ホルヘ・ルイス・ボルヘス（海胆）　　川柳60句

欄外のあなあいており海胆の国

げそ天のカタレプシーのままに売る

蒙古屋の古代進をおおうかび

ウンベルト・エーコとおなじ黴おとし

いと太きジャック・デリダのしつけ糸

わが祖国海にキテレツ大百科

美学者のグラフにずっと馬鹿の河馬

詩学から辿りつくエル・カンターレ

佯狂に一脚ずつのチョコレート

川崎の茄子とよばれたフランス座

わが神、とくりかえしての競歩会

なにもかもなくして羊歯をむしりとる

うがちしてこの世の貘のいるところ

愚句をかく潜水球もきりはなし

てれすこを聴いて諏訪湖であるがまま

ミツカンに発狂しない演歌歌手

関所の扉とじられラインマーカーズ

水蜜をはこぶ地獄の黙示録

ハーレムの黙読録をじっとみて

加藤茶のみずから嫌うクレタ島

無意識のヴィヴィアン・リーに似た卍

痴愚神の死にかかわらず皿あらう

学ならず九龍城の砂あらし

わが友よ卒塔婆検閲されており

ホルモンを聴かせてまわるブライアン

柴錬の棄教にながい夏まつり

豪州のクイズダービーしめしあう

両性がしめじを売った暴露本

ふる雨や野球少女のビル崩れ

てにをはがぼろぼろとなる蝶の墓

くるいつつ千人針をいちど縫う

入寂がまだわからない赤マント

キョンシーの勃起をずっと説ききかせ

宇宙象たがいをしるすボルヘス忌

父の名と父ふえてゆくボルヘス忌

ボルヘス忌ビスケットわれさらにわれ

茄子の名を夏物語にてあかす

ただ踊るダメ人間のシニフィアン

ながさなき新青年の苺縫う

頭脳線のびきるときのはまじの死

縮みゆく男が草とよんだもの

市立中駱駝とよんだものがある

ＳＷＡＴがこころをとざす厨かな

おこぜ煮てこれも日本語なのだろう

たなばたが近づいてくるしまうま語

あたらしいナマコの眼から新故郷

ＤＪに愚答のつづく御庭番

鶏の脳に血しぶき村歌舞伎

ゆう焼けて河合隼雄の偽書のいろ

意のままのネス湖を撮った龍安寺

意味の意味まったくにない板橋区

文脈にながすくじらのペニス伐る

バカボンの家庭句会をまきもどす

模倣句の三軒茶屋が消えたまま

誤訳都市ひぐれマックス・ヴェーバー忌

絵本館ばらしロンサム・カウボーイ

殺陣として田山花袋にふるふとん

とうふ屋を描くエッシャーに星の日々

宮﨑の点対称を手がきして

糊の日々ＳＭ少女漫画貼る

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