見出し画像

【官能小説】放課後は社会勉強1〜いらっしゃいませ、こんにちは

「いらっしゃいませー、こんにちはぁ」
「お待たせしましたぁ、こちらセットのパンケーキとブレンドでーす」
「ごゆっくりどぉぞー」
フロアでスマイルを振りまくコーヒーショップの学生アルバイト。
仕事を始めてから3ヶ月経った。ようやく仕事を覚えた頃。
仕事にも余裕が持てて、店内も見渡すことができるようになってきたかな?
常連のお客様の顔もわかるようになってきた。
「女子高生アルバイトさん、先日はありがとう」
「あ?いらっしゃいませ、こんにちは…高山さま。先日はたいへんご迷惑をお掛けしました」
「こんにちは、別にキミたちが直接迷惑をかけた訳ではないからね」
「それにしても、当店をご利用いただいてるときにお怪我をなされている訳ですから…」
「お店に責任はないよ。最大限尽くしてもらったよ」
「恐れ入ります…」
もちろん社交辞令だけれども…それだってこちらに全く非がないわけではないし、お客様が不愉快な思いをしたのは事実だった。
私がバイトをするコーヒーショップでの出来事だ。キホン、セルフサービスなので、別のお客様がコーヒーを運んでいたとき、その方がつまづきそうになってソーサーからカップを落としてしまい、この高山さまがコーヒーを浴びてしまった。
熱々のコーヒーを手に浴びた挙げ句、とっさに引いた手を建物の柱の角にぶつけ、打撲を負ってしまったのだ。
「お怪我のほうはいかがですか?」
「たいしたことはないよ。でも利き腕だから何かと…」
手に巻いた包帯が痛々しい。片手で不自由そうにスティックシュガーの先をちぎって砂糖を入れようとした。
ミルクもそうするの?
「お客さま、私がやらせていただきます」
正面に立っていた私は傍らにポジションを変え、手にしたコーヒーフレッシュを奪うように取り、お客様のブレンドコーヒーにそれを注いだ。
そしてゆっくり、お客様の前でコーヒースプーンを使って混ぜてみせた。
「お待たせしました」
テーブル席に掛ける四十代後半くらい?の男性のお客様に、高校一年生の女子アルバイトスタッフが寄り添い、ややお互いの顔が近い位置で笑顔で対応する。
「こんな可愛いウェイトレスさんがコーヒーを入れてくれるなんて思ってもいなかったなぁ」
「コーヒーを淹れたのは店長ですよ」
「怪我をするのも悪くないね。おいしく頂くよ」
「何かございましたらいつでもお申し付け下さい」
私がバイトしているお店は中堅ながらも、ある程度の店鋪数を構えるコーヒーショップのチェーンだ。
キホン、セルフサービス方式で利用してもらうので、私がお砂糖やミルクを入れたりはしない。でも、状況によってはお客様のテーブルまで運んだり、その他のサービスをする。
そもそも、身体にハンディがあった場合は別のはずだし…
「今後も利用させて頂くよ」
「ありがとうございます。またどうぞお越し下さいませ」
手を前で組み、丁寧にお辞儀をし、退店されるお客様を見送った。
私は今、置かれている状況で、お客様に最大限サービスをした。
その判断は間違っていないはず。
仕事の充実感を得るはずだったが、若干他のお客様の冷たい視線に気付いた。
特定のお客様に限ってサービスを優遇することに対してか?
でも、このお客様は当店で怪我をなされたのだからやむを得ないはずだ。
これに懲りて、先ほどのお客様が二度と来店されなくなるようなことは困る。
怪我をされている状況でわざわざ来店して頂けたならば最大限…可能な限りのサービスに努めるべきだ。
他のお客さまもどうぞご理解ください。
他のお客さまも、何かお困りでしたら何なりとお申し付けください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?