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装画『君を守ろうとする猫の話』-メイキング

『君を守ろうとする猫の話』
著:夏川草介 氏
刊:小学館
発売日:2024/02/28
デザイン:bookwall

装画を担当いたしました。
特設サイト↓

ベストセラー『神様のカルテ』シリーズ著者・夏川草介 先生の長編ファンタジー。世界40カ国以上で翻訳出版されたロングセラー『本を守ろうとする猫の話』続編。

幸崎ナナミは十三歳の中学二年生である。
喘息の持病があるため、あちこち遊びに出かけるわけにもいかず学校が終わるとひとりで図書館に足を運ぶ生活を送っている。その図書館で、最近本がなくなっているらしい。館内の探索を始めたナナミは、青白く輝いている書棚の前で、翡翠色の目をした猫と出会う。
お前なら、きっと本を取り戻せるはずだ。

デザインは前作と同じくbookwallさん。

『本を〜』は猫と対面する構図でしたが、『君を〜』は同じ方向に向かって走ります。

遊び紙は青と黄色(ここが2色の本は珍しいです)。スピン(しおり紐)は藤色。
今作も装画のほかにカバー下のパターン柄、扉カットを制作。
カバー下はザラっとした古書っぽい質感です。
前作はカバー下も講評だったようなので、今作のも気に入っていただけるといいな。

1:ご依頼

2023年夏に小説誌のモノクロ扉イラストを制作した時点で、「だいたい年末ごろに単行本化の作業をご依頼する予定」との打診をいただきました。

前作から主人公が変わる、ということはわかっていましたが
小説の全編が読めるのは年末なので、具体的な構想を練るのはそこから。
ご依頼当初はイラストが表1(表紙)のみか、表4(裏表紙)までまたがった横長の大きな絵になるか…も確定していませんでした。
が、
前作は「表1〜4までぎっしり描き込まれた本棚」「カバー裏に2色刷りの猫のパターン柄、しおり紐も2色で2本」など、
「本の本」としてリッチな作りであったので、それに見劣りするようではダメだよなぁ…という思いがあり。
何回かメールの応酬をして、今回も横長の大きな絵を描くことになりました。


2:メールですり合わせ

制作するにあたって気になるところ
・もし表1のみで作るならどんなイメージであるのか
・雰囲気や構図をどれくらい前作に寄せるのか

私が小説を読んで印象的だと感じたところ

・ナナミの強さ(キリッとした表情にしたい)
・「本を燃やす」行為の恐ろしさ(ビジュアル的な不穏さとしても、今の現実や過去の戦争などを想起させるイメージとしても)
・灰色の男の、怖いだけじゃない悲しい雰囲気(エンデの『モモ』を連想)

やってみたいこと
・前回のように真横に本棚が続いているのではなく、背表紙で曲がり道になっていて、画面の向こうへ奥行きがあるように見せる。
・ブックカバー自体に火がついて、世界が焼け落ちていくようなイメージにする。
・表4か袖に前作主人公(林太郎)がいたり、何らかの繋がりを持たせる。
・前回の「青とオレンジ」の対比のように「灰色と虹色」にする。

小学館の月刊小説誌 『STORY BOX』2023年9月号(No.124/8月19日発売)に掲載

先方のオーダー
・小説誌掲載次のモノクロイラストをベースに、細部を単行本用に再構成するイメージ。後ろの本棚と人物にもう少し空間(奥行き)が欲しい。
ブックカバーに火がついているように描くなら、大きく激しく燃えているより、散り散りに燃えているほうがいいかも。「本が燃えている」ビジュアルに抵抗感がある人もいるかもしれないので。
 炎そのものではなく「炎が上がりそうな気流」などが感じられると良いかも。
・あまりグレイッシュにはせず、色鮮やかな方向で。

いただいたご意見を踏まえて、下部に帯を巻くスペースを意識しつつ再構成します。


3:アイディアスケッチ

表1〜背表紙〜表4までのバランスもざっくりこんなかんじかな?とアタリを入れています。

・全体的に青紫っぽく落として、猫のオレンジが目立つように。
・火の粉を黄色、オレンジ、水色にしてファンタジックな雰囲気に…(これで怖くなりすぎず、色鮮やかなかんじにもなるかと)
・表4(裏表紙)にかけて、本棚が魚眼っぽく湾曲していく。表4奥の光る入り口=日常から、不思議な道を通って異世界へ向かうイメージ。
・表4には、作中に登場する実在小説の著者「モーリス・ルブラン」の札と、前作主人公「林太郎」が淹れてくれる紅茶のカップも。

これに対して、ミステリアスな雰囲気は良いけど全体が暗すぎるのでもっと明るい色味(赤やオレンジなども)で何パターンか欲しいとのお返事をいただきました。


4:ラフスケッチ①

グレーにカラフルな光、赤と青紫、黄色と青紫の3パターン。
猫と人物を逆光ぽくしたくて、薄青の影が入ってます。

この物語に、自分の中で「赤系」のイメージが湧かなかったので苦戦しました。私が赤色を扱うとなんだかおどろおどろしい方向に行きがち…だし、オレンジだとトラ猫が埋もれてしまう…


5:フィードバック

デザイナーさんが仮で作ってくださった色イメージ。

ミステリアスさは十分なので、楽しさや華やかさ、鮮やかさがほしい。
全体的に明るい印象の絵の中で、ナナミと猫が浮き上がってくると良い。

自分ではかなり明るくしたつもりだったけど、まだ暗かったらしい。
印刷したらさらに暗くなるとはわかっているけど、もともとダークファンタジーぽいのが好きなので匙加減が難しい…


6:ラフスケッチ②

全体的に彩度・明度を上げて、猫と人物にかかっていた薄青の影も消しました。

右下の「黄色と青紫」verの、RGB版が選ばれました。
今回はラフ段階でCMYKデータと、参考用のRGBデータを両方提出していました。
Photoshopで光が舞い散るような表現をしたいとなると、CMYKでは使えない機能があるので…変換すると最終的にくすんでしまうのを考慮しつつ、RGBで製作することがあります。
今回は「なるべく色鮮やかにしたい」とのことでしたので、RGBで製作→RGB・CMYKデータ両方を納品しました。


7:納品

ピンク・紫がビビッドなかんじ。CMYKだとこういう色は出せません。

さてこれで終了…かと思いきやもう少し続きます。

前作とデザインを揃えるために、下部を20mmほど描き足して欲しい

最初に想定していたよりスペースが必要になったようで、ここからさらに加筆します。


8:修正ラフ

タイトルのサイズや位置、バーコードの位置、どこでトリミングされるかなど再確認。

単純に全体を縮小すると表4(裏表紙)が綺麗にトリミングされなくなってしまうため、
画面を横切る階段「モーリス・ルブラン」の札がある本棚を左へスライドさせます(最初は「ルブラン」は折り返した袖に入れるつもりでした)。
また、タイトルが判読しやすいように火の粉や階段の色を抑えたり、
表1に散らばる本の数を増やしたりもします。


9:最終納品

修正前と比べると、表1や表4に散乱する本も増やしました。

表1の本棚は真正面から描いているのでコピペでなんとなかなるのですが、
背表紙〜表4は湾曲パースなのでいろいろ描き足しています。
パッと見にはわかりにくいですがけっこうな大改造でした。
本を増やしてほしいとまでは言われなかったんですが、もうどうせ全体に手を入れることになるし悔いが残らないように全部やろう、と自主的に描きました。
そもそもがモノクロ扉絵のデータをベースにしつつラフで色調整レイヤーを重ねまくって力技で構成したものなので、何を動かせばどう変色するのか自分でもよくわからないまま勢いで走り抜けたかんじです。

RGBだとどこか蛍光色っぽい?印象かも。

ちなみに
実在する著者名「モーリス・ルブラン」の上の「953」という数字は図書館の分類番号。「フランス文学」の「小説、物語」に当たります。

ナナミお気に入りのあの本は古典名作的な小説なのでいろんなバージョンがあるのでしょうが、一般図書なら953・児童図書なら932の書架にあるのかなと。
(地元の図書館で探したらそこにありました)
ナナミは中学生ですが、大人向けの難しい本も読んでいそうなので953にしてみました。


8:完成

モノクロ扉絵では足元のトラ猫を見ていたナナミが、しっかりと前を見据えています。

「明るい黄色」はパッと見では「希望の未来」へ進んでいるようにも見えそうだけど、実はその先は「今まさにたくさんの本が燃やされている火中」
ナナミは戦いに行こうとしています。
けれど争いたいわけではないのです。絶望もしていません。

「なぜ本を燃やすんですか?」このフレーズが印象深かったです。

そして裏表紙へ伸びる道、ナナミが来た・帰る入り口の先も、明るいオレンジの光が眩しい世界です。
祈りをこめて。


2024年2月28日発売

今回は紙の書籍と同時に、電子書籍も販売スタート

この装画は
書店店頭のポップ、パネル、ポスター、しおり、新聞や雑誌の広告、
電車内に掲示されるステッカーなどにもなりました。

ちゃんと私の名前もクレジットされています。嬉しい!

お見かけの際はよろしくお願いいたします!


前作
『本を守ろうとする猫の話』
↓装画メイキング↓

サポートしていただいた売り上げはイラストレーターとしての活動資金や、ちょっとおいしいごはんを食べたり映画を見たり、何かしら創作活動の糧とさせていただきます。いつも本当にありがとうございます!!