詩)センチメンタルバス

足先からはじまるロマンス
42度に熱された水面に
恐る恐る踏み入れる
皮膚をわたる確かな拒否
徐々に体を沈める
やがて皮膚
そしてからだに同化する

湯船の中で
天井見上げて
満天の星空望んでた
欲しかったものは
全部向こう側に消えた
密やかに
たちのぼる湯気

真夜中の風呂場では
誰でもない誰かの名を
呼びたくなる
白光りするバスタブ
壁に付着する水蒸気
風呂場の壁に向かって
叫んでみる

声を上げて
指先を泳がせて
事実隠蔽のために
しぶきを上げた
体を揺らし
波間に悶え
何度でも叫んだ

けれど
声にならない声は
空を切った
もしくは反響して
塊になって残った
流しきれなかった石鹸のカス

切っても切っても
絡みつく
水のあと
濡れた髪から
微かにあぶらが香る
解かれた夢は
再び硬くしまった

やわらかい布に
身を託して
しばしの夢を
終わらせる
感傷は美しくも
この身を鈍らせて
正直な叫びを奪ってゆく

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