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フランスのバスツアーで知らない夫婦が置いてけぼりにされた話①

いつだって海外旅行はワクワクの連続。
そのワクワクの中には、見たことない景色を見たり、ずっと行ってみたかった場所に行ったり、あるいは日本では簡単にできることが何かとうまくいかないスリルなど、色々な要素がある。
だけど、やっぱり1番は人ではないか。
その国独特の文化や考え方で育つ、異国の人間はやっぱりおもしろい。
ホテルマン、タクシー運転手、海外で出会う現地の人はいつだってワクワク要素を持っている。

だけど、何カ国か回ってから私とNは気付く。

結局1番面白いのは日本人なのでは、と。

そう思わせたひとつのきっかけ、鈴木さんと共に行ったツアーの話をしたい。

鈴木さんは私とNが唯一参加したバスツアーのツアーガイドである。(協調性がないのでバスツアーなど、時間の規制が強めのものは基本的に合わないので参加しない。)

そのバスツアーの行き先はモンサンミッシェル。
ゴールデンウィークに行ったパリ旅行の締めの、大切な日帰りツアーだった。

日本で予約したそのバスツアーは、
現地の外人運転手、おそらくフランス人のガイド、日本人ガイドというスタッフ3名と、私たちを含めた客は全員日本人だった。
バスは3台。
1号車のガイドは早口のおばさんで、集合時間の時点で日本人ツアーガイドの模範のような厳しさだった。2号者は中国人の女性のバスガイド。
私とNは早口おばさんを一目見て「怖、、、」と声が漏れた。

私たち3号車のガイドは鈴木さんで、30代半ば(に見える)の冴えないおじさんだ。
バスガイド特有の急かされる感があまりなさそうなおじさん。
とりあえず早口おばさんじゃなくて良かったと思った。

その日は日曜日で、パリ市内でデモがあることを予想した私たちはあえてモンサンミッシェルのツアーをその日に当てた。
案の定鈴木さんもそのようなことを言っていて、土砂降りで気温が5度(5月なのに)にも関わらずデモが行われていた。

鈴木さんの口癖は「えーとですね、」だった。
というより「えーーーー、、」と「ですね」だった。
ほとんどの文章が「えーー、、」と「ですね」のサンドイッチだった。
この日私たちは一生分の「えーとですね」を聞いた。

鈴木さんはフランスの事情を日本人目線で話してくれて、
凱旋門が2つあるとか、ベルサイユ宮殿の歴史だとか、旅行に行く人間として丁度いいレベルの知識をわかりやすくたくさん教えてくれた。とても親切で、ガイドとしてとても良い。

と思いきや、凱旋門を超えたあたり、ガイドの途中なのに突然声を張り上げ出した。

「左手をご覧ください!あのですね!!あの黄色いベストを着たやつらがですね!!あの連中がですね!!!デモ隊でございます!!!!」

それまでなんの話をしてたかは誰もが忘れた。
黄色いベストを着た連中をとにかく見せたかったらしい。デモ隊なんて日本ではなかなか見れないし、ありがたかったけど、バスガイドがあんな熱量で見せたがるものでは無い。

そのあとトイレ休憩で寄ったパーキングでも、鈴木さんは独特だった。
集合時間5分前になり、1号車の早口おばさんが大声で集合をかけ、2号車の客も集まり始めている中、鈴木さんは1人で「えーー、、運転手が、、いない、、トイレから帰ってこない、、」とぼやいていた。頼りなさは多少あるが、早口おばさんよりも私たちには持ってこいなバスガイドではあった。

トイレ休憩のあとにまた少し進み、私たちはポン・レヴェックという小さな村で止まった。
バスツアーはモンサンミッシェルだけでなく、フランスの美しい村に登録されているこの村でも止めてくれるという内容だったからだ。

土砂降りだったのが残念だったが、街並みも小さな教会もとても可愛い村で、与えられた25分ほどの時間でも大変満足だった。

ポン・レヴェックを出るとすぐに高速に乗り、ここからは休憩なしでモンサンミッシェルへ向かうとのことだった。

外の景色はずっと牧草を食べる馬と牛が続く。
そんな景色は不思議とずっと見ていられる、、、心穏やか、、、。

そんな中、鈴木さんはずっと電話をかけている。フランス語を喋ったかと思いきや、日本語で話し始める。
何を言っているのかはっきりは聞こえないが、なんとなく嫌な予感がした。
多分3号車の客全員が不穏な空気を感じていた。
不穏空気の中、鈴木さんの声だけがしていた。

20分ほど走ったバスはUターンした。
ん?こういう道??と思ったが、明らかにUターンしている。
高速を、Uターンしたよね???

そして鈴木さんはこう言った。

「えーとですね、、すこしミスがありまして、、、

2号者の夫婦が1組、先程の村に置いてけぼりにされておりまして、、、

3号車の我々が探しに行くことになりました。」

私たちは何頭見たかわからない牛と馬を見ながら、2度目のポン・レヴェックに向かっていた。
往路なのに。

②に続く

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