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かしまし幽姫と学校の怪談 其ノ六

「赤か! 青か!」
「ふぇぇぇ~~~~ん! 開かないよォォォ~~~~!」
「ぅらあああーーーーっ!」
「「蹴破けやぶったーーーーッ? 何の躊躇ちゅうちょも無く蹴破けやぶったーーッ?」」
 わたしと〈トイレの怪〉の驚愕がユニゾン!
 忘れてた!
 お岩ちゃん、知恵の輪を力任ちからまかせで引き千切るような幽霊ひとだった!
 でも、とりあえずたすかったわ♪
 わたしは安堵の弛緩しかんから、ヨヨヨと泣きすがる。
「ふぇぇぇん! お岩ちゃ~ん!」
「逃がさねぇぞ! お菊!」
「早く閉めて〈トイレの怪〉さん! 前よりも強固に!」
「ええぇぇぇ?」
「早くしてよ! 殺気に爛々らんらんと目を輝かせた邪笑が、ズンッと一歩いっぽ踏み出してるじゃない! 魔王が迫って来ているじゃない!」
「お~き~く~~ぅ!」
「ヒィィ!」
 っていうか何で、わたし狙われてるのッ?
 猥談わいだん拒否は死刑扱いなのッ?
 もしかして、お岩ちゃん興奮に酔って〝目的〟忘れてない? 見失ってない?
「赤か? 青──」
「うるせぇぇぇーーッ! 部外者はスッ込んでろーーッ!」
「……はい」
 黙らせた。
 悄々しおしおと黙らせたわ。
 目的・・を……。
「おおお落ち着いて、お岩ちゃん! 何を、そんなに怒ってるの? お菊お姉ちゃんに話してみようか? ね? 話せば分かるから! ね? ね?」
「何を怒ってるか……だと?」伏せた顔に凄味をはらむと、魔王お岩は怒気どきのままにのたまった。「アタシがきてぇぇぇーーーーッ!」
 やっぱりわれを見失ってたーーーーッ!
 怒る理由すら見失ってたーーーーッ!
「お露ちゃん! たすけて! どうにかして!」
「クスクス……どうしましょう?」
「ふぇぇぇ~~ん! 意地悪しないでぇぇぇ~~!」
「そうですわね。では、一肌ひとはだ脱ぎましょうか」
「あ、脱いでくれる? 色情霊ビッチだけに?」
「……放置します」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
 首がもげるぐらい頭下げたわ!
 ブンブンブブブンブブブンブンと!
「では、失礼して……アタァーーーーッ!」
「うッ!」
 お露ちゃんの指突しとつが、お岩ちゃんの頸椎けいついにキマッた!
 一子相伝の暗殺神拳みたいに!
 さすが中国原産幽霊!
 うん、そうよ?
 みんな忘れているかもだけど『牡丹灯籠』って、原典は中国怪談なのよ?
「フゥゥ……経絡秘孔のひとつを突きましたわ。お岩ちゃん、貴女あなたは、もう死んでいましてよ」
 ……うん、そうね。
 わたし達〈幽霊〉だもんね。
「ぅおぉぉぉきぃぃぃくぅぅぅ!」
「パワーアップしてるんですけどッ? 独眼竜が爛々と赤く灯ってるんですけどッ? 殺気がる気にみなぎってるんですけどーーッ?」
「あら? おかしいですわね? 少々、御待ちになって?」
 お露ちゃんは袖から年季の入った古書を取り出してパラパラ──どうやら秘孔ツボを記したハウツー本らしい。
 しばらく読み漁ると、何やらしれっとした真顔でわたしを見つめて──黙視──黙視──黙視──頭コッツンコのテヘペロ。
「精力増強のツボを突いてしまいましたわ★」
 ユーはショーーーーック!
 お菊ちゃん、大ショーーーーック!
「何してくれてんのよ! このド腐れ外道ギガ色情霊ビッチ!」
わりィ菊いねがァァァーーーーッ!」
「秋田県の厄除け鬼神になってますけどッ? っていうか、この幽霊ひと厄そのもの・・・・・なんですけどッ?」
「いい加減にせんかァァァーーーーッ!」
 唐突に大便器が吠えた。
 シュールな仲裁人ちゅうさいにんに、カオスが一時鎮静化。
 三人の美少女が大便器をジッと凝視……。
 どんな絵面えづらよ!
「さっきから脱線に脱線を重ねて、ワシはそっちのけか! オマエ達、何しに来た!」
「知らね」
「確か盗撮成敗ですわ」
「巻き込まれました……シクシク」
「ホントに何しに来たのッ?」
 知らないわよ!
 このゲスの極みオバケ×2にいてよ!
「くぅぅ……ま……まぁいい! こうなったら……おい、そこの眼帯!」
「あん?」
 何が「こうなったら」なのか知らないけど、お岩ちゃんに御指名入りました。
 知らないってコワーイ。
 くわばらくわばら。
「赤か? 青か?」
「答えたらアタシに得があんのか?」
「え?」
「それよりも、勝負は常に『丁か半か』だろうがぁぁぁーーッ!」
「えええぇぇぇ~~?」
 お岩ちゃん、何を張り合ってるの?
 っていうか、賭博場通いやめてないの?
「チキン・オア・ビーフ?」
「えええぇぇぇ~~?」
 お露ちゃん、霊体なのをいい事に〈キャビンアテンダント〉へ「ハニー・フ●ッシュ!」しないでくれるかな?
「「はい、どーぞ!」」
「何をダ●ョウ倶楽部の『どうぞどうぞ』みたいなノリで、大トリをパスしてくれてんのッ?」
「ここはビシッと頼みましたわ」
「下らねぇオチ言ったら便器に叩き落とすからな」
「何でッ? 大便器に叩き落とされる井戸幽霊なんてイヤだよ!」
 とりあえず一生いっしょう懸命けんめい考えるお菊ちゃん。
 純心一途じゅんしんいちずなトコも可愛いね? えへ♡
「うーん……と……え……えーと?」
「内股モジモジすんな? ブリッコ」
「殿方読者の人気を狙ってますわね……あざとい」
「黙っててくれるかなッ? いま、あなた達のムチャぶりに答えようと考えてるんだから!」
「「はーやく! はーやく!」」
 手拍子のはやし、うるさい!
「んと……あ! この花は桜でしょうか? 桃でしょうか?」と、わたしは人差し指をあごに添えて小首コクン★
 てへ♪  可愛いかな?
「「…………」」
「意外と見分けつかないんだよねー? えへ♪ 」
「……ツマらねぇ」
 大便器から失笑されたわ。
 だから、にっこりと仕返しするお菊ちゃんなのでした★
「お菊井戸ーーーーッ!」
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁーーーー…………ッ!」
「クックックッ……堕ちなさい? そんなに穴へと潜んでいるのが好きなら、心行くまで堕ちなさい? マントルまでつなげておいてあげたから……マグマまで真っ逆さまだから……ふふふふふ」
「うわぁ……お菊こえぇー」
「さすが腐っても〈日本三大幽霊〉ですわね」
「わたし悪くないもん! 悪いのアッチだもん! プイッだもん!」
「「そのブリッコが、ますますこえぇー」」
 何よ! 失礼ね!
「!ッ……ーーーーぁぁぁぁぁぁあああゃぎ」
 悲鳴が逆再生で駆け上がってきた。
 死に物狂いでよじ登って来たわね……チッ!
 少し焼肉臭いけど……。
「しししし死ぬかと思った!」
「大丈夫、オバケは死なない……仕事も何にも無い前向きなニート……クスクス♪ 」
 そのネタ、まだ言うの? お露ちゃん?
「何してくれてんだ! この猟奇ブリッコ!」
「お菊井戸ーーーーッ♪ 」
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁーーーー…………ッ!」
 井戸内に引力の力場りきばを発生させたわ。
 再び灼熱の闇へと落ちていったわ。
「!ッ……ーーーーぁぁぁぁぁぁあああゃぎ」
 またもや悲鳴が逆再生。
 少しジンギスカン臭い。

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