雨の鹿野天神祭、網代車と和紙灯ろう
7月30日。
毎年のこの日、山口県周南市鹿野地域では「鹿野天神祭」が行われます。
二所山田神社に併祀された菅原神社の例祭である鹿野天神祭は、鹿野に住む人たちにとってはとても楽しみな日のひとつ。露店が立ち並び、さまざまな出し物が祭りを盛り上げるこの日は、鹿野のメインストリートがたくさんの人であふれかえる日でもあります。
自分も、子どもの頃からこの日はとても楽しみでした。
祭りの日は朝からなんとなくそわそわして、夜がずっと待ち遠しかったのを思い出します。
夜が来て、遠くからにぎやかな声が聞こえ始め、真っ暗な道の先に灯かりが見え始めると、歩くスピードもどんどん速くなっていったのも、いい思い出です。
そして今年の天神祭
時刻は夕方6時。まだまだ明るいこの時間にやって来た祭りの会場には、ソーダ水にイカ焼き、フルーツチョコなど、さまざまな露店が並びます。
あいにくの曇り空の下ながら、たくさんの人が歩いていました。祭りが始まるんだな……と、子どもの頃のように、祭りの音や人々の声、露店に下がる電球の光に、ワクワクしてくるのを感じます。
晩ご飯を会場で食べようと、いろいろ買い込んでいると……。
なんと、雨が降り出してきました。
屋台の光が温かく会場を照らし、その光を透かした雨傘がいくつも並んで歩いている様子は、とてもきれいでした。
降ったり止んだりという雨の中、祭りにやって来た知人に声をかけられては世間話をしたり、クジ引きの屋台を眺めたりと、祭りの時間をじっくり楽しむことができました。
祭りの最高潮
そして、周囲が暗くなり、天神祭のメインイベントとでもいうべき出し物の時間がやってきました。
そのひとつが、菅原道真公を迎えに行く役人たちを模した「大行司」「小行司」。馬に乗って会場を進む姿は必見です。
大行司、小行司の他にも、天神祭には鹿野の各地区が担当するさまざまな出し物があります。
自分の住んでいた地区は、毛利公の大名行列の様子を再現した奴道中を担当しています。
今年は奴道中自体が祭りに参加できなかったのですが、独特の歩き方で歩きながら、お互いの持つ人の背丈の何倍にもなる長柄を投げ渡す役や、横長の箱に二人で持つための柄がついた挟箱をかつぎ、「イーヨイシ」という掛け声を上げながら歩く役など、さまざまな役を地区の皆さんで分担して行います。
自分も挟箱を持ったことや、従士という陣笠に羽織袴姿で練り歩く役で参加したことがあります。
しかし、なんといってもこうした出し物の中で、最も激しく、目を惹くのが網代車の御神幸です。
裸の上にさらしを巻いて、足は足袋。裸坊と呼ばれる若者たちが、人の背丈よりも巨大な網代車(牛車の一種)を、祭り会場の中で縦横無尽に引き回す……そういう出し物になります。
勢いのついた網代車はそうそう簡単に止まるものではなく、静止させるときは、くびき(車を牛や馬に引かせる先端部分)を地面にこすりつけて止めるのですが、その際にはアスファルトと金属部分が擦れ合って、火花が飛び散ることもあります! 十数人の裸坊が力いっぱいに押す網代車の勢いを感じますね。
消防団の皆さんが、ピーッと警笛を吹くと、「どけどけどけーっ」と裸坊たちの叫ぶ声が聞こえてきます。全力で引き回される網代車は、近くで見ていると巻き起こった風がぶわっと顔に当たるほどのすさまじい速度。巨大な車に接触でもすれば、ただのケガでは済まされない勢いなんです。
ついつい興奮して身を乗り出してしまいそうですが、身の安全、そしてけが人を出して、網代車が中止……なんてことにならないように、遠巻きに見つめるのがいいと思います。
それでも、目の前で裸坊たちの全力疾走を見ていると、思わずその迫力に引き込まれてしまいそうになります。自分が引いているわけではないのに、一緒に参加しているような、そんな感覚を覚えます。
この網代車が走る様子だけではなく、網代車を回転させる様子を見ることもできます。露店が並ぶ道から会場に入り、網代車の回転を披露して、また路上に出て全力で引き回す……これを体力と時間の許す限り繰り返すのが、鹿野天神祭の醍醐味です。
雨がぽつぽつと降り続く中で走り続ける網代車は、今年も見ごたえばっちりでした。
神社の参道に光る、ちょうちんと灯ろう
目を奪う網代車の披露も終わり、帰宅する前に二所山田神社の境内へやって来ました。
参道にはたくさんのちょうちんが並び、夜の暗さもあわせて神秘的な雰囲気を醸し出しています。
参道のそばの道には、鹿野地域の誇る特産品である山代和紙を使って作られた灯ろうが並んでいました。
色とりどりの和紙に包まれているのは、現代らしさを感じるLEDの光です。そのおかげで、雨の中でも輝きを失わず、道をほんのりと照らしていました。
この和紙灯ろうも、地域の方が並べたもの。
各地区の出し物はもちろん、にぎやかな会場を離れたところでも、鹿野天神祭を支える光があることを感じました。
たくさんの人の力が、さまざまな形で支えている鹿野天神祭。
来年もきっと、素敵な思い出を作ってくれることと思います。
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