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「本気で教えたいと思う人になれ!」田舎のド素人中学生たちがわずか2年で全国優勝した時の話


#大切にしている教え

私が大切にしている教えは、中学時代の部活の先生がよく言っていた言葉。

「本気で教えたいと思う人間になれ」
です。

田舎のド素人集団がわずか2年で全国優勝へ

私が中学に入学した初日に出会った担任の先生も他校から移動してきた若い先生でした。

そのK先生はクラスでの挨拶で
「ところで、この中に女子テニス部に入ろうと思っている人いるかな?もしいたらぜひ俺と一緒に全国大会を目指そう!県大会優勝は確実に保証する。」
そんなことを言ったのです。

吹奏楽部に入ろうと思っていた私でしたが、
「なにそれ、面白そう!」
とあっという間に感化され、女子テニス部に入ることに。
ラケットを握ったことも、ボールを打ったこともない状態でしたが、ワクワクした気持ちしかありませんでした。

そして入部した女子テニス部。
まず初日からバンバン球を打ちました。
K先生の方針は「全国どこのチームよりも多くボールを打つ」でした。
「君たち球拾いがしたくて入ったわけじゃないもんな」
という、当時としてはかなり進んだ考えの人でした。

球を打つことで、みんなあっという間にテニスの虜になりました。
先生の作戦勝ちです笑

そして土曜日の練習終わり。
「明日の日曜日は練習は休み。でも球を打ちたい人は朝9時にコートを開放するから来てもいいよ。」
と言いました。

土曜日の夜は弱い雨が降りました。
私はすっかりテニスの虜になっていたので、
「明日コートが水浸しになっていませんように!」と祈りながら、
日曜日の朝は早めに行きました。
ワクワクして待ちきれず、9時と言われていたのに、8時には行っていました。
すると、同じように虜になっていた7,8名ほどがちらほらと集まってきて、みんなでワイワイとコートの水をスポンジで吸い取り、なんとか使えそうになったので8時半ごろからボールを打っていました。

すると、9時に先生が来て(実は8時頃から来ていて、影からこっそり様子を見ていたらしいです)

「こんなに早い時間から、こんなにたくさん来ると思わなかった。昨日雨も降ったのに。お前ら全国優勝目指せるぞ」

と言ったのです。

全くのど素人で、まだラケットを握って1週間のわたしたちに向かってです。
当然みんな冗談だと思って、ポカーンとしていたと思います。
そして、その時は道のりの厳しさも全く想像していませんでした。

予言が当たった日

しかし、その先生の予言は当たりました。

私たちのチームは、まず1年生の秋の新人戦では県大会出場。
2年生の中学校総体は3年生に混じって戦い県大会準優勝。
そして丸2年の猛練習を経て、3年生の春に出場した春の選抜全国大会でついに全国優勝を果たしたのです。
3年生の最後の中学校総体は、北信越大会で小学校の頃からクラブチームでテニスをしてきている格上の選手たちが目白押しの他県チームを連続で破り、全国大会出場。
全国では惜しくも準々決勝で負けて、全国ベスト8でしたが。

ほぼ先生の予言は当たりました。
しかも、30名ほどいた同じ学年のテニス部のメンバーの中で最後の全国大会のメンバーに入っていたのは、あの時、最初の日曜日に「来たかったらおいで」と言われた時に自主的に集まったメンバーだったのです。


俺を本気にさせたのはお前たちだ

先生は良く言っていました。

「俺を本気にさせたのはお前たちだ。」
と。

「俺はこの学校で自分が普通に指導したら県大会優勝は目指せるなと思っていた。そして北信越大会で優勝して全国大会出場できたらいいなぁ、と漠然と思っていた。(※先生は前任校で北信越大会で負けて全国大会出場はできませんでした)

でも、最初の日曜日、雨も降ったし誰も来ないだろうなと思いながら行ったら、9時前からお前らが集まってコートを使える状態にして、一生懸命練習している姿を見て、自分が恥ずかしくなった。

自分の言葉を信じて、やる気に満ちて集合時間よりも自主的に1時間も早く集まる子たちがこんなにいる。
それなのに、自分は「全国大会出場できたらいいなぁ」くらいにしか思っていなかった。
自分の覚悟が決まっていなかった。

みんなの姿を見て、自分の中に本気でこの子たちを育てて、全国優勝させたいという気持ちが芽生えたんだよ。
本気にさせたのは、君たちなんだよ。

ここまで自分が熱い気持ちにさせられたことはなかった。
だからみんなには感謝しているし、
これから先の人生も、本気で教えたいと思うような人間を目指してほしい。」

私たちは後から知りましたが、先生は前任校で県内では敵なしの優勝常連校を作り上げていたのでした。

しかし、北信越大会の厚い壁が破れず、「やっぱり中学に入ってからラケットを握るような子たちでは、小学生の頃からやっている子たちには勝てない。全国大会は難しいのかな」と半ば前任地で燃え尽きていて、もうこの学校ではそこまで本気でやらなくてもいいかなと思っていたそうです。

先生は転任してきた時、既に全国大会を目指せるような名将で、そのノウハウもありました。
けれど、その力を最大限引き出せたのは、まだラケットを握って1週間足らずの私たちの「テニス楽しい!もっと上手になりたい!」という素直な熱い気持ちだったのだと思います。

どんな名将でも、名経営者でも心に火がつかなければ、その真価は発揮されない

この経験から私は、どんな名将でも、本気で心に火がつかなければ本当の真価(指導力やリーダーシップ、経営力など)は発揮されないのではないかなと思っています。

そして、これは部活やスポーツに限ったことではなく、仕事においても同じなのではないかなと思います。

どんな素晴らしい指導力やノウハウを持っている人でも、必ずしもいつも全力が出せるわけではないのでしょう。
彼らも人間ですから。

ですから、自分がその力を最大限発揮してもらいたいと思うのなら、「本気で教えたい」と思う人間になることです。
そういうチーム/集団になることです。

本気でやろうという気持ちを引き出せた私たちも、そういう気持ちを持てた先生も幸せな出会いだったのだと思います。

テニスの指導よりも何よりも、私の中ではこの「本気で教えたいと思う人間になれ」が一番心に残っていて、30年以上たった今でも大切にしています。


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