装画『数学と恋に落ちて』-メイキング
今回は2冊同時刊行です!
『数学を嫌いにならないで』
↑こちらはダニカ先生の数学入門書・第一弾。
『基本のおさらい篇』『文章題にいどむ篇』の2冊あります。
著者のダニカさんは幼い頃から子役として芸能活動をしていました。
昔は数学がとっても苦手だったそうです。
中学時代は数学の宿題が怖くて泣いてばかりいたとのこと。
しかしそんな彼女は後にカリフォルニア大学ロサンゼルス校を首席で卒業、
そして数学の学士号を取得!女優としても数学者としても活躍しています。
かつての「数学ギライな女の子」当事者として、今を生きる少女たちに
数学の楽しさ&人生への有益さを伝えたい…ということだそうです。
こちらの表紙はとってもシンプルだったので、
『数学と恋に落ちて』は魅力的な女の子のイラストで、ターゲット層の女子の目を引きたいというオーダーでした。
1:ご依頼のきっかけ
今年の5月、岩波ジュニア新書の編集さんに持ち込み営業をしました。
その際お見せしたポートフォリオの中の1枚がこれ。
若者向けの作品のお仕事をいただくために、いろんな女子の描き分けをしてみよう〜という試みからできた作品。
特にこの子の、どことなくアメリカン?で元気な雰囲気がよい!
とのことでした。
まさか営業用イラストを描いたその年のうちにこんなお仕事がくるとは!
個人的な趣味で、海外のスクールガールっぽく描いたのが評価されたことも含めてとっても嬉しかったです。
(描いててすごく楽しかったけど、日本の学生っぽくなければ使われにくいかな〜とも思っていたので)
2:イメージのすり合わせ
アメリカでも日本でも、まだまだ理数系=男子の固定観念が強いんですね。
それを乗り越えて賢く美しくかっこよく生きていこう!というかんじ。
ビジュアルとしては、スクールカーストでいうqueen beeをほんのり親しみやすくしたイメージ…かな?というところから考え始めました。
ご依頼時点ではゲラが出来上がっていなかったので、
冒頭部分&編集さんから説明された概要をもとに進めました。
3:アイディアスケッチ
岩波ジュニア新書のフォーマットをいただき、そこへはめ込む形で制作。
『未知数に親しむ篇』は未読なので仮案です。
あと発売が12月なので、ほんのりクリスマス感も意識したような…してないような…?
数式だけでなく、本書に登場するモチーフを何か取り入れたいと思い
ミントキャンディ(クリスマスによくあるようなしましまのキャンディ)
を散りばめてみました。
これは本書の「数学と親しむ」という目的を象徴する概念のひとつですし、女の子が好みそうなイメージなので。
しかし少しうるさすぎるかも?という気もしたので一応キャンディ無しverも添えて。
4:フィードバック
適宜お褒めくださいます。ありがとうございます!
キャンディ案にOKがもらえて安心しました。
10代そこそこくらいだとちょっとやりすぎなくらいキラキラしているほうがウケる傾向にあったなーと過去の自分を振り返りつつ。
『方程式を極める篇』のゲラをお待ちしつつ、制作を進めます。
5:修正ラフ
『方程式を極める篇』を実際に読んで、
本編に登場するモチーフや数式を散りばめました。
今時の子は電話といえばスマホなんだろうなとは思いますが、
レトロでロマンチックなこの形は憧れよね〜なんて。
また筆者が「男子の言葉を重く受け止めすぎてひたすら電話を待ち続けた」エピソードや、電話料金を計算するくだりも印象的でした。
(電話でなくLINEの返信待ちなら今でもふつうにありそう)
『未知数〜』のほうも背景の数式などを修正し、
タイトルまわりをミントグリーンに落としたりと調整をし、
OKをもらったら本番制作に入ります。
6:本番制作
ラフを印刷して、シャーペンでケント紙へトレースダウンします。
手描きで描いている部分もあれば、Photoshopで直接描き込んでいる部分も。最近こうしたあっさりめのタッチだと、顔のパーツはPhotoshopで描くことが多いです。
7:完成(ご依頼から約1ヶ月)
この本を読んだからといって数学の成績が即UP!なんて都合の良いことにはならないでしょうが、
数学に苦手意識を持っていたばかりに将来の夢をあきらめた女の子、
苦手を克服した結果人生がよいほうへ開けた女の子など
様々な女子のエピソードが語られているので、そうした読み物としても価値があると思います。
(10代の頃は「微分・積分なんて将来何の役に立つんですか!?」「自分は数学の必要な職種にはつかないのでこんな無駄なことやりません!」なんて叫ぶ子もいますが、実際、数学できた方が人生の選択肢が確実に増えます)
数学ができなきゃ生きていけない、と脅すのでなく、数学ができたらこんな力と自由を得た、という希望を語ってくれる本。
大学や高校の入試で 女子への一律減点がされていたり、ジェンダーギャップ指数110位など、2018年は「日本ってまだまだ男女平等ではないんだな…」と思わせられるニュースがたくさんありました。
だからこそ、こういう作品が若い子の手に渡ってほしい。
たくさんの人の読んでもらえるといいな。
メインターゲット層は女子だけど、そうでないいろんな人にも!
余談
岩波ジュニア新書の編集さんと知り合うきっかけのお仕事
こちらでは小学館さんから刊行された小説
『本を守ろうとする猫の話』装画が流用されました。
つまり岩波ジュニア新書さんと直接お仕事をするのは『数学と恋におちて』が初めて。
このとき持ち込み営業をしていなかったら、ご依頼はなかったと思います。
『本を守ろうとする猫の話』と本作ではかなりタッチが違いますし、こちらを見て本作のイラストを発注しよう…とは普通なりませんよね。
でも編集さんと直接お会いして
「若い子向けの本のお仕事をもっとやっていきたいです!」
と主張したのは決して無駄ではなかったんだなぁ、と感慨深いです。
本当にいろんな意味でよいお仕事をふっていただけたなぁと思います。
ありがとうございました!
サポートしていただいた売り上げはイラストレーターとしての活動資金や、ちょっとおいしいごはんを食べたり映画を見たり、何かしら創作活動の糧とさせていただきます。いつも本当にありがとうございます!!