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村上春樹『街とその不確かな壁』 コールリッジの詩から読み解く withAI

 村上春樹さんの新作小説『街とその不確かな壁』にはエピグラフ(小説の冒頭に置かれる句)があります。サミュエル・テイラー・コールリッジ(1772〜1834)の幻想詩『クブラ・カーン』からの引用です。

 コールリッジは英国ロマン派の詩人、『クブラ・カーン』以外では『老水夫行』『クリスタベル』などの幻想詩が有名です。
 昔よく読んだ『赤毛のアン』の主人公、アン・シャーリーは詩が大好きで、絶えず詩を引用したり、自分でも詩を書いたりしていましたが、アンに限らず欧米の人は詩をよく読むのか、小説での引用が多いです。
 中でも、コールリッジは、ウィリアム・ブレイクやT・S・エリオットと並んで、引用されることの多い詩人だと思います。内容が幻想的だからでしょうか。文学作品に限らず、ミステリ小説のエピグラフなどにも使われていました。

 村上さんの小説に引用されているのは

その地では聖なる川アルフが
人知れぬ幾多の洞窟を抜け
地底暗黒の海へと注いでいった

『街とその不確かな壁』のエピグラフより

という部分です。この部分だけでも、この詩が小説に登場する街の風景と似ているのがわかりますよね。これは、クブラ・カーン(元朝のクビライのこと)が建設したと言われるザナドゥという街の描写です。
 この続きを訳すと、

五マイル四方の肥沃な土地
壁と塔がまわりを取り囲んでいる
そこには曲がりくねった小川が流れる美しい庭園があり
多くの香木が花を咲かせていた
ここには丘と同じように古い森が広がり
太陽が照りそそぐ緑の草原が点在していた

 第一連はこんな感じです。私の英語力は会話が多いミステリなら原書で読める程度なので、詩の翻訳は難しい…。普段は頼りになるGoogle翻訳も詩は苦手なようです。なので、これはGoogleの会話型AI、Bardが訳を三つ提案してくれたものに自分の訳を足したものです。

 つたない訳ですが、ザナドゥの描写が壁の中の街ととても似ているのはわかるかと思います。何よりも、壁と塔で外の世界とへだてられた場所なのですから。
 また、この風景はコールリッジが夢で見たものなんですね。小説の中で、壁に囲まれた街を最初に生み出した女の子は夢を非常に重視していたので、その点もこの詩と重なる部分があるのではないでしょうか。
 二連以降には不穏な描写もあり、この街が桃源郷というわけではない(これも壁の中の街と同じ)こともわかります。

 作品論的にいうと、村上さんがこの詩からインスピレーションを受けたということになるのでしょうし、物語的には、女の子がこの詩をもとに壁に囲まれた街を創り出したということになるのかもしれません。

    *

 ついでに、Bardに『街とその不確かな壁』と『クブラ・カーン』の関係を聞いてみました。chatGPTはアカウント作成が面倒で使ったことがないのですが、BardはGoogleのアカウントで聞けるのがいいですよね。といっても、日本語対応は始まったばかりなので、明確な答えがあるものはかなり間違いが多いorウィキをまとめただけという感じでした。
 逆に、明確な答えがない質問には、満点ではないものの、そこそこ的を射た解答が得られるように感じました。

村上春樹の『街とその不確かな壁』は、コールリッジの『クーブラ・カーン』へのオマージュであると言われています。『クーブラ・カーン』は、夢の中で見た謎の宮殿について書かれた詩で、村上春樹も『街とその不確かな壁』の中で、夢や現実、現実と非現実の境界など、同様のテーマを扱っています。また、両作品とも、壁に囲まれた場所が舞台になっています。

Bard

 答えの前半部分です。わかりやすい…。感想文書くのやめようかな…。「オマージュである」と言い切るのはちょっと強すぎるかもしれませんが、他はだいたい正しいですよね。

村上春樹は、『クーブラ・カーン』について、「私が好きな詩の一つです。コールリッジが夢の中で見たという謎の宮殿についての詩で、非常に美しく、謎めいた詩です。」と語っています。村上春樹は、『クーブラ・カーン』から多くの影響を受けており、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』や『ノルウェイの森』など、他の作品でも『クーブラ・カーン』へのオマージュが見られます。

Bard

 後半部は…。村上さんは本当にこんな発言なさったのでしょうか(ネットでは探し出せませんでした)。『世界の終わり…』はもちろん影響を受けていますが、『ノルウェイの森』にもオマージュがあるのかは、大昔に読んだのでわかりません。
 夫の先祖である蠣崎波響(江戸時代の文人画家)について聞いた時も、この世に存在しない書籍や絵画の名前を答えたり、ネットに収蔵品目録を出していない美術館に波響の絵があると答えたり(Bardよ、電話して聞いてくれたのか?)、相当いい加減だったので、この文章も正しいとは限りません。

 MicrosoftのAIにも同じことを聞いてみました。

『街とその不確かな壁』の冒頭には「クブラ・カーン」の一節が引用されています。これは、小説の三部構成を示唆するとともに、夢と現実の境界や創造性の問題を提示する役割を果たしています。

「街」は、「クブラ・カーン」に登場する「クブライ・カーンの快楽園」と類似点があります。両者ともに美しく豊かな場所ですが、外部から隔離されており、内部では不自然なことが起こっています。また、両者ともに夢から生まれたものであり、夢から覚めることで消滅する危険性を孕んでいます。

「ぼく」と「きみ」の物語は、「クブラ・カーン」に登場する「アビシニアの乙女」と対比されます。両者ともに純真で愛し合う二人ですが、「アビシニアの乙女」は詩人によって歌われることで永遠に残りますが、「ぼく」と「きみ」は記憶から消えてしまいます。また、「アビシニアの乙女」は詩人の創造物であり、「ぼく」と「きみ」は「夢読み」の創造物です。

以上のように、「街と不確かな壁」と「クブラ・カーン」は、夢や現実、記憶や忘却、創造や破壊などのテーマを共有しており、小説は詩を引用することでそれらのテーマを深化させています。

BingのAI

  なるほど。エピグラフの詩の構成が小説の構成を暗示するのですね。また、「ぼく」と「きみ」の物語は~以降の文章は、あくまでもこうも読めるという読み方の一例だと思います。村上さんの小説を、最大限に儚く読み解こうとしているのではないでしょうか。MicrosoftのAIはかなり攻めていますね(Bardも含めて、他の答えは著作権に触れるほどではない一般的なものですが、この部分は引用元を明示すべきでしょう、書いてなかったけど)。


 いずれにしても、『クブラ・カーン』を読むことで、村上さんの小説をまた別の視点で楽しめそうです。原詩が書かれたサイトを張っておきます。ネット上に翻訳もありました。

 

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