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松下幸之助と『経営の技法』#353

2/2 自分の働きを評価する

~今月の働きを評価し、自問自答して、自分の働きを高め、新しい境地をひらいていく。~

 皆さんの月給が仮に10万円であれば、10万円の仕事しかしなかったら、会社には何も残らない。そうなれば会社は株主に配当もできないし、国に税金も納められない。だから、自分の今月の働きが、はたしてどのくらいであったかということを、常に自分に問うていく必要がある。
 もちろんどの程度の働きが妥当であり、望ましいかということは一概には言えないが、まあ常識的には、10万円の人であれば少なくとも30万円の働きをしなくてはならないだろうし、願わくば100万円やってほしい。
 そういうふうに自分の働きを評価し、自問自答して自分の働きを高め、さらに新しい境地をひらいていってもらいたい。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 ここで、月給の3倍は稼いでほしい、という経営者の希望が述べられていますが、この金額的な感覚は、例えば法律事務所の経営者が、弁護士を雇う場合などに実際によく言われる感覚です。すなわち、事務所の維持にかかる諸経費を考えれば、手取の3倍は稼いでくれないと、事務所を維持できない、というを意味します。
 このような感覚は、会社従業員が長くなると、どうしても希薄になってしまいますが、フロントで稼ぐ役割と、裏方としてこれをサポートする役割など、チームとして動いていることを考えれば、当然理解できるはずです。
 ときに、自分が稼ぎ頭だ、それに会社は十分応えていない、という不満を抱く従業員がいますが、そのような人は、実際に独立して事業を始めてみればわかることです。会社の名前・暖簾・看板や、組織のサポートを失っても、従前どおり稼ぐことは、実際には非常に困難です。むしろ、もらっている月給の3倍稼げばいい、というのは、非常にリーズナブルである、ということが理解できるはずです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資先です。しっかりと儲けてもらわなければ困りますが、投資家も、経営者の資質を見極めなければなりません。
 経営者は、与えられた機会や資本を最大限活用し、利益を上げ、投資家の負託(ミッション)に応えなければなりません。その状況を測定する指標の1つが、収益率であり、固定費や経常費などのコストの割合が重要となります。このコスト部分の割合を減らしていけば、経営として効率的であると評価できますので、これを減らすことが経営の重要な指標となります。
 この観点からいえば、各自、給与の3倍稼いで欲しい、というレベルから、これをより小さくしていくことが、経営効率の観点から見て好ましいことになります。
 けれども、松下幸之助氏は、できれば10倍稼いで欲しい、と言っています。この点は、経営効率の観点から言うと逆の方向に働くべき「要望」であり、見方によっては、経営者としての責任を放棄しているようにも見えます。
 しかし、経営者は将来への投資も求められます。継続的に収益を上げられるようにしなければ、投資家の本当の付託に応えられません。そこで、組織のために稼いで欲しい、という発言につながるのでしょうか。さらに言えば、次代の経営者の候補として成長してもらうためには、相当の存在感を示して欲しいので、より高いレベルでの実績を残して欲しい、ということかもしれません。

3.おわりに
 機会があるたびに指摘していますが、松下幸之助氏が創業の早い段階から使用し、磨き上げてきたビジネスモデルは、従業員にどんどん権限移譲する、というビジネスモデルです。すなわち、氏の経営モデルから見ると、単に聞き分けのいい忠実な部下を沢山集めるのではなく、逆に、多少反抗的でも、自分の代わりに仕事の一部を任せられるプチ経営者を沢山育てることが重要です。
 組織として、これくらいは稼いでくれ、というだけの話(従業員1人ひとりに期待される売り上げのレベル感の話)だけでなく、もう少し突っ込んだ「期待」が示されている、と思います。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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