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松下幸之助と『経営の技法』#355

2/4 徹し方の差

~社会に対して責任を果たすことに徹する。その徹し方に「これで十分」などない。~

 例えば、2つの会社がどちらも社会に対する責任ということを考えて仕事をしている。けれども、その徹し方に紙一重の差がある。そうすると、同じようにやっていても、一方は「これで十分だ」と考えるが、もう一方は「まだ足りないかもしれないぞ」と考える。もう十分だと考えると、お得意先から苦情があっても、「ああは言うけれど、うちも十分やっているのだから」というようなことになって、つい反論したりする。
 けれども、まだ足りないと思えば、そうした苦情に対しても敏感にそれを受け入れ、対処していくということになる。そういうことが、商品の上に、技術の上に、販売の上に、さらに経営全般に行われ、それが立派な業績をあげることに結びついてくるわけである。
 そのようにして、最初は紙一重の差にすぎなかったのが、年月を重ねるにつれて大きな差を生むようになってくる。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資先です。しっかりと儲けてもらわなければ困りますが、投資家も、経営者の資質を見極めなければなりません。
 今日の話は、気持ちがあっても、僅かな違いの積み重ねが大きな差になる、という点です。
 ここで、興味深い数値があります。
 1.01の365乗は、37.7834343329となります。毎日、1%成長を続ければ、1年後、38倍近くになるのです。
 他方、0.99の365乗は、0.02551796445となります。毎日、1%縮小を続ければ、1年後、僅か2.5%にまで縮んでしまいます。
 証券アナリストの試験勉強で、「複利計算」の例として示されたもので、受験生は毎日コツコツ勉強するように、という教訓もこもっています。
 これは、経営者側の意識の持ち方としても、当てはまるでしょう。顧客からの要望や指摘に対し、常に応えていく場合と、その一部についてだけ応えていく場合とでは、時間が経過すると大きな差が生まれてしまうのです。
 このことを、経営者に対する資質や教訓として捉え直すと、経営者には仕事に対するこだわりや執念が必要、と言うことができます。例えば、急成長した会社の経営者には、自分のこだわりで従業員を振り回すタイプの経営者が多くイメージできますが、それが仕事の品質などへのこだわりに基づくものであれば、まさにここで松下幸之助氏が指摘する経営者の資質に合致する、と評価できるでしょう。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 経営者の意識を、組織として現実化し、体現するのが会社です。つまり、会社組織は経営者のツールです。そうすると、経営者のこだわりを組織としても徹底できるように組織を作り上げることが必要です。
 けれども、組織を構成するのは生身の人間です。
 当然、松下幸之助氏も指摘するように、「これで良いじゃないか」という気持ちを抱く場面があります。
 ですから、会社組織としては、①そのような気持ちになるのを防いだり、②そのような気持ちになっても頑張ったりするような仕組みづくりが重要となります。
 ここで、松下幸之助氏が従業員に語りかけている(ように見えます)のは、前者①の施策の1つになります。つまり、従業員1人ひとりに、妥協しないようなこだわりを持ってもらう教育や訓練を続けるのです。しかも、1回話をすれば十分、ではなく、皆の意識が変わっていくまで、辛抱強く継続的に繰り返し行わなければなりません。
 さらに、後者②の施策も重要です。
 つまり、「これで良いじゃないか」という気持ちになっても、もっと頑張ってもらうような仕組み作りです。そこには、当然「飴と鞭」のように、モチベーションとしてメリットを与える施策もあれば、ペナルティーとしてデメリットを与える施策もあります。よく言われることですが、日本に多かった「減点主義」の人事考課は、従業員のミスを非難し、不利益を与えますから、新しいことに取り組む意欲を阻害します。
 具体的に、ここでの松下幸之助氏の指摘する場面に当てはめてみましょう。
 顧客からの苦情やアドバイスのうち、これに対応しなければならない従業員は、自分の不利益につながるような斬新なもの(=新たなチャレンジが伴うもの)について、何とか理屈をつけて対応しないようにしようと考え、行動してしまいます。「減点主義」は、「これで良いじゃないか」という気持ちになっても、もっと頑張る、という目的に照らした場合、逆方向に働く施策なのです。
 図式化した単純な従業員イメージですら、ここまで込み入っています。
 実際の従業員の意識や言動は、会社の状況や職場の状況、各自の家庭環境や人格等によって、もっともっと多様です。安易に、従業員の気持ちを操作しようとするのではなく、各自の気持ちに寄り添った対策の中から、会社としての施策が見えてくるのです。

3.おわりに
 経営者の立場と、会社組織と、2つの視点で分析すると、かなり立体的に事案分析できるように思います。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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