Elon MuskによるTwitter買収、その後のシナリオ
TAKA(@Murakami_Japan)です。Elon MuskによるTwitter買収提案から一夜明けました。日本時間の昨日金曜日に報道をみて、ざっと書き留めたものは昨日のトピックスに投稿していますので、良ければまずはそちらを見てみてください。
早速次の動きが出てきました。初動としてTwitterの取締役会が買収防衛策の発動を全会一致で決議しました。予想屋になりたいわけではないので、あまり予想めいたことは(思っていても)書かないようにしてますが、この動きはある程度予想できた流れです。Elon Muskもここまでは想定して提案したに違いないと思います。優秀なフィナンシャル・アドバイザーも起用しているようですし、相当シナリオ分析はやった上での提案発表ですから間違いありません。
そしてインタネット&ソフトウェアに強いファンドであるThomas BravoがTwitter買収に意欲を示しました。役者が徐々にステージに上がり、"in play"待ったなしです。
さて、買収防衛策発動が決議されたことで、今後の展開というかシナリオがもう少し絞られてきたと思います。昨日のトピックスでも示唆していた方向性ではありますが、買収防衛策発動したことを受けて、現時点でのシナリオについて簡単にだけ書いておきたいと思います。
買収防衛策が発動された意味
買収防衛策とは
買収防衛策、"Poison Pill"と言われるものです。あまり専門的なことは書きませんが、要はElon Muskによる株式の買い増しを制限するためのものです。
企業価値は以下の算式で求められます。最もシンプルに言えば株数と株価がポイントです。
Elon Muskには既に取得済みの9.1%の株式があります。この価値はあくまでも株数と株価が今と同じであれば維持されるものですが、株数に変化が起きてしまうと価格が下落してしまうのです。"Poison Pill"とはElon Musk以外の株主に対して、有利な価格(at a discount)で新株を発行することを指します。
企業価値は本源的な価値なので変化しないとすると、株主価値も変化せず、単純に株数だけが増加することになります。そうすることで、株価が下落してしまうのです。その結果、Elon Muskが保有する株式の価値が下落してしまうのです。
このメカニズムが発動するのは、今回のケースだとElon Muskが15%の株式を保有する場合、つまり追加で5.9%以上の買い増しをした場合に有効になります。
その意味は
ご理解の通り、取締役会はElon Muskを「敵」であると認識していることになります。もう少し正確に言えば、「敵」である可能性が高い、株主価値を毀損する可能性が高い存在であると認めたことになります。
株主価値に関して言えば、Elon Muskは全株取得するわけなので、Elon Muskの買収提案が「実効性がある」と判断できれば、それは一株$54.2を指します。
逆に言えば、「実効性がない」と判断すれば、その提案の価値を有しないことになりますが、Elon Muskが資金調達をすることができるのか、regulationを含めて承認が取り切れるのかが大きな論点ですが、この点を争うとすると政府の介入なしには難しいように思います。なぜなら、今回の買収は5兆円を超えるとは言え、Elon Muskの総資産からすると1/6程度ですし、株式担保や資産売却などいくらでもその方法はあるでしょう。FAが付いていますし、その点も万全のバックアップの準備を進めていることでしょう。
ですので、メインシナリオは$54.2程度では、十分にTwitterのフルバリューに達していないということを意味します。取締役会としては株主に対して、$54.2は十分な価格ではないことを説明する義務が発生しているのです。
時間稼ぎ
買収防衛策は取締役会決議で実施しています。ただ、この点について株主から申し立てが入る可能性はあります。その場合は、プロキシファイトに移行すると思います。
ただ、いずれにせよ一連のプロセスを通じて、株主としても「本当に魅力的な提案はどれか」を見極める必要があります。結果的に、Twitter取締役会としては、代替案を探す時間稼ぎができる側面もあるでしょう。
Elon Muskができること
結論としては多分なにもしてこないでしょう。下記の通り明確に価格の引き上げや交渉に応じるつもりがないと公表していますし、この価格で「十分」であるというスタンスです。
何らか追加の買い増しや協力者を募ることは可能性はあります。ただ、やりすぎるとSECのやり玉に上がるでしょうし、そこまでのリスクを取ることはしないでしょう。
やることは2つ
1)Twitter等メディアを通じて、彼の考えるTwitterのあるべき姿、果たすべき社会的責任、を発信していく
2)既存株主、また"in play"になって介入したきた株主との対話
ただ、このままTwitter側がElon Muskとの十分な対話をせずに、何らかの結論を出すのは難しいように思います。それはそれでTwitter取締役会側のリスクになります。ですので、Elon Muskとしては依頼があれば、その交渉に応じる必要はありますが、1)2)以上の内容を取締役に伝えることはないでしょうし、価格の引き上げも(今の所は)想定していないでしょう。
とは言え、価格の引き上げのシナリオは残っています。これが決め手になる、つまり取締役会と合意できると思えば、引き上げる可能性はあります。ただ、明確な対抗ビッドがない中で、Elon Muskの性格も考えると引き上げる可能性は低いのだろうなと思います。
Twitter取締役会ができること
そう考えると、Twitter取締役会としても、Elon Muskとの対話をせず、より良い提案を模索することをメインシナリオに据えているのではないでしょうか。それが機能しない場合、現状維持を主張するために、Elon Muskのプランが「実効性が低い」ことを示すための材料集めとして、Elon Muskと対話するかもしれません。
ただ、そのシナリオに入った瞬間、Twitter取締役会としては相応のリスクを負いますし、最終的には提案を受け入れる覚悟も必要になります。米国ガバナンスにおける取締役会の責任は非常に重たく、この判断をやるには相当の根拠が必要です。
だからこそ、当面はElon Musk以外のプランの模索に全力を尽くすことになると思います。
Thomas Bravoに勝算はあるのか
インタネット&ソフトウェアに強いファンドであるThomas BravoがTwitter買収に興味を示しています。彼らは10年以上前から当該分野に特化したファンドで、バイアウトから"in play"での取引においてもかなりの実績を有する、トップティアのファンドです。ある意味ファンド業界からは千両役者が介入してきたようなイメージです。
ただ、彼らにとっても今回の買収においてリターンを上げるためには、相応のシナリオが必要になります。
まず、今経営陣が示している戦略だけで大きな企業価値の向上が認められるかというと、当然ですが相応の不確実性が伴います。
そしてバイアウトにおいて有効な手段である「レバレッジ」についてはFCF創出力が十分ではないTwitterにおいてはそれほど有効に機能しない可能性が高いと思われます。
彼らがリターンの創出源として考えてきそうなのは、以下の3つでしょうか。
世界中に2億人以上のmDAU(日々の収益を生むユーザー)、そしてそれが特に米国外で毎年3千万人近いペースで増加している成長力。このメディアとしての価値、そしてその上にこれからやってくるWeb3時代のアップサイド、これを享受する企業として位置付けるシナリオを描けるかにかかっているでしょう。
実際は、経営体制を刷新し、メディア価値をunlockするよりも、その戦略を示し、その上で有力な買い手にアプローチする方が現実的なように思います。並行して、GAFAMなどの大手と対話していることは間違いありません。
その意味では、GAFAMなどの大手IT企業がTwitterの価値をどう捉えているのかが鍵になってきます。そして、それは自らがどう評価するかにとどまらず、Twitterを他の企業に買収されてしまった場合のリスクシナリオ、これが最も難しい判断になると思います。
Thoma Bravoとしては、このアセットの希少性を活かしながら、「他の企業に買収されてしまうリスク」を100-300兆円という時価総額を有する企業たちにちらつかせることで、最大限の価値を引き出せるか、そんなことを考えているのではないでしょうか。
株主主義からステークホルダー主義へ
想定されるシナリオに移る前に、一つアイスブレークです。これまでのこのような買収提案、買収防衛策の発動といった、publicでの"in play"案件では、常に株主価値の最大化が最も重要な判断基準として考えられてきました。
ただ、今回はそれ以外の要素が絡んでくる、象徴的な案件になる可能性があると思います。
昨今、叫ばれるようになった、脱株主主義、そしてステークホルダー主義です。
Twitterという会社は、ステークホルダー主義を体現するには最もわかりやす企業だからです。株主や経営陣・従業員以外にも、3億人を超えるアクティブなユーザー、そしてそこから発信される情報は各メディアへの影響力を有しますから、間接的には何十億人の人類に影響を与えるプラットフォームです。
そして強烈に影響力のメディアであるからこそ、大量の個人情報を有しているからこそ、国家にとっても重要なインフラでもあります。
今回、Elon Muskが取締役ではなく株主に対して、明確に働きかけているのはそういう時代背景を捉えたものでもあるのでしょう。株主は、そのアセットオーナーも含めれば、ステークホルダーとして結局は個人も政府も含まれているのです。
「全てのステークホルダーにとって、最善のTwitterの活用方法はなんなのか、真面目に考える時が来ているよ」
そんなことをElon Muskは投げかけているように思います。そして、メディアユーザー、政府の介入も本件に影響を与えるでしょうから、リアルに合意形成がなされていく可能性何あるように思います。それらを完全に無視をして、Twitter取締役会も判断することは難しくなる可能性があるように思います。
想定されるシナリオ
さて、最後にテクニカルにはなりますが、今後の想定シナリオをおさらいしておきます。
Elon Muskによる買収
このままTwitter取締役会が有効な打ち手を示せず、ホワイトナイトが登場せず、株主から買収防衛策の差し止め請求が認められ株主総会で決議されれば、そのままElon Muskが買収してしまう可能性は残っています。
資金的な問題はあるでしょうが、そこはきっと優秀な財務アドバイザーが何とかすると思います。
ホワイトナイト①:PEファンドによる買収
複数のファンドが参入してくる可能性はありますが、Thoma Bravoは有力であり続ける可能性が高いと思います。今回のケースでは、複数のPEファンドが競うことで価値が大きく上昇するようなケースではないと思っています。実際には複数候補が登場するかもしれませんが(※資金余力があればSBGとか)、この記事で書いている通りファンドが投資シナリオを完成させることができるかのかかっています。
可能性はあると思いますが、その場合は最終的なExitはTwitterの大手IT企業への参画となるかもしれません。
ホワイトナイト②:事業会社による買収
実際このシナリオが一番ありえるように思っていました。ただ、Thoma Bravoが介入してきたことで、ここで敢えてGAFAM間でpublicな場で競う意味がないような気がしています。
最も考慮すべきは、regulationです。巨大IT企業による買収において、regulationの承認が取れるかは大きなリスクです。そして本件においてはこれは極めて大きなリスクとなるでしょう。これをpublic dealでハンドリングするのは、相当難易度が高く、買い手企業にとっても尻込みする理由になりますし、Twitter取締役会としても大きなリスクとなることでしょう。
すくなくともPEファンドかElon Muskが買収するだけであれば、すぐに業界構造が変化するわけではないですから、このステップは静観したほうが得策であるという判断はあるように思います。
政府による介入
Twitter取締役会としては、政府をうまく巻き込むことを考えているように思います。政府がElon Muskや特的企業への買収に何らかの理由で懸念を示す場合、大きくこの取引のlandscapeを変えることになります。
この辺りのシナリオは複雑かつ、予想屋の域を超えませんので、今日は一旦この程度にしておきます。
長文ありがとうございました。面白いと思いましたら、是非Twitter等のSNSでの拡散、またコメントいただけると嬉しいです。気が向いたら、また色々なテーマを投稿していきますので、どんなテーマが見てみたいかなども、是非Twitterなどでつぶやいてみてください。
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