作品と商品の違いについて

ジブリなんかもそうだけど、基本的には監督(宮崎駿)が思い描く作品を、プロ(鈴木敏夫)が「こんなの売れねぇよ」と文句を言いながらあの手この手でなんとか売っていくというのが今までのメディア作品の基本的な構造である。音楽なんかも「こんな曲売れないよ」と言いつつ売っちゃうプロに手伝ってもらうことがメジャーデビューの目的と言える。

市場経済において、すべての物事は効率化を目指す。メディア作品に関しても例外ではなく、そもそも「売りやすいものを作ろう」という発想になるのは自然なことだと考えられるのである。

これはいかにもシンガーソングライター的だなと思う。最終的なアウトプットまで自分で管理することで、作品を作る時点で消費者のことを想定している。その方が反応が大きいわけなので、意義は強く感じるのだろう。

ところで音楽でも「売れる」という表現をするが、端的に言うと「売れる」とは「便利なもの」ということである。あの気分になる、共感して浸れる、踊りやすい、あの場所の雰囲気を作る、カラオケで歌いやすいなどなど…便利だと思う場面や人数によって需要は変わるが、必要だと感じる時点でそれは「便利なもの」である。

つまり「どれだけ売れたか」という指標は、基本的に「どれだけ便利だったか」ということに他ならない。カーステレオが流行った時はドライブに最適、カラオケが流行った時は歌うのに最適、今だとTikTokで流行った時には踊るのに最適など、便利さの種類は時代によって変わってくる。つまり、数字は絶対的のようでそうでもなさそうなのであった。

また映画祭のように、まだ売れていないものが先に評価され、それ(どこかで確実に評価されたこと)を便利さとして売り出すことで売れる場合もある。このように、売れたかどうかという指針ではない作品自体の評価も存在するのである。

※話は逸れるが作者が亡くなったとか、はたまた捕まったからといって、作品はそれ以前にもただ存在している。印象自体は変わるが、作品自体は変わらない。印象で感情移入している(推している)人にとっては関係があるが、作品だけを見ている人には関係がない。これは認識によって二分すると思われる。

というわけで、どれだけ売れたかは「ビジネスの評価」でしかない。売れ続ければ音楽の評価になりうるかもしれないが、音楽の評価は売れても売れなくてもできる。売上何百万枚というのは、ミュージシャンというよりレコード会社の担当者に対する賛辞なのかもしれない。

ミュージシャンがメディアに出ないというのはよくある話で、メディアに出るということは音楽作品を作ることとは関係がないからである。(それがミステリアスな印象となり妄想で補完することで神格化するという商法でもあった。)

ただ野菜と同じように生産者の顔が見えた方が何かと安心であり、YouTubeのクオリティでも満足できる(安心できる)のが解ってくる以前から、「親近感」の方が感情移入しやすいというパターンも坂本九の頃からすでに存在していたのである。

そのため本人稼働によるプロモーションが一番効果的であり、いまだにラジオなどは本人がゲスト出演するパターンが多い。これはプロが考えた効率のいい販売促進方法に、ミュージシャンが参加しているパターンである。

そうしていると、結局ミュージシャンの方が発想豊かだから本人が考えてプロモーションしていけばいいのではという流れも出てくる。少し前の言葉では自己プロデュース、今ではセルフマーケティングといった言葉になるが、自分で作り自分で売るという人がネット社会になって以降ますます登場してくる。

こうなると作るプロと売るプロという境界線はなくなっていき、作りつつ売る、ということをまとめて考慮していくようになる。こうして「売りやすいものを作ろう」という発想になっていくのである。

ただ正直、作ることと売ることは全く関係ない別作業なので、売ることを考えながら作ることに作品の純粋性は失われているのではと考える。もはや商品である。映画や音楽にしても、「作品」が売られていることに魅力があったのではないか。

「この音楽、〇〇専用です」と言われた音楽を、その通り消費することが果たして音楽鑑賞と言えるのだろうか。解らないものを勝手に解ろうとするアート体験とは程遠いのではないだろうか。そう考えると、作る人と売る人の距離は遠い方が面白いのではないかというのが今日この頃。

補足:沢田研二の会場埋まらなかったから帰った話、ぱっと聞くと帰った方が悪いと思ってしまうけど、沢田研二はプロの歌手としてステージに立つことが仕事であり、会場を押さえ販売するプロが別に存在しているので「プロの仕事をしろ」というのはまさにその通りである。

そもそも知名度のある人なので、チケットが売れるかどうかはプロモーターの腕次第。事実数年後に同じ会場で開催された時はその時以上にしっかり埋めたというのも格好いい話である。

また補足:ライブというのは友達、知り合いが多い主催者の方がたくさん埋まるシステムである。バンドの良し悪しはほぼ関係なくて、その時話題性があるかどうかなど波も多い。なので、チケットは売れば売れるし、売らなければ売れないものなのだ。人気とは本当に不思議で不確かなものである。

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