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かしまし幽姫と学校の怪談 其ノ一

「……本当にやりますのね」
 げんなりゲロゲロテンションなお露ちゃん。
 わたし達は三人揃って、夜の校舎を見上げていた。
 うん、そうよ?
 あの女の子──〝山内やまうち友香ゆか〟ちゃん──の中学校よ?
「まったく……何で、こんな面倒ばかり……」
 ブツクサ不満をこぼすお露ちゃんに、わたしは凛と使命感を示した!
「だって! あの子、可哀想じゃない!」
「お菊ちゃん、本音は?」
「報酬の骨董大皿で~す♪ 」
 屈託なく満面ホクホクの笑顔なのでした★
 だって解決したら、友香ゆかちゃんの物置に眠る大皿が貰えるんですもの♪

「「「学校の怪談~?」」」
 打ち明けられた相談に、わたし達は顔を見合わせた。
 正直、ピンと来ない。
 だけど、思い詰めた友香ゆかちゃんの表情は本物だ。心底怯えている。
「さ……最近、頻繁に起こるんです。何人も遭遇して……追われたって話もあるし……でも、先生達は信じてくれないし……大人達にも相談できないし……」
「具体的には? どんなのかな?」と、努めて明るくき出すわたし。
「ト……トイレの花子さん……とか」
「鉄板ですわね」
「独りでトイレに入ると『赤か? 青か?』って……その声がずっと続いて……」
「あ! それなら、わたしも知ってるよ? 『赤』と答えれば〝動脈〟を切られ『青』と答えれば〝静脈〟を切られ……どちらにせよ殺されるんだよね?」
「は……はい」
「それ〈花子さん〉ではありません事よ?」
「え? で……でも、トイレに出るって……」
それ・・は〈トイレの怪〉ではあっても〈花子さん〉ではありませんわ」
「だね★ あのね、友香ゆかちゃん? 此処最近は〈花子さん〉だけ知名度が一人ひとりあるきしているけど『トイレの怪談』って、いくつかあるの」
「そうなんですか……」
「そう、みんなして〝便所飯仲間べんとも〟ですわ……クスクス♪ 」
「違うよッ?」
 何言い出したの? この外道幽霊ビッチ
 わたしイヤだよ?
 全国の〈トイレの怪〉から侮辱罪で訴えられるの!
「ん~? だけど、その『怪談』……確か昭和初期~中期に流布して、その後はパッタリじゃなかったかなぁ?」
「ええ、そうよ。お菊ちゃん。被害実例の無い殺人ですわ」
「……無いの?」
「ええ」
「誰も死んでないの?」
「ええ、一件も」
「……何で〝被害実例〟が赤裸々に伝わってるの?」
「それこそが『怪談』たる由縁。さっきの〈口裂くちさけ女〉と同じ……クスクス♪ 」
 ああ、そっち・・・が『怪談』の由縁なんだ?
 怪奇事象そのものじゃないんだ?
「要するによォ」
 お岩ちゃんがピシリと拳を叩き鳴らした。
 あ、イヤな展開の前振りだ……コレ。
「そいつ、覗いてるよなぁ? 立派な変態だよなぁ?」
 ……間違ってはいない。
 ……でも、合ってはいない。
 ついでに言えば〝変態〟で片付けられる〈怪奇現象〉が不憫。
「うしっ! シメんぞ!」
 はい、キターーッ!
 新しい粗暴スイッチ入ったーーッ!
「御待ちになって、お岩ちゃん」
「あ? んだよ、お露?」
「他に、どのような変態被害があるか確かめませんと……」
 お露ちゃん、いま「変態被害」って言ったよね?
 完全に『変態案件』になっちゃってるわよね?
「他には『笑う音楽家』とか」
「あ、音楽室の肖像画が笑うってヤツだよね? ベートーベンとかモーツァルトとか」
「こ……これは体験談があります! 私の友達が! その子、縦笛が苦手で、夕方にはひとりで音楽室で練習していたんです! そんなある日、音楽家達が笑いだして!」
「シメんぞ」
 どうして、すぐにそこ・・へ着地するのかしら?
 このガサツ幽霊?
他人ひとのコンプレックスを覗き見して、あざけわらうなんてよォ……最低の人間がやる事だ! してや〈音楽家〉が揃いも揃って音痴を笑うだァ? 自惚うぬぼれてんじゃねぇ! 肩書に溺れやがって! 音楽家失格だ!」
 違うよ?
 そういう話じゃないよ?
「他にも『走る二宮金次郎』とか『てけてけ』とか『動く人体模型』とか」
「シメんぞ」
 早いよッ?
 お岩ちゃん、思考放棄に決断早いよッ?
 まだ詳細聞いてないよッ?
「御願い! お姉さん達! ウチの学校から〈怪談〉を追い出して!」
「おぅ! 任せとけ!」
「「イヤイヤイヤイヤ!」」
 考えなしに快諾する単細胞の背後で、わたしとお露ちゃんは首が取れると思えるほどブンブンブンブン!
 一番いちばんイヤな展開にブンブンブブブン! ブブブンブン!
 こうならないように危惧してたのに!
 常日頃から!
 あのお露ちゃんですら!
 わたしは友香ゆかちゃんを正視すると、優しく諭すようになだめた。
 潤む瞳は憐憫れんびんを抱かせるけども……ゴメン!
「あのね? 友香ゆかちゃん? わたし達〈妖怪退治のヒーロー〉じゃないの。そんじょそこらにいる〝一般いっぱん幽霊ゆうれい〟なのよ?」
「お菊ちゃん、幽霊は〝一般いっぱん〟じゃないわ」
「とりあえず、そういう案件は何処ぞの〈妖滅戦隊〉へ★」
「メタですわね」
「で……でも! お姉さん達、強いじゃないですか! きっと『学校の怪談』にだって勝てるじゃないですか!」
「あたぼうよォ! 任せとけ!」
「「イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ」」
 ブンブンブブブン! ブブブンブン!
「御願いです! お皿ありますから!」
 ピキーーン!
 わたしの脳内で黄金文字が輝いた!
 『YES』という黄金文字が!
「……お皿?」
「はい! 亡くなったお爺ちゃんが趣味で〝古いもの〟を集めていたんです! 私に価値は解らないけど、結構大きいヤツでした!」
「ウフ……ウフフフフフ♪ 」
「え? お菊ちゃん?」
「……やるよ?」
「お菊ちゃんッ? 帰って来て下さいませんッ?」
「やるよ! お岩ちゃん! お露ちゃん!」
「ちょっとーーーーッ?」
「おしっ! お菊も、ようやくる気出したか! それでこそ、アタシの舎弟だ!」
 舎弟になった覚えは無いし、宛字が違う気がしたけど……まぁ、いいわ。
 お皿に免じて呑み込んであげる。
 そもそも乗り気の単細胞は、これで参戦確定。
 あとは……。
「フッ」
 閑雅かんが微笑びしょうに髪を鋤き流し、お露ちゃんは……駆け出した! 猛ダッシュで!
口裂くちさけさ~ん! 先程のビジネスの件ですけれど~?」
 ガシリと右腕を掴むお岩ちゃん!
 そして、ちゃっかりと左腕を押さえるわたし!
「放して! 御放しになって! 御帰りはコチラで~す!」
「逃がさねぇぞ、お露!」
「うふふ……お皿……お皿…………」
「お菊ちゃん! 目、イッてますわ! 恍惚にヨダレ垂らしてますわよ!」
「お皿が一枚~……お皿が二枚~……お皿が…………」
「怖ッ? 番町皿屋敷、怖ッ? こういう怖さだったかしらッ?」
「アタシらは一蓮托生いちれんたくしょうだ!」
「ウフフフフ♪  にえ~……〈お皿様〉のにえ~……」
「イヤ! 放して! 婆やぁぁぁ~~~~……!」
 そのままズルズルと身柄拘束されたわ。
 またまた古典怪談から『Xファ●ル』に推移したわ。
 うん、でも、いいのよ?
 だって、総ては〝お皿〟のためですもの♪

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