思うのです。

 …まあ、これが恋か、友情か、なんて、まだわからないんですけどね。

 以上、高校生でした。
 





 

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