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お客さまと調律師のギャップを埋めたい

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ピアノって、調律って、本当はこうなんです。 ひとことで伝えるのは難しい「ギャップ」を解消する記事をまとめました。
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#考えたこと

アップライトはグランドピアノの劣化版で、電子ピアノは紛いものか

「ピアノを本気でやるのにアップライトなんてありえない。ましてや電子ピアノなんて…」 こんな主張がピアノ業界には昔から根強くあります。 ここに続くのが 「だから自分はグランドピアノを弾く」 は全然良いと思うんです。でもそれを他人に強要したりマウントをとったり、アップライトや電子ピアノのユーザーが負い目に感じてしまうのは非常に悲しく害のある風潮だなと。 グランドピアノだけが本物のピアノ?歴史的には確かにピアノは元々グランドピアノから始まりました。 その構造を大胆に変え

ピアノを「商品」として見るときのポイント

ピアノの販売員や、ピアノ調律師など、ピアノを「製品・商品として扱う」職業。 仕事で扱う以上、「このピアノはこんな製品」と評価する必要があります。 今回はピアノと言うプロダクトをプロはどんな項目で見ているのか?その構成する要素について言語化してみたいと思います。 ピアノは電化製品のように機能や性能のちがいで判断するのは難しい商品です。これらのポイントを共有できるとピアノを選んで頂くのがスムーズになるのでは?と思っています。 プロダクトとしてのピアノを構成する要素は主に5

弾き手が見ている鍵盤と、調律師にとっての鍵盤

「ぴあ(ピアノのことだと思われる)無くなっちゃったね〜?」 お客さま宅でいつも通り調律前に鍵盤を外してピアノの上に載せ、掃除をしていると3歳くらいのお子さんの声。 かわいいな〜すぐ戻すよふふっ、と思いながら作業を続け、鍵盤を戻します。 ここからまだ音は出さずに先にネジを締めたりタッチの調整をしていきます。少しするとまた声が。 「ぴあ、やらないね〜?」 (この人ピアノを良くしてくれるって言ってたけどなかなか始めないな、の意) バリバリやってるんですが。。。笑 でも思

掃除機を借りる調律師と持っていく調律師

僕は前者です。 なんのことかと言うと、調律をするときにピアノの中の掃除をするんですが、そのときの掃除機をお客様にご用意頂くか、自分で持っていくかという話です。 これが結構ずっと悩んでいて、どちらが良いのかいまだに決めかねています。 本当はできるだけ自分で持っていきたいんですみなさん快くお貸しいただけるので甘えさせてもらっていますが、調律に必要なものを、どのお宅にもあるからと言う理由でお借りするのは本当はどうなんだろう?と思わなくもないんです。どの現場でも自前の同じ掃除機

ピアノを何にたとえよう

こちらのツイートが、ピアノと電子ピアノのちがいの伝え方としてすごくわかりやすくて、思わずおお!と唸ってしまいました。 実際には「バターとマーガリン」のちがいが「ピアノと電子ピアノ」のちがいにばっちり当てはまっているかと言うとそうではないのですが(もちろんツイート主の方もわかってる)そんなところはどうでも良くて、その距離感が絶妙にわかりやすいんですよね。 もし僕が食品にたとえるとしたら「蟹とカニカマ」とか「苺とイチゴシロップ」かにたとえてしまっていると思います。と言うか実際

ピアノの屋根の開けかたなんて、知らなくてあたりまえだと思う

演奏のときに立てるグランドピアノの屋根、まちがった開けかたをされていることが結構あります。屋根の前側をたたまないで持ち上げられていたり、支え棒の挿す位置が違ったり、その両方だったり。 今までもドラマや映画、雑誌、ポスターなどいたるところで見ました。最近はストリートピアノも流行っているのでSNSでもよく見かけます。 見た目が変なだけであれば良いんですが、これほんと危険です。 でもこの屋根ってかなり重いですし、もし開けかたを知らない人が開けようとした時に、(あれ?これ開けかた

ピアノの弱さをなんとかして伝えたい

ピアノは弱くて、めちゃくちゃ繊細なんです。ピアノもバイオリンも所有されてるお客様に「バイオリンは見た目的にも環境の変化に弱そうなのは感じてましたが、ピアノがそうだとは知りませんでした」と言われ、ハッとしました。 確かにこんなに頑丈に見えるピアノがちょっとした環境の変化に弱いなんて、誰が信じるのか... でも適切に管理してもらうには、生肉に勝るとも劣らないピアノの真の繊細さを所有者のみなさんに正確に知ってもらわないといけない。納得感がないと手間をかけて管理しようなんて気には

海外製のピアノは国産と同じようには扱えない

調律で海外製のピアノに出会うことも結構あります。ヨーロッパ製、アメリカ製、中国製、韓国製いろいろあります。特にヨーロッパ製は憧れのピアノ!というのはなんだかんだ今でもあると思います。ただ共通して言えるのは...日本製のピアノに比べて部品の精度がかなり甘い。 いわゆる高級ピアノでも、同じ工具を同じ規格のはずの部品に使っても「こっちには入るのにこっちは入らない...」などは当たり前、細かい部品の仕上げも意外と粗くてびっくりします。ここに風土とものづくりの考え方の違いが出てるなあ

世の中の多くのピアノは力を出し切っていない

ピアノのメンテナンスは調律だけしておけば完ぺきだと思われがちです。 でも実は調律ってピアノのメンテナンス全体の半分も占めていなくて、世の中のピアノの大半は残りの部分手つかずなことが多いです。 ピアノの全メンテナンスを優先度順に分けるとこんな感じでしょうか。 A【必須な作業】 →弦の断線や音が出ない故障などの修理 B【ほぼ必須な作業】 →音を合わせる調律 ------------ここまではやっていることが多い-------------- C【やったほうが良い作業】→

「調律のピッチ」について考えてみた

ピアノのピッチをいくつで調律するのが良いかという問題があります。国際基準はラの音=440Hzですが、多くのホールでは442Hzだったりヨーロッパではさらに高いピッチが主流だったり、◯◯Hzの響きがカラダに良かったり悪かったり(?)なんて話があったり... もちろんレコーディングや合奏では特定のピッチに合わせる必要がありますが、最近は自宅用、特にソロで弾く場合はあまりとらわれない方が結局良いなと思っています。 と言うのもピッチありきで調律をすると、時にピアノの負担を無視して

「隠れる不具合」について考えてみた

ピアノを弾いていると鍵盤やペダルから異音、雑音がすることがあって、その対処に伺うことも結構あります。 厄介なのが、直しに伺った日に限って症状が出てないことが多いんですよね。なんなんでしょうあの現象は... お客様も申し訳なさそうに「昨日までは確かに異音がしてたんですが...」となりますし、僕も予想を立てて怪しいところに油を注すくらいしかできることがないので、結局解決したのかどうかもわからず申し訳ないまま帰ることに。 最近自宅の庭の電灯の調子が悪くて、たまに激しく点滅して

「“あたりまえ”の変化」について考えてみた

「ピアノには乾燥しているほうがダメージが大きいんですよ」という話をするとたいていの方が驚かれます。 ピアノ=湿気に弱いというイメージは強いと思いますが、乾燥に弱いというのは8割くらいの方がご存じない気がします。 なので湿気対策は万全でも、乾燥対策は全くされていないピアノがたくさんあります。 現在日本にある多くのピアノは1970年代、80年代の製造で、その頃は環境が今より多湿寄りだったため、メーカーや楽器店も湿気対策は強く啓蒙していましたが、乾燥対策はあまり口うるさく伝え