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覚醒illegal #5

「いつまでも調子の良い傍観者でいられると思うなよ」
虚子の呈した苦言は黒子の脳裏に卵を産みつけ、それはすでに孵化して夥しい数の蟲が体内で蠢く。寄生した言霊の群れが黒子の肉体機能を奪ってゆく。
鼻血がどろりと垂れてきた。皮膚は高度な熱を帯び今にも蒸気を上げながら焼き切れてしまいそうだ。口腔内が異物感で充たされている。鏡で見なくとも舌触りで理解る。歯が増殖している。口いっぱいに拡がる痛みと痒みに幾度も失神しかけるが寧ろその痛みと痒みが黒子の意識を暗闇から引き剥がした。無数の歯に埋もれる歯茎の悲鳴が頬骨とリンパ腺を伝って三半規管を掻き回す。耳介を湿らす黄色い汁が首筋を流れている。両脚の爪先が麻痺を訴える。どうやら壊死が始まりだした。永く尿意が絶えずにいる。前立腺の障害を受け尿道が閉塞し排尿が為せず、下腹部から膀胱にかけて強い毒素を含んだ悪水がうねり這い回る。
呪詛は止まない。眼の前にいる彼奴等は呪詛を止めない。男女の声が混ざり合い唱えられるそれはかれこれ一時間が経とうというにも関わらず萎んでいくどころか一層厚みを増していく。
彼奴等が輪を組み取り囲む屍の山にもいよいよ異変が顕現する。
血か脂肪かもわからぬ色の泡がごぼごぼと屍の山から噴き上がるに伴い、すべての屍が肉片を飛び散らせながら痙攣をはじめ反動により重なり合う別の屍の肉と肉とを擦りつけ、粘りつき、ふたつがひとつに、みっつがひとつに、よっつがひとつにと、個体の輪郭が失われ、醜悪で歪な融合を遂げ、まるで天への脱却を望んで地獄の底から昇り上らんとするようにして螺旋を形造り隆起していく。
煤けた蛍光管をぶら下げるコンクリートの天井に、螺旋の先端部分が着くか着かぬかスンデの所で、肉塊はその躯体のあちこちに点在する裂け目から鋭くしなやかな触手を伸ばし鞭の如く素早く振るって彼奴等の四肢やら頸やらを刎ねた。呪詛はブツッと遮断された。
長年慕ってきた母たる女とその愛弟子たちの無惨で呆気ない死を、黒子は、言霊どもに食い散らかされた思考回路でどう受け止めたのだろうか。
母たる女の生首が、壁を背にしなだれる黒子の腿あたりにごろりと転がってきた。生首は何が起きたのか理解できていない表情を浮かべていたが、黒子と目が合うと、音に反応して鳴る玩具のように耳を劈く嗤い声を破裂させた。黒子は眉根を寄せると、口の中で転がしていた飴玉大の何かを一粒プッと勢いよく吐き捨て、嗤う生首の鼻下の溝、人中に突き刺す。生首は眼玉をぐるりと回して白目を剥き、停止した。生首の急所を捉えたそれは、未だ絶えず増殖を続ける黒子の歯であった。ぐずぐずの歯茎から押し出され抜け落ちたであろう一本の歯であった。
黒子は吐いた。これで六度目だ。吐瀉物は生首を濡らした。
創造主でもある三人の霊能者を殺した屍肉の魔物はゲル状に姿を変えて壁の僅かなひび割れから外界へと抜け出ていった。
屍の山の跡に残されたのはおぞましい悪臭とどす黒い染みと夥しい数の蛆だけだ。自分もああやってこの部屋の染みとなってしまうのだろうかと黒子はぼんやり考え、体液のこびりついた汚らしい口元で、だらしなく微笑した。不屈の微笑である。

鐘田一家の母、みや子は、長男坊の俊彦と共に、次男坊の帰りを待っていた。時刻は九時を回ろうとしている。というのに、末っ子娘の見舞いに行くという連絡を寄越してから、一向に玄関の戸口に形も影も見せない。鍋に用意されたカレーは疾うに冷めていた。不良な行為には到底及べない生真面目さを持つ息子が、何の連絡もなしにここまで帰りが遅くなることに、母と長男坊は不穏と不安を六畳の部屋に渦巻かせていた。普段なら夕飯を終えると茶の間に長居せず自室へゆらゆらと吸い込まれていく長男坊でも、今夜に限っては重い腰がなかなか上がらず面白くもないテレビ番組に無関心な視線を送っている。対して母の視線は時計と電話機と玄関先の往復を繰り返していた。鐘田一家は父を除けば全員が霊能者だ。中でもとりわけ優れて老練である母がその力をして強く念じれば、息子からの電波を引き寄せられないかとも思うが、生憎一家総じてその類の霊能力は持ち合わせちゃいなかった。
その筈だったが、母が電話機に目を留めた途端、コール音が鳴り響いた。半ば諦観していた母は意表をつかれ、しばらくぽかんとしていたが、長男坊の吃った呼び掛けに反応して畳を蹴り、誰にも取らせまいとばかりに受話器を掴んでコードを引っ張り上げた。
「何回電話したと思ってるの、今どこに」
心の解放から溢れ出た母の叱責は、虚しくも堰き止められた。相手は次男坊ではなかった。母は如何にも気を削がれたという調子で適当に取り繕い、相手の用件を聞き入れはじめる。すっかり縮こまった母の背中に、長男坊は憐れみの眼を投げ掛ける。
番組を遮って鳴らされたニュース速報のアラームが、長男坊の視線を再びテレビ画面に引き戻す。先程まで映し出されてい賑やかで馬鹿馬鹿しい光景とは裏腹に、騒ぎを許さぬ厳粛な様子でスーツ姿の男が椅子に収まり、額に脂汗を滲ませ、手渡された原稿を読み上げていく。
「本日午後七時半頃、王逆府王逆市五丁目に所在する球出団地のB棟四〇四号室に住む稲生正さん三十六歳男性が妻である知代さんにブラウン管テレビによる殴打を何度も受け死亡する事件が発生。同時刻同団地内で相次ぎ殺害事件が多発。無名の殺人犯たちの脅威は王逆市に留まらず帝都神宿区にまで魔手を伸ばしてきている模様。神宿住民の皆様、決して外出をしないでください。間も無く粛清庁より戒厳令が敷かれます。どうか外出をしないように」
脊髄がひりついた。得体の知れぬ恐怖が頭蓋の底を撫ぜている。「母さん」長男坊はか細く発した。しかし母は返事をしない。「母さん」もう一度呼ぶ。だがこちらを振り向きもしない。「母さん」喉が締め付けられて出したい声が出せない。けど届いてはいるはずだ。なぜ反応してくれないんだ。長男坊は母を睨みつける。母はこちらに背を向けたまま動いていなかった。受話器も握りっ放しだ。いつまで悠長に長電話をしているんだ。今はそれどころではないだろう。長男坊はすぐそこまで迫ってきている気がしてならない危険を母に伝えるべく、警鐘代わりの叫びを上げようと顎をこじ開けた。が開き切るよりも先に、長男坊は、声を喪失した。
母の肩越しに台所が見える。流し台のすぐ上に取り付けられた小窓に、人影がある。部屋の中の様子をじいっと眺めるように立ち尽くす、人影がある。
陽もろくに浴びずに過ごし血色貧しい皮膚をさらに青白く染め上げ、長男坊は、死者に類似した形相で凍てついた。
「おかあさーーーーーーーん」
長男坊が発したものではない。窓ガラスに塞がれてくぐもった声が向こうから響いてくる。誰なのか?何故そこにいるのか?それらの疑いを一切合財押し殺して、長男坊は、反応を示すな、そう自身を強く戒めた。意外にも人影の執念は浅く、返しの来ない不毛な呼び掛けを二度三度重ねると気が済んだのか、すうっと枠の外へと姿を消した。
「去っていったわ。あれは一体何なの」
母が電話口に向かって問いを打つける。
「霊気…で合ってますかね、そういうのは少しも感じ取れなかったはずです」電波を通じて聴こえてきたのは若い女の声だ。「人ですよ。亡者でもなんでもなくて、生きてる人間です」
「分かった上で訊いたのよ」母は電話の相手に苛立ちを隠しきれず、さらに問い詰めていく。「あなた、本当に夫の同僚の方なの?」
「あ、はい。といってもあたしはまだまだ新米の記者ですが。本当に先輩には、ああ、旦那様にはいつもお世話になってます」
たどたどしく、論点のズレた返答ぶりからして、有能さはあまり期待できない。しかし、窓向こうの異常者出現を見計らったようなタイミングで差し込んできた一本の発信は、母と長男坊を窮地から助け出したことは事実である。
「ニュース速報御覧になりましたか」
「あなたの話を聞いてる合間に。王逆市で殺害事件が多発、だったかしら」
「殺意のウイルスによるパンデミックです」
新米記者の女はきっぱりと云った。
「殺意のウイルス?」
こんな言葉を口にするのは初めてだ。母は舌の根に違和感を覚える。現代の科学ではどう手を尽くしたとて可視化もできぬ曖昧で不透明な(実際の姿形に関してはは前述した通り目には見えぬ為不透明に非ず)霊能力を扱う母にとって、顕微鏡を覗けば実存を確認出来得るような歴然とした物質はもはや異次元の対象である。加えて"殺意の"などと修飾されてしまってはお手上げだ。
「劇場型殺人鬼02を覚えていますか?」
「ああ…何年か前に騒ぎになっていた」
「あの事件も同様に、ウイルス性の精神病が症候群となって国中に蔓延してしまったことが原因とされています。殺意のウイルスは脳細胞に寄生し増殖します。感染経路は明らかにされていませんが、現状感染拡大の速度は異常です。今にもこの国は」
「それを」母は堪らず口を挟んだ。「それを今わたしに話して、なんになるというの」
新米記者は、一呼吸おき、慎重に伝える。
「じきに戦争が起きます。敵は武装大国、ドーマンです」
脈絡無き恐ろしい発言は、母を震撼させた。
「ちょっと待ちなさい、なぜそうなるの、どうしてあなたにそんなことがわかるの」
「先輩が教えてくれました。もしもの時に、私に引き継がせる為にもと。先輩はずっと昔から、この国が隠してきた真実を追い続けていました。二年前、劇場型殺人鬼02が元凶となった殺意のウイルスによるパンデミック。一ヶ月前の三月十一日、呆国東部にて起きた大震災。そして、あなた方霊能者の存在。それら全てに繋がりがあり、血管の如く当然に集結する先があります。先輩はその先の、闇の心臓部へ辿り着いたんです」新米記者は身内も知らぬ重大な秘め事を、矢継ぎ早に告げていく。それは理解するには困難を極める内容ではあったが、理解する必要は無いと母は瞬時に心得た。「ある交渉の決裂が戦争の引き金となります。その交渉にはあなた方霊能者たちの存在が大きく関係しています。戦争が勃発すれば、あなたたちの身が危ない」話の要に迫っていくにつれて、新米記者の物言いは、未来から来た救世主さながらの豪胆さを見せる。「先輩から頼まれました。あなたたちを守ってくれと」
後頭部でガラスが弾けた。招かれざる客の来訪を知らせる轟音に母が振り向く。骨が剥き出しのビニール傘をだらりと提げたひとりの中年男性が、庭のドアガラスを叩き割って部屋へと踏み込んできていた。粉々に砕け散ったガラスの破片が、中年男性の素足に踏まれて悲鳴を上げる。
「曽我部さん」
母が渇いた声で、隣人の名を呟いた。隣人は毎朝交わしていたはずの挨拶も忘れて、すぐ傍で震えていた長男坊に傘を振り下ろした。鉄製の骨が長男坊の頭の皮を引っ掻く。長男坊は頭を押さえて蹲り、言葉にならぬ言葉で母に向かって助けを乞う。構わず隣人は傘を握り直して、今度は先端部分を長男坊の脇腹に突き刺した。隣人は長男坊の苦悶の表情を嫌らしく見詰めながらさらに力を込めて傘の突起を長男坊の細い身体に抉り込む。長男坊は涎を垂らして必死に首を振りながら抵抗するが、ガラス塗れの隣人の足で頭を踏みつけられ抵抗は無意味に終わる。己の非力さを恨んだ。そして慟哭した。耳にしたことのない息子の痛痛しい叫びが母の正常な判断を狂わせる。隣人に左手を翳す。殆ど無意識だ。相手は人間、ウイルスに侵されてはいるが、生きている人間、だが関係無い。家族を助けなければならない。さあ念を撃て。奴の神経を破壊して殺せ。
「ダメです鐘田さん!」怒号が母の理性を揺り起こす。片手には未だ受話器が握り締められていた。「力を人間に向ければ穢れに身を落とします。それがどういうことか、あなたならよく知っているはず」
「なら、どうすればいいの」
母は今にも崩れてしまいそうになった。この力の他に、戦い方など知らない。なにもかもがわからなくなり、母は涙を浮かべる。
「大丈夫」電話口から優しい声が聴こえた。心なしかそれは、自分のすぐ近くまで寄り添っているようにも感じられた。「大丈夫です鐘田さん、あなたたちは私が必ず助けます」
長男坊の腹部が赤黒く滲んでいる。隣人は長男坊の顔面を何度も踏みつけている。決して傘の柄を握る力は緩めない。このままでは長男坊は死ぬ。脳組織損傷及び内臓破裂で死ぬ。隣人の猟奇的で下卑た欲を満たして死んでいく。誰かが死ねと言っている。気持ち悪いなお前と言ってくる。死んだ方がいいよ、ほら死ねよと、なじってくる。死ね、死ね、死ねと、周りにいる奴らが高らかに唄っている。教室中に居る全員が敵だった。長男坊は虚ろになった眼から、流血混じりの涙を流した。分かり切ったことじゃないか。所詮俺みたいな奴が死ぬんだ。
長男坊の絶望は杞憂に終わる。何者かが隣人の背後を襲った。白いブラウスに黒のカーディガンを羽織った、丸眼鏡姿の若い女が、重厚感ある石塊を抱えて立っていた。それで隣人を見事一撃で仕留めたのだろう。隣人は血に覆われた顔を引き攣らせ、泡を吹いていた。まだ息はあり、起きあがろうとした隣人の頭部めがて、女は石塊を投げ落とす。ぐしゃと潰れた。中年男性の血肉と脂肪が具沢山に仕込まれた石塊と畳のサンドウィッチがそこに出来上がった。
鐘田一家の茶の間に静寂が戻る。脇腹を抑えてエズく長男坊に母が堰を切ったように慌てて駆け寄った。
「ごめんね、ごめんね俊彦」
「うん、大丈夫だよ、母さん」
互いに掠れた声でそう短く交わし、鐘田親子は、恩人の姿を仰いだ。親子の愛というやつを興味ありげに眺めていた女はハッとして、ずれた眼鏡を不器用に直し、二人に一揖する。
「改めまして、先程お電話を入れました、旦那様には日頃お世話になっております、わたくし、報道機関EWSの職員…えっと」衣服をあちこちマサグるも目当てのブツを結局見つけられず、女は、気まずそうに愛想を振り撒いて云う。「神以〈かむい〉と申します。よろしくお願いします」
名乗るやいなや、女、神以は親子二人のどちらともになく、手を差し伸べた。
「さあ急ぎましょう、中央病院へ。俊彦くんの怪我も治さなくちゃですし、それに、桜ちゃんも慧くんも、そこに居るはずです」
神以の手を握ったのは、母の方だった。神以は信頼を得た喜びを噛み締め、母を引き起こす。母と共に長男坊に肩を貸し、庭へ下りていく。ウイルスに感染された暴徒たちの唸りや呻めきが、塀の向こう側で右往左往していた。
「車は裏に停めてます。念の為先に助っ人を向かわせましたが、私も急ぎます。安全運転は期待しないでください」
神以の警告に、長男坊は痛みを忘れて、密かに固唾を飲み込んだ。

同刻。中央病院。集中治療室。床に横臥する、はだけた分娩着姿の女の屍。ベッドの上から垂れ下がる、真っ二つに切り裂かれた単眼症の少年の上半身。少し離れた壁を背に座り込む下半身。窓の戸は開かれ、カーテンが夜風に揺れている。五月蝿いくらいの無音が、室内に残響する。
窓の外に並ぶ夜景、に、突如上から真っ逆さまに落ちていく赤黒い巨大な塊が横切った。
惨たらしい肉の音を響かせそれは地へと到達した。芝生の上で,五メートル級の大ムカデが蠢く。大ムカデの頭部には、人間の顔が埋め込まれていた。顔は、なにか恐ろしいものを見てしまったような形相で硬直している。大ムカデは、三島禍逗夫の成れの果てだった。
病院の敷地内に侵攻してきた暴徒の一群が、虫の息状態に陥る大ムカデを見つけると、殺意の捌け口として狙いを定めた。我こそがとどめを刺すとばかりに、刃物や鉄器で銘々に大ムカデを切ったり砕いたりしはじめる。彼らにとって対象が命を宿す生物であれば、人間であろうが蟲であろうがどうでもいいのだ。一心不乱に三島禍逗夫の節足の身体をぐちゃぐちゃに壊していく。挙げ句、殺意の欲が満たされてオーガズムに達し射精する者や、三島禍逗夫の口腔や眼窩などの穴を借りてシゴきそのまま射精する者も中には幾人かいた。
精液に汚れた三島禍逗夫の死に顔を、鐘田桜が屋上から見下ろしている。黒く艶やかで長い髪をなびかせ、鐘田桜は、怨敵の末路を、亡っ、と俯瞰している。
ふと視線を正すと、上空に、夜よりも濃淡な黒で塗られた球体が浮かんでいるのが見えた。球体に眼は無いが、強い視線を感じる。桜はその視線に覚えがあった。時折自分を見守ってくれていた、母性に溢れた視線に覚えがあったのだ。その人は、誰よりも強い霊能力を具える女性だった。
けれど、今感じている視線はそれとはどこか異なり、微かに腐臭が漂っていた。思わず顔を背けたくなる。しかし桜にそれはできず、じっと球体に見入ってしまう。女の念が、桜の神経に、這い寄ってくる。
「桜」
塔屋の扉を開けて、屋上に足をゆっくりと踏み入れる兄を、桜は振り向き、迎えた。
「元気そうでよかった」慧が、桜に近づいて微笑む。「身体はもう平気なのか」
桜は、久しぶりの兄との対面に戸惑う。何かを言おうにも、うまく声が出せない。
「大丈夫だよ、桜。もう大丈夫だから」
慧が桜の頭をそっと撫でる。その感触にほぐされて、桜が漸く口を開く。
「お兄ちゃん、帰ろう。おうちに帰ろう」
慧が、呆れ半ばに、けど嬉しそうに笑った。
「うん、そうだな。帰ろうな」

殺意の暴徒。操られる屍。武装集団。奇形の赤子。穢れた霊能者。儀式により産み出された怨みの化身。蟲の死骸。精液。傍観者の吐瀉物。願いを奪われた妊婦。震災に攫われた無意味な祈り。悪霊と疫病。生物兵器。戦争。革命。滅亡。再生。記憶する水。繰り返される愚行。打ち捨てられたチョコレートドーナッツ。これを読み耽るお前ら。誰も知らない物語。禁忌。食卓を囲む家族。赦されない裏切り。持って産まれた望まぬ力。血縁。ノイズ。サイレン。クスリ。隙間から見ている異色の眼球。無邪気に翅をもぐこどもたち。たすけて、ねえたすけてよ、どうしたらいいの、からだがうごかないんだ、手が震えてる、舌が痺れてしょうがない、喉が渇いた、おわる、おわるよ、はじまってすらいないだろう、ここはどこなんだろうか、ぼくはいまどこにいるんだろうか!おわるよ、おわらせてみせる、やだよ、ねえ、おわればどうなるんだい、こわい、こわいよ、君はぼくを忘れないでおくれよ。未来永劫に。

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