かしまし幽姫:かしまし幽姫と学校の怪談 其ノ七
校舎一階を弾き崩す爆噴!
その勢いに乗って、わたし達もグラウンドへと躍り出る!
ふわりとした滞空に見下ろせば、瓦解の窟から細長い巨腕が這い出て来た!
続けてズルズルと本体……ヤツだ!
すったもんだの末に姿を現した〈トイレの怪〉の正体は、長身の巨大鬼!
「ふひゃあ? 実はトンでもないヤツだったねぇ? 六メートル……ううん、八メートル弱程度はあるかな?」
「何で屋外に出て来るなり巨大化してんだよ! ドンドン大きくなってるじゃねぇか!」
お岩ちゃんの指摘通り、校庭へ出るとメキメキ隆々と膨らんでいった。
「きっと伸縮化の妖力だよ。だって、あんな巨体じゃ校舎は疎かトイレにも潜めないもん」
白い月明かりを浴びて育つ野性味は、宛ら西洋妖怪〈狼男〉を彷彿させる。
「なるほど。正体見たり……ですわね」
「お露ちゃん? 知っているの?」
「あの巨体にして〝ジャイアント●場〟体型……そして、異様に長細い腕……おそらく〈手洗い鬼〉ですわ」
「「手洗い鬼?」」
「主に山奥に出現する巨大鬼。文字通り山を股に掛け、その山間に走る沢や川で両手を洗いますの」
「山を? でも、そこまで大きくないよ?」
「手洗い鬼の中でも小型に属するのでしょう。例えるなら〝手洗い鬼界の田中●二〟ですわね」
「田中●二? 矢口●里じゃなくてか?」
「ええ、ここは〝田中●二〟で……」
「そうか……〝田中●二〟か」
謝ろうか?
この上無く解り易い例えだけど、一応謝っておこうか?
二人共?
「だけど、何で手を?」
「「汚いから」」
「汚くないわァァァーーーーッ!」
鬼が吠えた。
妖しの月に発した第一声が、それだった。
あれ? 何だろ?
頬に熱いものが零れたわ?
「ハッ! おい、お露? って事は……まさか?」
「ええ、つまり……」
「「自宅は、ぼっとん便所!」」
異口同音にアホな結論へ着地しないでくれるかな?
「この水洗全盛期にか!」
「ええ、この水洗全盛期にですわ!」
「違うわァァァーーーーッ!」
ダメ……頬を伝う熱いものが止まらない。
「まぁ、相手が〈凶悪妖怪〉となれば話は早いですわね」
振り袖から手紙と筆を取り出したお露ちゃんは、サラサラサラと認めた。そして、それを手にクルリと背を向ける。
「あれ? 何処へ行くの? お露ちゃん?」
「決まっていますわ。ちょっと〈妖怪ポスト〉へ投函を……」
「ダメだよ!」
血相変えて引き止めたわ! わたし!
「何を〈ゲゲゲの人〉を呼ぼうとしてんのよ! 何を他力本願に大御所を呼ぼうとしてんのよ!」
「フッ、愚問ですわね。この作品は『かしまし幽姫』──こんな〝スチャラカバカ小説〟に妖怪退治バトルなど誰も望んでいません事よ」
「そうかもだけど! コンプラ!」
わたしとお露ちゃんが口論巡らせる脇で、お岩ちゃんは平然とスマホをピッピッピッ……。
何処へ掛けようってのかしら? この非常事態に?
「おぅ、閻魔大王か? テメェの甥っ子よこせ」
「そっちもダメェェェーーーーッ!」
シュバッとスマホを取り上げた!
「ゼェ……ハァ……いい加減にしてくれるかな? しゃあしゃあと畏れ多い大作と無断コラボしようとしないでくれるかな?」
「『妖怪●ォッチ』とはコラボしましてよ?」
「『ど●ろ』ともしてたぜ?」
「格! 作品の格! アッチは〈メジャー商業作品〉! コッチは〈アマチュアマイナー小説〉!」
「「誰も読まない?」」
……そこは言ってやるな。
「百歩譲って〈妖怪〉が出ても、読者が望んでいるのは『触手ヌルヌル美少女ああ~ん♡ 』ですわよ?」
「何を口走ってるのよ! お露ちゃん!」
「決まっていますわ。私が、されたい展開ですわよ」
骨の髄まで色情霊だ! この幽霊!
「だいたい! 何のための〝お岩ちゃん〟よ! いつもなら嬉々とバトるところでしょ! この展開は!」
「アタシだってヤダよ! 素手でケツ拭くような汚ねぇ妖怪は!」
「拭かんわァァァァァーーーーッ!」
鬼、烈火の如く猛抗議。
「クゥゥ……この小娘共が! どこまでも脱線に脱線を重ねおって……ワシを馬鹿にしているのか!」
憤慨を鬱積させる鬼気!
暴発の危険性を感受し、わたしは必死に訴えた!
「ま……待って! 手洗い鬼さん! あなたを馬鹿にしているワケじゃないの! 単に馬鹿なの……この二人が」
潤々と流るるは苦労人の涙……。
で、次の瞬間、ギシィィィッ!
「いい度胸してんじゃねぇか? 皿バカ?」
「イダダダダダッ! チキンアーム! チキンアームホールド、キマってるから! お岩ちゃん!」
「逝きます? 頚椎から逝っちゃいます?」
「イダダダダダダダダダダッ!」
「オマエらァァァーーッ! いい加減にせんかぶぉうッ?」
あ、陥没した。
吠えたタイミングで手洗い鬼の足場が大穴に陥没した。
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