松下幸之助と『経営の技法』#286
11/27 生成発展は自然の理法
~古きものが滅び、新しきものが生まれる。それは自然の理法に従った生成発展の姿。~
生成発展とはひと言で申しますと、日に新たということであります。毎日毎日が新しい人生であり、一瞬一瞬が新しい”生”であるということであります。毎日毎日が新しい生まれ変わりであり、一瞬一瞬に新しい生命が躍動しているということであります。これを言い換えますと、古きものが滅び、新しきものが生まれるということであります。すべてのものは一種の間も静止しておりません。絶えず動き、絶えず変わりつつあります。古きものがやがて滅びゆき、これにかわって新しきものが次々に生まれてくるのであります。この姿、これが生成発展の姿であります。そして万物すべてがそれに従って動いている自然の理法であります。すなわち、古きものが滅んで新しきものが生まれてくるのは、すべて自然の理法に従って営まれている姿であり、これは動かすことのできない宇宙の摂理ではないかと思うのであります。
このように考えますと、生あるものが死にいたるのも、実は生成発展の姿であるということがわかってくるのであります。死ぬということは滅びるということであります。しかしそれは次に新しい生の芽生えを生み出しているのであります。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)
1.内部統制(下の正三角形)の問題
まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
組織内部での「生と死」という場合、1つ目には、従業員の「生と死」があります。
もちろん、例えば「死」と言っても、本当に従業員が在籍中に死亡する場合もありますが、現実的には従業員が会社を離れることと、会社に入ってくることが、それぞれ「死」と「生」に例えることが可能です。会社は、ほとんどの場合一時的なものとして設立されず、長く継続的に利益を上げることが期待されて設立されます。その間、従業員の入れ替わりは当然想定するべきでしょう。そのように、大きな会社は従業員の入れ替わりがあっても、事業が継続するような仕組み(サステナビリティ―)が必要です。
さらに、新しい従業員を取り込むということは、会社を活性化させることにつながります。このことは、程度の差はあれども、会社を去っていく人もいる、ということですが、会社を去っていく人だけを見て悲しい思いをするべきではない、ということを、松下幸之助氏の言葉から読み取ることが可能です。
2つ目には、事業の「生と死」があります。
帝国データバンクの調査で、日本には創業100年を超える長寿企業が世界で一番多い、と言われており、長寿企業の秘密を学ぼうとする「老舗学」も盛んです。長寿の背景は、もちろん会社によって異なりますが、異口同音に指摘されるのは、「コアな部分へのこだわり」と、時代に合わせる「柔軟性」のバランスのようです。
この観点から見ると、特に柔軟性の部分で、事業の「生と死」が重要になります。将来性の無い事業を早く見極めて清算し、新しい事業を育て続けること、すなわち、受け身としてではなく、積極的に「生と死」を働きかけていくことが必要となるのです。
2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
経済の観点から、会社の生と死、という問題を見ると、会社自体の「死」の問題があります。特に最近は「ゾンビ企業」という言葉も出てきたように、本来消滅しているべき会社が無理して生き延びてしまい、店を畳むタイミングを逃してしまったために、取引先や従業員への債務が支払われずに社会に迷惑を与えたり、本来、新しい会社が生まれ育つべき場所が空かないために、経済状況が悪化したりする、という問題です。
また、投資家と経営者の関係で見ると、経営者の交代の問題もあります。危機管理の問題として、経営者に万が一のことがあればどうするのか、という問題もありますが、より積極的に経営者の交代を意識することも、経営戦略として考えなければなりません。後者の経営戦略に関して有名なのは、世界的に有名なGE(ジェネラルエレクトリック)です。グループ全体の経営者については、新たな経営者が選任された時から後継者レースが開始されます。経営者の仕事のかなりの部分が、次の後継者を育て、選ぶことである、と言われています。
3.おわりに
このように、企業活動も、様々な場面で「生と死」が問題となり、しかも、それは意識的にコントロールすべき問題です。
経営者である松下幸之助氏が、人間の「生と死」に対して興味を持ち、深い洞察をしている背景には、このような事情もあるのでしょう。
どう思いますか?
※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。
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