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Elon MuskがTwitterを買収する件

TAKA(@Murakami_Japan)です。今朝、衝撃の発表がありました。Elon MuskがTwitterへの非公開化を伴う買収提案をした。

38%プレミアムで$41.4bn、日本円で約5.2兆円!!
これは日本の時価総額ランキングで26-28位程度に相当。日本を代表するデバイスメーカー、村田製作所や日本電産の金額に相当する。
全業種のグローバルM&Aで見てもここ一年で最大規模、アストラゼネカやNVIDIAを超える。それを個人が、時代が変わった。
ところで、これから起こる一連の取引含め、インサイダーまがいのことをやって、いよいよSECに、、、という流れは避けてほしい。そうなると世界にとっても大きな人的資本の毀損になる。

Newspisksのコメントより

これから様々な動きもあるだろうし、世間の注目も高く、色々な観点で示唆を残す事例になると思うので、簡単に書き溜めておきたい。

これまでの経緯

2022年3月14日:Elon MuskがTwitter株式を取得
2022年4月4日:Elon MuskがTwitterの筆頭株主になったことが公表
2022年4月5日:TwitterがElon Muskを取締役に指名すると発表
2022年4月9日:TwitterがElon Muskを取締役に正式に指名する(予定だった)
2022年4月10日:TwitterがElon Muskが取締役に就任しないと(Elonが)決めたと発表
2022年4月14日:非公開化の提案を発表

マスク氏とツイッターのどちらも撤回の理由を明らかにしていない。マスク氏は11日の開示資料で、ツイッター株の保有率を現在の9.1%から引き上げることや、同社に何らかの取引実施を迫ることが可能になったと表明。ただ、そうした計画は現時点でないとした。

2022年4月10日:Twitter CEOはツイートで従業員に対し「今後の波乱要因」について警告を発する

マスク氏の取締役就任撤回については、「最善の結果」との認識を示した。

Twitter CEO tweet

2022年4月11日:Elon Muskは、週末に投稿したツイッターに関するコメントの多くを削除(※ツイッター上の広告排除や、社名からアルファベットの「w」をなくすなどの要求が含まれていた)

米証券取引委員会(SEC)で弁護士を務めたジェイコブ・フレンケル氏は、マスク氏が取締役就任を撤回したことは異例だが、証券関連法には違反していないと分析。
マスク氏が計画公表後に撤回したのは今回が初めてではない。2018年にテスラの株式非公開化計画をツイッターで明かしたが、実施はせず、SECから投資家を欺いたとして提訴された経緯がある。マスク氏とテスラが罰金を支払い、同氏が会長職から退くことで訴訟は和解した。

非公開化発表の意図を読み解く

色々論点はありますが、一つずつ考えていきましょう。

①取締役就任の意図

これなんですが、そもそもどちらから取締役への就任を打診したのか、報道を見ていると曖昧のように思います。一見すると、Elon Muskが「取締役として経営に参画してTwitterを変える」という趣旨で、Elon Muskから言い出したようなニュアンスも受けます。

ただ、実態はどうでしょうか?

3月14日に取得してから、Elon MuskからTwitter側に株式の取得した旨の伝達があった可能性があります。Elon MuskがTwitterの経営に物申したいということは、これまでのイベント登壇やTwitter情報発言から折り込まれたとすると、10%弱程度の株式の取得自体は驚きではなく、Twitter経営陣からすると、その次のアクションが気になっていた可能性があります。

そう、まさに今回のような買収提案などです。現にTwitter CEOが「今後の波乱要因」があると仄めかしていました。

余談ですが、今回の事件、すでに双方に相当強力なFAが起用されている可能性が高いと思います。というか、有事に向けて事前に起用しているとすら思います。なので、この取締役就任以来の時点でかなり周到な準備と議論があった可能性が高いと思います。

アクティビスト対策でよくありますが、「毒饅頭 食らわば皿まで」という諺もありますが、むしろ積極的に取り込んでしまおうという動きです。

社会的影響力が甚大なElon Muskを外部でフリーに動かすよりも、内部に取り込んだ方が御し易いということです。なので、今回Twitter側から、大株主になったんだから経営に参画してほしい、という打診をしたように思います。

そしてそれは今回公表された書面を見ても明らかです。取締役に"させる"ことで14.9%以上の追加取得を防ごうとしています。実際、取締役になると非公開重要情報に触れることになるため、インサイダー規制の中で身動きはかなり制限されることになります。

②敵対的買収になるのか

最終的にTwitterの取締役会が賛同すれば、有効的な公開買い付けになります。ただ、現時点ではそうならない可能性が高いと思います。

理由は2つ。

1つ目は、取締役就任の依頼を受けて、その後取り下げていること。そして、それは妥当な判断だったとTwitter CEOが公表していることです。明確に両者の経営方針に大きな隔たりがあったことを示唆しています。

2つ目は、以下のElon MuskのTweetです。注目すべきは最後の、"up to shareholders, not the board"とあるところです。明確にboardの判断は気にしない(=どうせ反対してくるだろう)、だから株主の皆様の意見に期待している、という趣旨がありありと見て取れます。

そして、(法令が許すなら)本来Twitterが好きで、Elon Muskが経営するTwitterをサポートしたい株主には、非公開化後も株主として残ってもらいたいという意向を示しています。現金化したい株主には高いプレミアムでExit機会を提供し、スクイーズ(排他)されたくない株主には是非残ってほしい、と株主に最大限の選択肢を与えようとしています。

どれも取締役会や経営陣ではなく、株主を中心としたステークホルダーへのメッセージであり、Twitterが経営陣の私物ではなく、広くステークホルダーに帰属するインフラであるというTwitterの特性を理解した、Elon Muskらしいコミュニケーション戦略です。

つまり「敵対的買収でも結構」というスタンスが滲み出ています。それを踏まえて、Twitter取締役がどのような対応をしてくるかが今後の注目です。

Elon Muskによる買収は成立するのか

成立するかまでは言い当てられませんが、さすがElon Musk、うまい戦術で今回仕掛けをおこなっているように感じます。

以下、オファーレターの短文ですが、ここで「必要不可欠なインフラであるTwitterは、このままでは繁栄も存続もしえない」と指摘しています。その後のtransformという言葉にも、現状維持の収益拡大戦略では、いずれプラットフォームとして廃れていく。だから、大きな構造転換が不可欠で、そのために非公開化する、という極めてシンプルなメッセージです。

何がうまいかということ、明らかにTwitterとしても社会的にもSNSのなんらかの構造転換が求められているタイミングだからです。昨年来Twitterが経営方針の変更で収益化に舵を切りましたが、結局市場からの賛同は大きくは得られていません。そして、巨大IT企業への規制強化、FacebookのMetaへの転換というWeb3の流れ、あらゆるものが現状維持の戦略では厳しいのではという疑問を突きつけているタイミングを狙っています

この手の非公開化はDell等でも実施されていますが、創業者等の経営側からのMBOです。大きな構造転換を外部個人からしかけて、その大きなリスクテイクをする、そしてプレミアムも54%としっかり払うことで株主のも魅力的な選択肢を提示しているというバランス感覚です。

資本市場の評価

Elon MuskのTwitterのトップにこのレポートが貼り付けられています。この2月のレポートを見て、Elon MuskがGSをアドバイザーに指名していても驚きません。が、実際はTwitterとも関係が深いMSをアドバイザーに起用しているようです。GSは基本敵対的買収にはアドバイスしないので、まぁそうなったのかという感じです。Twitter側がGSですかね?まぁ、これは余談です。

株価が$38だった際に$30の「売り推奨」を出しているレポートです。経営陣は楽観的で、今後投資先行の中で魅力的なリターンを創出するのが難しいという趣旨のコメントが掲載されています。

ただ、このGSのレポートは「一番の過激派」の声という見方もできます。実際、多くのリサーチアナリストはこのタイミングでTwitterの評価をすることを先送りし、様子見/妥当を意味するHOLDが大半です。その中で買い推奨など強気のviewを持つアナリストの方が多く、売り推奨は少数派に属します。

実際、株価の評価はMedianでは妥当、最高値では$75という強気なレポートも出ているぐらいです。これは$54.2のElon Muskの提案を大きく上回るものです(※ただこれは6-12ヶ月前まで$60-70を超える評価を受けいた時代の名残=not updatedかもしれません)。多少強気な意見もあるとは言え、足元は妥当/様子見とみれているように思います。

鍵を握る機関投資家

少し表読みもしてみましょう。Elon Muskの保有株式は9.1%です。

残りの78%は機関投資家が保有しています。逆に言えば、創業者や取引先などの安定株主は少数で、機関投資家の判断が最も重要になります。だからこそ、冒頭の通り、「個人を含めた株主に判断を委ねる」というメッセージが強力に機能するわけです。

特にTop10はすべて機関投資家ですし、かつそれだけで1/3以上を保有しています。個別にこれらの投資家の動向が重要になってきます。すでに具体的な価格で買収提案が出ている以上、米国でこのまま何もなしというのは難しいと思います。

Elon Muskのメッセージはシンプルで、日本でも最近あったSBI/新生銀行と同じで、当初からBest Priceで価格の引き上げ余地なしというスタイルです。実際、友好的買収に持ち込みたい場合は、交渉が前提であり価格の引き上げを何度か行う方が望ましいプロセスです。ただ、当初から交渉しないことを明確にしているあたりが、敵対的買収も辞さないスタンスが明確であるとも言えます。

実際の株価推移を見てみましょう。確かに$70程度まで上がった時期はあり、そこからすると今回の提案$54.2は割安とも言えます。

ただ、直近半年で大きく株価を下落させいますから、その水準$35あたりからすると十分魅力的な水準とも言えます。これを投資家がどう判断するかです。

なお、11月以降の株価下落はTwitterだけの影響ではなく、グローバルな株価調整、特にグロース企業への株価調整の影響が大きいです。そしてその後の金利上昇。足元の業績が芳しくないTwitterは、長期的な成長期待を織り込み辛く、株価も芳しくないのは仕方ないところでしょう。逆に言えば、その市場の調整局面の間をElon Muskがうまくついたとも言えます。

以下は、直近四半期のハイライトですが、売上はなんとか成長していますが、それ以上の材料を示すことができていない状況も浮かび上がります。最後に自社株買いを発表していますが、株価の低迷を受けて、free cash flowが大きく創出できている状況ではない中でやっていますから、短期的に成長でリターンを還元することが難しいということの裏返しとも言えます。

なお、日本のスタートアップへの影響について、年初にnoteを書いていますが、こちらも興味ある方はご覧ください。

Elon Muskはタダでは転ばず、Web3はさらに加速

とまぁ、結局どうなるんだと思われた方も多いでしょう。実際、どうなるか分かりませんが、Twitterの潜在的な企業価値はもっと高い可能性は確かにあるように思います。それはElon Muskが言うように構造転換を行うことによって実現できる大きなアップサイドに寄らずとも、転換期に市場調整が入り、今が株価のボトムである可能性もあるからです。

直近決算まではGSリサーチが言うように費用先行で、具体的な成長シナリオを示しきれておらず、$30という厳しい評価を受けています。ただ、Web3の時代において、Twitterが持つユーザー基盤、可能性は大きいとも言えます。MetaやMSから出遅れることを懸念する、グローバル大手企業にとって格好の買収先と言えるかもしれません

今回具体的な値札がついたことで、やはりメインシナリオはホワイトナイトの登場でしょうか。そうなれば、Elon Muskは短期的に1,000億円のリターンを出してExitということになります。そして、ホワイトナイトの元でより良い経営がされれば、Twitterも良くなった、と言うことができるわけです。

その意味で、このタイミングで買収提案を仕掛けた意味は面白いほど大きいと言うことです。そして、Web3のトレンドはどう転んでもさらに加速すると思います。

なぜ今、買収提案を仕掛けたのか、その合理性

最後にまとめておくと、こんな感じでしょうか。

1)地政学上リスク、巨大IT規制強化
  >Transformationの必要性が高まる
2)Twitter株価が低迷している局面
3)Web3のトレンド 
  >ホワイトナイトの登場可能性
4)ロバストな出口戦略
  >転んでもただでは転ばない

長文、読んでいただきありがとうございました。よろしければTwitterで拡散くださいませ(笑

参考:財務数値

Twitter投資家資料より:先行投資で収益性は悪化
Twitter投資家資料より:ユーザー数は米国外が成長も売上は米国に依存
Twitter投資家資料より:先行投資で収益性は悪化
Twitter投資家資料より:FCFも赤字だが株主還元は実施
Twitter投資家資料より:先行投資=開発と広告
Twitter投資家資料より:米国のmDAUは頭打ちだが、売上は拡大させる戦略方針の結果
Twitter投資家資料より:米国売上拡大でも収益力は大きく改善しておらず
Twitter投資家資料より:FCFはそれほど潤沢ではない

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