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読書録vol.3『100分de名著 菜根譚』~中国史上最高傑作の処世訓~

前書き~よくできた処世訓~


読書録3冊目。
『100分de名著 菜根譚』。


『菜根譚』は明代の末、16世紀から17世紀ごろに書かれた処世訓の最高傑作である。
野菜の根っこのように噛めば噛むほど味が出る名言が詰められている。
そしてそこには儒教・仏教・道教の教えが入り混じっていることが分かる。

私は原著を読んだ。
全人類が一回は読んでおくべきだと考えるほど、優れた書物であると思う。
国語の教科書にも歴史の教科書にも倫理の教科書にも載らないのがおかしいぐらいである。文科省は何を考えているのか。

この『100分de名著 菜根譚』では菜根譚に載っている名言が中国思想研究家湯浅邦弘の解説とともに紹介されている。これもなかなか興味深かった。

さて、面白いと思った部分を書いていこうと思う。

部分切り抜き


善行が実になるには時間が必要


善を為して其の益を見ざるは、草りの東瓜の如く、自ずから応に暗に長ずべし。
(善行をなしながら、その御利益が見えないのは、ちょうど草むらの中の冬瓜のようなもので、やがて人知れず、自然と大きく生長していく)

『100分de名著 菜根譚』P27

善い行いはすぐに実を結ぶものではない。
私も毎日読書をし、毎日備忘録を書いている。
が、これがいつ私に幸福をもたらすか、分からない。
でもきっと着実に育っていることを信じて、私は今日も書き続ける。


子生まれて母危うく、きょう積んで盗窺う。何の喜びか憂いに非ざらん。貧は以て用を節すべく、病は以て身を保つべし。何の憂いか喜びに非ざらん。ゆえに達人は当に順逆一視して欣戚両つながら忘るべし。
(子供が生まれるとき母親の命は危うくなる。きょう(銭さし)にお金を貯めこめば盗人がそれを狙う。どんな喜びも心配の種にならないことがあろうか。貧乏すれば費用を節約し、病気になると体をいたわるようになる。どんな心配事も喜びにならないことがあろうか。だから、達人といわれる人は、順境も逆境も同一視し、喜びも悲しみも共に忘れ去るのである)

『100分de名著 菜根譚』P44

私はその後に成功のない不幸や挫折や失敗に意味はあるのかと考えている。人生、不幸や挫折や失敗はあるだろう。
しかしそれはその後に成功や幸福が待ち構えていた場合ではないか?
その後に光があるなら闇に価値があったと、意味があったと考えられるだろう。
しかし、その先がなかったら? ただの経験し損の不幸や失敗だったら?
その考えを救ってくれるのがこの名言である。
「不幸にも幸福の一面があり、幸福にも不幸の一面がある。物の見方次第」という考えだ。確かにそうだ。しかし、もっと議論を深めたい私はこれにうまい反論の仕方はないだろうか……と考えてしまう。

報償必罰はちゃんとしよう。やったことややられたことは忘れよう

功過は少しも混ず容からず、混ずれば則ち人、惰堕の心を懐かん。恩仇は太だ明らかにすべからず、明らかなれば則ち人、携弐の志を起こさん。
(部下の功績と過失は、少しも混同してはならない。混同すれば部下は怠け心を抱くようになる。これに対して個人的な恩義や遺恨は、あまりにはっきりし過ぎてはならない。もしはっきりし過ぎると人は背き離れる心を起こすようになる)

『100分de名著 菜根譚』P68

これは本当にそう思う。
私は教職についているが、できている生徒はしっかり褒め、できていない生徒はたしなめるようにしないと秩序が成り立たない。心にとめておこう。

最初は厳しく、後に優しく

威は宜しく厳よりして寛なるべし。寛を先にして厳を後にすれば、人は其の酷を怨む。
(威厳を示すには、はじめ厳格にして後から寛大にするのがよい。はじめゆるやかにしておいて後から厳しくすると、人はその厳しさを怨む)

『100分de名著 菜根譚』P71

これも教室運営に使えると思った。
最初厳しい先生だけれど、後から優しくすると生徒たちもついてくる。
最初に優しい先生だと、生徒はなめてかかるし、かといって厳しくすると、生徒はそれを怨む。
著者の洪自誠は官僚として勤めた人物らしいので、部下を持つこともあったのだろう。
だとすると説得力がある。

事業を興すときは人に好かれず嫌われず

事を作すには、宜しく人をして厭わしむべからず。亦た宜しく人をして喜ばしむべからず。
(事業を興すときには、人に嫌がられるようではならないが、また喜ばれるばかりでもいけない)

『100分de名著 菜根譚』P90~91

商売においての至言。
自分の利益ばかり考えると人に嫌がられる。
かといって相手の利益ばかり考えると相手ばかりが喜んで自分は喜べない。
自分よし、相手よし。
そういう上手いバランスが商売には必要なのである。


後書き

この本は菜根譚お試し版というべきだろう。
この本を読んでよいと思ったらぜひ原著も買ってほしい。
読むたびに様々な知見が得られる名著である。







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