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松下幸之助と『経営の技法』#341

1/21 自分の能力を検討する

~能力や適性は固定的なものではない。自らの努力で進歩向上させることができる。~

 100の力をもった人はそれを適正に認識し、少なくとも95の仕事をやるということでなくては、本人のためにも社会のためにも損失である。そのように常に自分の能力というものを検討し、その適正に合った仕事をしていくということになれば、そこにおのずから不平不満はなくなり、むしろ喜びと楽しみをもって仕事ができるようになってくると思う。大きな仕事をすることが尊いのではない。仕事に成功することが尊いのである。
 ただその場合もう一つ大事なことは、そのような能力なり適性というものは、固定的な不変のものではない。というより、多くの場合は進歩向上するものであり、むしろ自らの努力で進歩向上させなくてはならないものなのである。だから一面に、その時その時の自分の力を検討し、それを超えた仕事をしないということを心がけつつも、次にはさらに大きな仕事、高度な仕事に適応できるように自分を高めていくということが必要であると思う。そういうことが、自分自身にとってその働きが有効に生かされ大きな喜びとなるし、ひいては会社や世の中にも貢献する結果になると思うのである。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 ここでは、①従業員の成長の在り方について言及されています。それは、巷で言われるOJTのようなものよりも、自己鍛錬のようなものに近そうです。というのも、自分の力を超えた仕事をしない、としつつ、「次にはさらに大きな仕事、高度な仕事に適応できるように自分を高めていく」として、成長してから仕事に挑む、という関係が示されているからです。OJTには、少し背伸びした仕事をこなすことで成長する、というニュアンスが伴っているのです。
 けれども、ここではそのような方法論の他にも、重要なことがいくつか含まれています。
 まず、②「己を知る」こと、すなわち自分の力を知ること、です。「己を知る」ことの重要性は、古来様々に表現されてきたことですが、ここでも「己を知る」ことが無ければ、次に検討するような重要なことが実践できません。成長にしろ、自己実現にしろ、その出発点となる重要な事柄なのです。
 次に、③自分に合った仕事をすること、実力を生かし切ることの重要性です。これは、近時「自己実現」と言われるもので、自分自身の存在意義や手応えを実感することが、人間としての尊厳そのものであり、幸福感につながる、という発想です。自分の実力が発揮されていれば、会社の中や社会との関係で自分自身の存在に対する手応えが実感できるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資対象ですから、しっかりと儲けてもらわないと困ります。逆に、投資家はそのような経営者の資質を見抜くことが必要です。
 この観点から見ると、特に上記②③が重要になるでしょう。経営者が「己を知る」こともなく、無謀なことばかりしていては困りますし、経営者が会社経営に充実感を覚えてもらわなければ、いつ会社経営を放り出されてしまうかもしれません。会社従業員にとっても、経営者が辛そうに経営していれば、一緒に働いていて辛く感じるばかりです。
 このように、従業員に対する話ですが、経営者としての在り方にも関わるのです。

3.おわりに
 問題は、前日1/20の#340との関係です。
 1/20の#340では、合わないと思う仕事でも、意義を見出すまで頑張れ、という趣旨の話でしたから、今日の話と、内容的に矛盾する面があります。
 要は、どちらが正しいのか、という選択の問題ではなく、④バランスと見極めの問題です。頑張るべき時に早々と投げ出しても駄目だし、きっぱりと見極める時にぐずぐずとしがみついても駄目です。1/20の#340と合わせて読み込むことで、このようなバランスや見極めの問題も見えてくるのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

SMBCseminar(A4)_産労用チラシ_表面


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