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かしまし幽姫と都市伝説 其ノ七

 やっとこさ井戸の底からがって来たわ。
 全身ズブ濡れグロッキーなわたしとお岩ちゃんを眺め、お露ちゃんが楽しそうにくちずさむ。
「きっと来るぅ~♪  きっと来るぅ~~♪ 」
「それ、別の〈幽霊ひと〉ッ!」
 条件反射的に抗議したわよ!
 わたしにだって〈本家・井戸幽霊〉のプライドがあるもの!
 とりわけ、その〈幽霊ひと〉は強く意識しているもの!
「ハァ……ハァ……お菊~~ぅ! てンめぇ~~!」
「だから、ゴメンってば!」
 怖いよぉ!
 水もしたたる独眼竜のけが怖いよぉ~!
「これで、ますます真裸裂まぱさけをブン殴らなきゃ気がすまなくなったじゃねぇか!」
「どうして、そうなるのッ?」
 不屈?
 この怨霊ひと、不屈ッ?
「もうダメぇ~……わたしの手に負えな~い! お露ちゃん、何とかしてぇ~~!」
「ふぅ……仕方ありませんわね」
 泣きつくわたしに、これ見よがしないきをつくと、お露ちゃんは袖の下から一本のペットボトルを取り出した。
「お岩ちゃん? 散々息巻いてのども乾いたでしょう? はい、どうぞ?」
「ああ、スマねぇな……ゴキュゴキュ」
 何の躊躇ちゅうちょも無しにラッパ飲みしだしたわ。このガサツ幽霊。
 この上なく不自然なシチュエーションだっていうのに……。
 と──「プハァ」──まるで炭酸飲料でも飲んだかのように清涼な一息ひといきを吐くと、心なしか荒れていたオーラが若干鎮まった。
 あれ?
 で、しばしペトルを眺めると、また飲み出す。
 今度はゴキュゴキュじゃなくてゴクゴクと。
 また一段階いちだんかい鎮まった。
 ペトル見つめる。
 またまたコクコク──鎮まる──熱に潤んで見つめる──チビチビ──鎮静化──思い詰めたかのような嘆息たんそくに見つめる。
「ああ~ん♪  コレ好きぃ~~ん♡ 」
 恍惚でペトルへと頬擦りしだしたわ!
 クネクネ身悶えしだしたわ!
 キショッ!
「おおおお露ちゃん! 飲ませたのッ? 薬物ッ? 薬物入りッ? ダメだよ! 薬物はッ!」
「失敬ですわね。貴女あなた達が水芸でたわむれている間に、そこの自販機で買っておいただけですわ。まんいちに備えて……」
「だから、何をッ?」
 わたしの動揺に答えたのは、背後でトリップしているキショ幽霊。
「伊●衛門~~♡ 」
「まさかのお茶だったーーーーッ?」
「クスクス♪  お岩ちゃんを鎮めるなら緑茶の〝伊●衛門〟……ブチ切れさせるなら人間・・の〝伊右衛門〟」
「何でッ? 旦那さんと同じ名前だからッ? メンドクサイよ! いろんな意味で!」
「伊●衛門~~♡  伊●衛門~~♡ 」
 少し黙っててくれるかな?
 キショ幽霊?
「あのぉ……スミマセン?」ずと声を掛けてきたのは、放置少女の口裂くちさけちゃん。「私、帰ってもいいんでしょうか?」
「「いーよいーよ」」
「意外に友好的フランクッ?」
 り気味でユニゾるわたしとお露ちゃんに、衝撃ガビーン!
 うん、そうよ?
 そもそも、どうでもいいのよ?
 だって、お岩ちゃんに振り回されただけだもの。
「あ! でも一応、あの子に謝ってね?」
「……はい」
 わたしにうながされて、悄々しおしおと女の子へと謝る口裂くちさけちゃん。
「脅かしてしまって、すみませんでした」
「あ、いえ……あの?」
 うん♪  よしよし★
 一件落着!
「そ・れ・か・ら! もうこんな真似しちゃダメだよ?」
「はい……って、え? ええぇぇぇ~~ッ?」
「お菊ちゃん、それ遠回しに彼女ようかいへの『終活宣告』よ?」
「伊●衛門~♡ 」
「そうですよ! それ・・を禁じられたら、私は明日から何をッ?」
「マスク売ればいいじゃん?」と、無邪気な笑顔コクン★
「別に大量の在庫を抱えてるワケじゃないんですけどッ?」
「そうなの?」
「そうですよッ!」
「う~ん? じゃあ、美味しくさばく女板前さん……とか?」
「ありませんけどッ? そんなプロ技能ッ!」
「もう! 次から次へと頭ごなしに否定しないでよ! こっちは誰得承知で親身になっているってのに! じゃあ、何のための出刃包丁なのよ!」
くちを裂くためですけどッ?」
「…………」
「…………」
「道具は正しく★」
「可愛くテヘペロ正論で、私のつちかったアイデンティティー壊さないでッ?」
 何よ?
 正論なら、いいじゃない?
「伊●衛門~~♡  伊●衛門~~♡ 」
 キショ幽霊、ウルサイ!

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