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私の知らない私を覚えていてくれて、ありがとう

数年前、地元の同窓会に参加した。

面倒臭がりでそういうのにほとんど顔を出さない私にしては、珍しい。息子が1才を過ぎ、少し外の風にあたりたかったのかもしれない。

新しいけれど、小さな小・中学校だった。

2クラスなのに毎年クラス替えがあれば、学年全員のフルネームと兄弟関係が分かるようになるのは必然だった。

指定された居酒屋の大部屋に入って見渡すと、ぱっと見て誰か分かる子もいれば、名前を聞いて「えーー!?」っとなる子もいる。

数人の女子を除いてほとんどのメンバーが中学卒業ぶりで、特に男子はすっかり大人というかおっさんになっていた(当然)。

でもどの子も(もう「子」という年でもないが)笑顔になると昔の面影があり、懐かしい気持ちがじわりと溢れた。

しかし久しぶり過ぎて、以前は男女とも呼び捨てかあだ名だったから、大の大人を今も呼び捨てにしていいのか、ちょっと戸惑ってしまう。

幹事は「福井くん」。←(一応くん付け)

彼は中1で転入してきて、帰国子女で英語がペラペラだった。色白で女の子みたいに可愛い顔、でも英語の授業で先生に「その発音違います」と発言したり、ちょっと浮いていた。さらに泣き虫でおちょくられるとすぐ泣いちゃう。意地悪な子の標的になりそうなものだが、彼のちょっととぼけたキャラが憎めず(ウエンツくんと雰囲気が似ている)そのうちいい感じに馴染んだ。

そんなに彼と仲良かった記憶はないんだけど、「福井の家にみんなで夜ハムスター見に行ったよな」という話題になる。

あ……あった!すっかり忘れてた!!

ある日の夜、急に福井くんから

「飼ってるハムスターに子どもが生まれたんだ!!見に来て!!」

と、興奮した声で電話があった。

当時はもちろん携帯なんてない。家電だ。

そんなお誘い初めてだったし、もう19時を過ぎていたが、面白そうで行ってみることにした。

福井の家には、すでに数人集まっていた。結構な人数に電話したんだな。愛するハムスターの出産に、福井も余程ハイになったのだろう。(あ、いつの間にか呼び捨てに)
何人かはハムちゃんを分けてもらう約束をしていたと思う。

初めてのお家で、ガキ大将も暴れんぼうもマジメな学級委員長も女子も、みんなでそっとハムスターのかごを覗きこんでいたあの時間は、思い出すとなんだかすごく貴重だった気がする。

「あの時さ、みんなが家に来てくれて、本当に嬉しかったんだ」

大人になった福井が、あの頃と同じ瞳をしてはにかむ。

すると隣に座っていたヤマケンが、

「俺、チョウスケさんちに誕生日パーティ行ったよね」

と言い出す。

ヤマケンは、少しコワモテで大人びた雰囲気の無口な少年だった。
私は彼とほとんどしゃべった記憶がないのに、私の誕生日パーティに来たとな!!??

あ、ちなみにチョウスケは、かつて男子どもが私につけたあだ名だ。いかりや長介さんと名前のある部分が一緒で、面白がってつけられた。昔は「チョウスケー!」と呼び捨てだったのに、久しぶりなので「さん」づけにしてくれたんだろう。でも私の名前は「チョウスケ」ではない。

「チョウスケさんちにさ、プレゼント持っていって。そしたらお返しに外国の置き物みたいなの貰ってさ。まだウチにあるよ」

ああぁーーー。

確かに小学生の頃、家でお誕生日会を開いてクラスの子を呼ぶの流行ってたな。でも仲良しの女子はともかく、男子も呼んでたっけ。 

うちの父は、仕事で海外に行くとお土産に気に入った小物を大量に購入してくる癖があり、たぶんそれをお返しに渡したのだろう。

ほかにも

「チョウスケさんのお父さんに、車で送ってもらったことがある」

と、その時に父と交わした会話まで覚えてる子もいて、不意に目頭が熱くなる。

私も覚えていない私のことを

今は亡き父とのことを

覚えていてくれたひとがいる

それは予想外で、もの凄く嬉しい発見だった。

この事に限らないのだが、私はこどもの頃の記憶がぼんやりで、印象的だったこと以外あまり覚えていない。

だからみんなが教えてくれる「私」や「私の家族」との思い出は、キラキラとした小さな宝石みたいだった。

「私、5年生で転校してきたじゃん。廊下でいちばんにミズ(これも私のあだ名)が声かけてくれたんだよ。転校生?よろしくねーって。」

まじか。なんかめっちゃいい奴じゃん私!しかもやっぱり覚えてない。
でもこの話をしてくれた子は高校も部活も一緒の仲良しで、むしろなぜ今までそんな素敵エピソードを言わんかった!と聞いたら、

「えーーーなんか言う機会ないじゃん笑」

とのこと。まあね。

ひとが覚えている自分って、どこを切り取られてるのか全く分からないんだな。

私も「あの子は文化祭の小物作り、ハサミさばきが神だった」とか「あいつはいつも強気なのに給食のトマトで泣いてたな」とか、本人はすっかり忘れてるかもしれないことを覚えてる。

クラスメイト、同級生、級友。

学生時代はそれ以上でも以下でもなく、仲良しを除けばたまたま一緒になったメンバーという認識しかなかった。

でも振り返れば、学校行事にまつわるあれやこれや、くだらないやりとりに喧嘩、だらだら残った放課後、待ち合わせて行ったプール、公園に持ち寄った花火。

私の思い出には彼らがいて、
彼らの思い出の中には、私がいる。

そうか。それが「同級生」か。

* * *

二次会はカラオケになり、ぞろぞろと移動し始める。遅れて二次会からの参加者もいるらしい。

席が離れていてあまり話せなかった子たちが、二次会で話そうよー!と誘ってくれる。

でも、私は帰ることにした。

夫は「ゆっくりしてきなよ」と言ってくれたけど、息子が寝ぐずってないか気になるし、まだ長時間離れてるのは落ち着かない。

それに、また数年後。数十年後?

何が出てくるか分からないこの小さなお楽しみは、いっぺんに味わうの勿体ないでしょ。

いずれは、鉄板ネタの思い出話を繰り返しゲラゲラ笑い合うだけになるのかもしれない。それはそれでいい気もするし。

そういえば「チョウスケに『さん』はおかしいでしょ」と言い忘れたな。これも今度、だな。

久しぶりのアルコールでほわりと火照った顔に夜風が気持ちよく、ゆっくり、ゆっくり、歩いて帰った。


* * *

こちらの企画に参加させてもらいました♡

たぬきの親子さんのこのお話……キュンとします。ぜひ読んでみてください…♡♡

前回の企画もいいなぁーと思いつつ参加できなくて残念だったので、今回は!と思い飛び込んでみました(ノ*>∀<)ノ

書いてみたら「青春」一歩手前、くらいの懐かしいひとたちの話になりましたが、皆さんの青春話も聞いてみたいです♪

たぬさーん、素敵な企画をありがとうございます♡♡





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