課長のあそこ12

「ただの石じゃないか!」課長が涙をこぼしました。

「正解です。川原に落ちていたから、タダでした」

「そのタダじゃない!」

「課長。そんなに赤くなっちゃイヤ」

「石ころが、銀座のギャラリーで売れるのか?」

「もちろん売れます」わたしは胸を、はりました。「バスト83」

「その情報は、いま、必要か?」課長は青くなりました。

 赤くなったり青くなったり、課長は、いそがしいお方です。課長は、立ち食いステーキが大スキです。お肉を食べれば赤くなり、お財布を見ては青くなります。

「バスト83の情報は、いま必要か?」くり返す課長のひとみは、そっくり返っています。

「毎日、なめてるくせに」

「毎日じゃない。たまに、おあずけを食ってる」

「世間では、それを毎日というのよ。おバカさん」

 そうです。課長はバカでした。わたしが、「銀座に、お店をもちたいわ。キャバクラで貯めたお金と、課長の退職金をあわせて、ささやかなギャラリーをひらきたい」……

 ……真に迫ったことばを、真に受けました。

 あぁ。

 中学のころ、「芸術家志望」だった、美術部キャプテンのわたし。高校時代は、美術部の副キャプテン。卒業後は、アート系の専門学校で、彫刻を学んだわたしです。

 銀座の画廊の女主人になる夢を持つのは、あたりまえ。

 そんなこととは、つゆ知らず。課長は、「こんな石ころのために、オレは会社をやめたのか?」と、いいました。

「だいじょうぶ。わたしは石に絵をかくわ」

「絵?」

「タダの石ころが売れるはずがないわ」わたしは課長をなぐさめます。「ひろってきた石に、わたしが絵の具で、色をつけるの。ウマやシカ、ライオンさんの、獰猛(どうもう)な絵をかくの」

「それがオブジェか? タダの石っころに、絵をかくだけで」

「ギャラリーの売りものですから。アートです」

「売れるのか?」

「だったら課長が、お絵かきしますか?」わたしは挑戦的な目で、課長のやせたほっぺを、つねりました。

(13話につづきます)

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