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セシボンといわせて(一日目②)


〈一日目②/日中/雨〉 


 朝、6時半。外は薄く黄色に染まっている。暑い夏の日の始まりの色。洗い物をしながら何とはなしに顔をあげる。窓からすぐ目の前に植木がある。濃い緑の葉の手前の一枚に蝉の抜け殻が残っている。その隣のかしの木を黒い色がずずずっっ、と落ちていく。トラ縞の子猫は上手く登っているのに、黒い子猫の方が何度も落ちかけ、それでも懸命に練習していた。母猫が近くで身体を舐めながらこちらを窺っている。
 片や自由な外の世界で、片や不自由なケージの中で。

  囲われたセツの世界は、私の勝手、私の意思で分けられた。


 2時間ほど経って車庫へ行くと、ケージにかけてあった筈の古いワンピースが、ケージ内に引きずり込まれて丸まってクシャクシャになっている。角にあったので、ケージの柵の隙間からずるずる引っ張り出す。
 ゼリー状のちゅーるをあげようとしたが食べない。セツの目が強烈な負のオーラを放ち、負い目のあるこちらが落ち込んでいく。
 散々暴れた痕跡はケージの床に敷いていたバスタオルを見ても明らかだ。おそらく狭いケージ内で引っ張り回したのだろう。トイレ代わりのバスケット(100円ショップで購入)をバスタオルの上に置いてあったので、斜めになって砂がこぼれている。慣れるまで、トイレは砂系を使うよう勧められ、固まるタイプの砂を用意した。それが飲み水の皿にドッサリこぼれて、皿の形に平たく丸く固まっていた。
 その後も時折車庫を覗くけれど、目が合う度に責められている気がしていたたまれない。 動物病院の先生は二ヶ月はケージから出さないこと、と仰ったけれど。
 

 ここから二ヶ月なんて。
 

 まだ始まったばかりなのに。


 雨が降りだす前にバスに乗って保健所まで捕獲器の返却に行く。借りたのは二度目だ。 初めて借りた去年は、セツとその姉妹猫も捕まえて去勢した。まだ1年にもなっていない。
 返却手続きを終えた帰り道、ボタボタボタッと振り出した雨はあっという間にザアザア降りになって、傘も震えるほどだった。


 やっと帰宅し、セツのケージを見に行く。
鳴いていたのかもしれないけれど、足音で人間が来たのは分かるから、こちらが行くと息を潜めている。

「ねえ、セシボン、って言わせて。セシボンって呼ばせてよ」

  口に出してしまって、更に押し付けるなんて、それともセツに甘えているならお門違いだよ、と自分が嫌になる。


 遅い昼食を済ませる。気が落ち着かない。どうにもやりきれずとうとう犬猫センターに電話してしまう。本当に二ヶ月も閉じ込めておかなくちゃならないのか。どうしたらいいのか、気休めでもいいから知りたかった。
 前に電話で相談した時も気さくに親切に相談にのってくれた。同じ人ではなかったけれど今日も親身に優しく丁寧に応対してくれる。
 先生が仰るなら二ヶ月出さない方がいいでしょう、とのこと。そして、

「お話を聞くところだととても優しい猫ちゃんですし、5年とかじゃなくて1年数ヶ月しか外で生活してないなら、なんとかなるかもしれませんよ」

 その言葉に少し嬉しくなる。すがる思いで、ちょっとずつ心も静めようとする。


 当初、夕方から母と二人で出かける予定があったのが流れた。 

 心底ほっとした。


※続きもございます…※

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☆☆☆☆見出し画像はみんなのフォトギャラリーより、にきもとと様の作品『移動中。』を拝借しております。ありがとうございます😊☆☆☆☆☆

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