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「ドライブ・マイ・カー」〜妻の言葉〜

もし一生分の涙を一度に流したら、タオルは何枚必要になりますか。

彼はいささか、わたしのことを理解しすぎてしまう。わかりすぎる。私は、私の悲しみの上澄みだけを一気に網でかっさらう人が欲しかっただけなの。彼では、私の心の深いところにまで気づいてしまって、私は彼を傷つけてしまいそうでそれが嫌だったの。

だからね、男は多少鈍くて優しくて馬鹿が好き。
私の美しいところだけを見て、幻想に浸ってくれる男。傷を負った場所になんか目もくれないで。
わかりすぎる男では、私が辛くなってしまうわ。だってあなたが愛していることを、あなたが私を理解していることを、嫌でもわかってしまうんだもの。そんなの辛すぎる。

それにね、恥ずかしいでしょ?自分のこと何でもお見通しなんて。いくら夫婦といえ、わたしには知られたくないことのひとつやふたつはあるわ。
ある意味、気づかないことができなかったのが家福さんの足りないところだったと言えばわかってくれるかな。もちろん、そんなこと夫には言えないけどね。だって私は、女優なんだから。

ずるいけど、知られたくないことってたくさんあるでしょ?馬鹿げたこと考えてはダメよ。

それじゃあ、またね。
これでも、あなただけなのよ。

ずっと愛してます。

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