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科学の思考を日常に

生化学の研究に携わっていると科学的な考え方の基本が身についてきます。

そんな考え方を日常生活にも応用していければと思います。


逆について、濃淡について考える

ある特定のタンパク質が生体内でどのような働きをしているのかを知りたい場合、どうやったら解明できるでしょうか?

よく用いられる手法は、そのタンパク質が無くなったときどうなるか調べることやそのタンパク質が大量に存在した場合にどうなるのか調べる方法です。

意図的にそのタンパク質がなくなるように遺伝子欠損させたマウス(ノックアウトマウス)がどんな状態になるのかを見たりします。
特定の病気になれば、そのタンパク質(あるいは遺伝子)はその病気に関わるものだとわかります。

細胞レベルの実験でも可能です。

ある細胞にそのタンパク質が過剰にできるように遺伝子を操作して(トランスフェクションなど)、通常の細胞と変化がないか調べたりします。

機械で例えるとわかりやすいかもしれません。

テレビの裏の配線を一箇所だけ抜いてみて、音声だけ聞こえなくなったら、その配線は音声に関わる部品だったんだな、とわかるような感じです。


例えばXY染色体について

科学に精通していない人でも、男と女の違いについて『XXだと女、XYだと男』みたいな話は聞いたことがあると思います。

詳しく述べると、遺伝子がひとまとまりになっているものを染色体といい、生物によって違いはありますが、人間の場合、2組の染色体が23セット(合計46本の染色体)で構成されています。

まあ、詳しい話はさておいて。。。

同じものが2つずつセットになっている染色体の最後(第23組目)だけが男と女で違うということです。

その染色体の片方をX、片方をYと表します。(別に○でも□でもいいです)

そうした場合に女性はXXで、男性はXYというペアを作っているというだけの話です。
(○で表すなら、○○が女性で○□が男性みたいな)

この話を聞いたとき、どう考えるのか、というのが今回話したいことです。

多くの人は「へー、そう」で終わるかもしれません。

最初の項目で書いた、タンパク質の役割を解明する話を思い出して頂きたいです。

おそらく科学の研究に少しでも携わったことがあるなら、当然出てくる疑問があります。

XYで男になるというのは、

・Yがあるから男になるのか?
・Xが2つではなく1つしかないから男になるのか?

ということです。

言われてみれば、たしかにどうなってるんだろう?と考えることではありますが、このような疑問がとっさに浮かぶような思考を日々実践しているでしょうか?

一つ新しいことを知ったとき、こういう視点、考え方が自然にできるようになると科学以外にも役立つのではないかと思います。

非常に簡単な例ですが、無くなったらどうなるか、増えたり減ったりしたらどうなるか、この考え方はいろんなところで汎用可能と思われますので日常的に使っていければと思います。


ちなみに、先の例では、結論として男になるためにはYが必要であるようです。

Xが一本でYがない遺伝的な疾患、ターナー症候群というのがあり、X一本でも生存には支障がなく、性としては女性になることがわかっているためだそうです。


日常において

遺伝子がどうとか、染色体がどうとか、という話になると小難しそうに聞こえるのは、言葉が難しそうだからです。

考え方は至ってシンプルです。

それがある時とない時の差を見るとか、もっと多い時はどうなのか、というだけのことです。

身近な例として、お酒が好きで、飲み会が好きだったとしましょう。

お酒は飲めば気分が良くなるし、飲み会はみんなで盛り上がって話し合いもできるし最高である、と。

この場合、そうでない人もいるのかな、と考えるだけでOKです。

自分は飲み会が好きである、ということはその逆である「飲み会が嫌いである」という人も存在するのではないか?と考えるわけです。

他にも、自分よりもっともっと飲み会が好きな人もいるのではないか?と考えたりもできます。

そう考えた後、どのように考えて、どういう行動を取っていくかについては、あえてここで述べません。


一つの事実があったとき、その逆や裏、濃淡を考えてみることは、何かを理解することのきっかけになるかもしれません。

今回は非常に単純で、浅い例しか挙げておりませんが、研究する上での思考方法は実生活やビジネスの世界でも十分役に立つのではないかと常々思っています。

また、幅広い思考ができる人は、懐も広く、何事にも寛大になるように思います。

尊敬できる研究者というのは、人間的にも魅力的である場合が多いように思うのは、そういう理由もあるのだと思います。


昨今、多様性を認められる社会になろうという動きがあるようですが、科学研究におけるシンプルで基本的な考え方を身につけておけば、もっと容易に実現できるかもしれません。



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