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「軽率な買い物」は「運命の買い物」でもある

鞄を買った。

黒の、柔らかい牛革の、斜め掛けの、小さな鞄を買った。

洋服のデザイナーをしているけど、鞄の方が本当は好きなのでは?って思う時があるくらい、鞄が好きだ。特に革の、小さい鞄。

以前一緒に仕事をしたイラストレーターの方が「小さい鞄は女子の特権だと思うから好き」と言っていて、首がもげるかと思うくらいに頷いた。わかり過ぎる。


小さい鞄、その可愛さは計り知れない。

そして小さい鞄には、小さい財布がセットである。


仕事柄、洋服以外のアイテムのトレンド情報ももちろん聞くし、自分でも市場のチェックは欠かさないのだが、「女子の小さい鞄」は年々小さくなっている

鞄が小さくなるに当たって、自動的に財布も小さくなっていった。

私が専門学生だった5年前くらいは私も含めみんな長財布だったのに、今や本当に財布として機能してるのかすら謎くらいの小さい財布が主流になった。

財布と鞄が小さくなった原因は、ミニマリスト、キャッシュレスがトレンドの時代になったから。財布も鞄を必ず持つ物であり、必ずセットだ。どちらかが小さくなれば、どちらかも小さくならなければいけない。

そんなこんなで、市場には私が愛してやまない小さな革ものが溢れかえった。


お陰で多くの出会いを果たしたのだが、どれもかなり軽率に買った。みんな運命の出会いだった。


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今もデイリーに使っているTIDEWAYの鞄。出会いは3年半前で、それは500mℓのペットボトルを入れても余裕がある、かと言って大きすぎない優秀サイズの斜めがけ鞄。

鞄を買うつもりは無かったのに、初任給をもらったばかりだったから、と思い立ったように購入。2万円くらいで当時の私には安くなかったから、これを何年も大切に使おうと思った。


デザイナーになってすぐ、イルビゾンテの小さい財布を買った。

そもそも私はブランド物の財布を買うつもりでいた。プラダにするか、ミュウミュウにするか、フェラガモも可愛い。社会人2年目だし、そろそろブランド物を持ちたいと思っていた矢先にその財布に出会ってしまった。

黒にするかネイビーにするか。ネイビーは薄い黒にも見えるような、よく見なきゃわからないネイビーなのだけど、その微差に悩まされて店員さんと1時間話し込んだ結果ネイビーにした。家に帰って自慢げに母に見せた時、「ブランド物にするって言ってなかった?」と流石に言われた。

「うーん、でもなんか、この子がピンときたの。」

言葉の通りでこれは今でもすごく気に入っているアイテム。柔らかいネイビーの革が年々艶めいてくるのが凄く可愛い。財布の方から寄り添うように、私の手に馴染んできている気もする。本当に本当に、お気に入りだ。


去年の春、他では観たことのない絶妙なグリーンの革の鞄に出会った。その鞄は小さ過ぎなくて、ペットボトルと小さめのノートを入れても余裕があるような、でも大きいとは感じさせない優秀なサイズだった。パリ旅行前だったので、絶対にパリに連れて行きたいと思い、決して安くないのに衝動買いした。未だにこのグリーンの革には出会っていないし、センス良いなあと思う人に必ず褒めてもらえる自慢の鞄だ。


去年の夏、ワンピースを買いに古着屋に行ったのにオールドコーチの茶色い鞄を買った。
財布と小さいポーチを入れたら限界サイズの斜め掛け鞄。古着だと「ここで逃したらもう買えないかもしれない」という焦りが物欲を加速させる。ワンピースの事はすっかり忘れて、それも2万円くらいだったけどかなり即決で購入した。


そして昨日、鞄を買った。この記事の1番最初に書いた鞄。

1週間前に見かけたその鞄がなんとなく頭から離れなくて、鞄はたくさん持ってるし買わないけどね、と思いつつも近くに用があったのでついでに見ようと決めていた。

A.P.Cにフラっと入って店内を一通り観て、可愛いなあ、A.P.Cの小さい鞄、5万円かあ、いつか買うなあきっと。なんて考えた後、SLOWという、頭から離れなかった鞄のあるそのお店に行った。

柔らかくてマットな黒い革。絞ると巾着みたいな形になる、縦長で柔らかいフォルム。中を開けてみると仕切りが多くて使いやすそうだ。26000円。さっき全く別の買い物で3万円使ったばかりなのだけど…


欲しい。


そこでタイミングよく店員さんが話しかけてくれた。売り込むと言うよりは、私が一目惚れしたその鞄のことを色々教えてくれた。

私は既に鞄を買う気でいたのだけど、店員さんの話は革ものに目がない私には興味深い内容ばかりで、なんだか楽しくて「これ買います」って言うまでに時間がかかってしまった。


会計の時にイルビゾンテのお気に入りの財布を出すと、店員さんは「良いネイビーですね。大事に使ってるんですね」と褒めてくれた。

一目でこの色をネイビーと分かるその見る目も、「大事に使っている」という褒め方も、すごくすごく嬉しかった。良い買い物をしたと思った。店員さんとのやりとりも含めて。


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私は「ブランド物ではない、作り手の表情が伝わるような小さな革もの」がとにかく好きみたいだ。そしてその好きでたまらない物たちは、思えばいつも軽率に買ってしまっていた。

鞄を買うつもりはなかった。
ブランド物を買うつもりだった。

そんな予定をすっかり無視してしまうくらいには、衝動で買い物してしまっている。

よく考えずに買っている割には、そのアイテム達は全て運命だったとしか言いようが無いくらいに、私に合うアイテムとして現役で活躍中だ。間違えたなあと思ったアイテムは一つもない。


「よく考えて買い物するべきだ」と言うけれど、それも間違いないのはわかるんだけど。

直感に従って軽率に買ってしまったものこそ運命の出会いだったなんてことは少なくない。値段の高いもの程、そんな気がする。


大好きな財布と鞄たち。これからも使い続けていくし、仲間はどんどん増えていくだろう。

予定外で軽率な買い物が、私は辞められないからだ。


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