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中山七里『もういちどベートーヴェン』

呼吸の仕方をようやく思い出したかのように、本を読んでいる。

彼の作品を初めて読んだのは、確か中学生のころ。
『さよならドビュッシー』。
そのタイトルと表紙の可愛さに釣られて、手に取った。
当時ピアノを習っていた私は、練習も嫌いだったし、熱をもって取り組むわけではなく、でもピアノを習っている自分に酔いしれていた、と今となっては思う。私が親だったら月謝が勿体なくて絶対辞めさせていた。申し訳ない。
それでも、ピアノを題材とした小説はどこか親近感があり、知らないクラシックを背伸びして知った気持ちになれたというのがこの小説を気に入った理由のひとつでもあるだろう。
当時既に刊行されていたシリーズ第2弾、『おやすみラフマニノフ』を読み、すっかり彼の作品に魅了された私は、このシリーズだけでなく様々な彼の作品を読んだ。乙一だったら書き分けているだろうなというような、ダークな作品もなかにはあって、それでもやはりこのシリーズがいちばんのお気に入りだった。

久しぶりに図書館に行った一昨日、いつものように彼の作品の棚を見に行くと見つけた『もういちどベートーヴェン』。隣に並んでいた『さよならドビュッシー』『おやすみラフマニノフ』『いつまでもショパン』は読んだ記憶があり、意気揚々と手に取ると2019年に刊行されていた。ちなみに、多分貸出中で棚にはなかったがこの間に『どこかでベートーヴェン』が刊行されていた。残念ながら、この作品から記憶が無い。ただ、あらすじを読む限り読んだことはあるな、という印象。なにせ、このシリーズを読み始めたのも中学生のころ。7年以上前。忘れていても仕方ない。

実際今回読みながら、もういちど、このシリーズを初めから読み直したいなという気持ちになる。一貫した登場人物である「岬洋介」を、いまだったら、昔の自分では読み落としていたところも含めて構成できる気がする。あるいは、今の私だからこそ読み落とすようなことがあるのかもしれない。

岬はいわゆる天才と呼ばれるような人で、天才に努力が乗っかると敵わないということを突きつけるような人物で、私はすごく好きだ。いわゆる「子ども」のころ、「努力は報われる」「努力すればなんとかなる」みたいなことを言われる世の中で、「凡人が努力して、努力しない天才に並べても、努力する天才には勝てない」という現実を突き付けられる感じがすごく好きだった。まだ「大人」と自負できるほど大人ではないけれど、最近ではそんなこと現実でもごろごろあるし、みんな知ってるから、天才に勝つために「努力しろ」なんてことあんまり言われないし、そもそも「努力する」という行為にすら向き不向きがあることを知った。
(こんなことを考えながら、頭の中で流れるBGMは「かつて天才だった俺たちへ」(Creepy Nuts)。この前歌番組で歌っていたwith 田中樹(SixTONES)ver.)

そろそろ本作のはなしに。
『もういちどベートーヴェン』。
初めに登場するピアノソナタ第30番。案の定聞いたことなかったけれど(あるいは聞いたことはあっても記憶には残っていなかったけれど)、いまはすごく便利な時代で、サブスクで検索をかけるとすぐにヒットする。小説に登場する音楽をBGMに読書をするなんて、なんて贅沢な時間だ、と浸っていたけれど、私は読書に夢中になると大抵周りの音が全て遮断される人間なので、いつの間にか音楽は止まっていたし、どんな曲だったのかも思い出せない。

やっぱり、彼の作品はすごく好きだ。いわゆる「ミステリー」と呼ばれる部類に入るのだろうか、謎がありその解決があるのだけれど、その謎や解決はそこまでミステリーに詳しくないのでおいておいて、話の景色が好きだ。ピアノの音色が、不安で口が歪む人間の顔が聞こえて、見えて、きそうな話だ。
どのくらい好きかと言うと、忙しい仕事前の朝の準備の時間ですら本を読みたいと思ってしまうほどに(結局読んだ)。
本作の次の巻も、既に出ているらしい。初めから読み直すか、うろ覚えの知識で次に進むか。次図書館に行って考えよう。

仕事に行く直前に本を読み終わったので、適当に借りてきた本の中から1冊とって、仕事に向かった。読んだことのない、恥ずかしながら聞いたこともなかった作家の、タイトルだけで惹かれた本だった。結果、貴重な仕事の休み時間が、素敵な読書タイムになった、というのはまた次のnoteで。

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