【2022年4月~義務化】中小企業のハラスメント対策での注意すべきポイント。
中小企業のハラスメント対策の義務化
2020年6月より施行されていたハラスメント対策が2022年4月には中小企業にも義務化されます。
正直なところ、中小零細企業がこのような法改正を対応するためには、非常に労力を伴うものです。そのため、改正内容に対する対策などを社労士業務として行えるように、私自身も厚生労働省のウェブサイトを「ガン見」し、専門書籍を数冊購入して、自身の知識内容を強化してきました。
今回の法改正に伴って、厚生労働省での力の入れ具合は中々のもので、非常に内容の濃い特設サイトを開設しております。マニュアル、フォーマット、研修資料等……書籍を買わずとも、対策を行うことができるので非常に便利です。ただし、専門書籍は更に難しい法律の内容をかみ砕いて分かりやすく、かつ、一般論や判例にとどまらず予防・対応など、役に立つ内容に仕上がっている書籍が多いため、企業の人事労務担当者や、中小零細企業の事業主の皆様には1冊ぐらいは総合的な書籍は手元にあってもいいかなとも思います。
また、書籍は買わずともネット上を検索すれば、今回のハラスメント対策・対応に対しての解説をしている記事や研修動画もたくさん出てきますので、このようなものを活用して対策を行うことも1つの方法です。
……で、法律の内容や対策・対応についてはそのような専門書や解説の方が詳しいので、そちらを見ていただくこととして、ここでは中小零細企業が対策・対応をするときの注意点を少し整理してお話をさせていただければと思います。
まず、最初に言っておきますが、私が書く内容は個人的な意見であります。
ここで出てくる、弁護士さん・社労士さん・カウンセラーさんの皆様の情報につきましては私としては非常に参考になりましたし、実践をしていく上では必要な情報であると思っておりますので、お間違えの無きようにしていただきたいと思います。
1・自身がハラスメント無くすという強い意志
そもそも、これを持ち合わせていないと絶対にうまく行きません。
私も就職氷河期時代に学校を卒業した世代ですが、私たちが若い頃は「パワハラ」「セクハラ」なんて当たり前!……とは言いませんが、まぁ、結構色々とありましたし、ここでは偉そうなこと書いてますが、正直なところハラスメントまがいの行為をしたこともありました。
丁度その世代が経営者となり、企業のトップになったのはいいですが、自身が受けてきた「指導」と言われるものを当たり前に思っていると「ハラスメント」は無くなりません。もしそうであるならば、自分自身が変わり強い意志を持つことは絶対条件となります。
また、仮に自分はそうではなくとも、長年会社に貢献してきた会社の中心人物がハラスメント体質であった場合、結局その人物を戒めることが出来るのは経営者でしかありません。
「ハラスメント」は会社にとって大きなリスクになるという事を十分に理解し、強い意志を持つことが必要です。
2・誰がやるのか、誰に頼むのか?
中小零細企業にとっては悩むところではあります。
私個人としては、このような従業員とのコミュニケーションを最終的には必要とすることの場合は、自社内で行うことをお勧めいたします。
これは、担当する経営者の方々や従業員が自ら危険性について理解をすることで、より良い社内環境の整備に役立つと思っているからです。
また、外部に委託するにはそれ相応のコストがかかります。中小零細企業にとってこのコスト負担に関しましては非常に大きいものとなります。
ただゼロから始めるのは大変だという事であれば、弁護士の先生や、私たち社会保険労務士、またはカウンセラーの先生に社内で研修で重要性のレクチャーをしていただき、実際の運用での対策・対応は自分たちで行うというのが運用の上でもコスト面でも理想ではないかと思っております。
とは言え、中小零細企業の規模にもよりますが、10~20名ぐらいの会社では、とてもではないが自社では対応できないという場合もあるのではと思います。その場合、誰に依頼をするのかですが、私が考えるのは
(1)既に問題が出ているならば「弁護士」の先生
(2)問題は無いが法律面での対応が必要ならば「弁護士」または「社労士」の先生
(3)問題も無いし、法律面での対応は済んでいるならば「カウンセラー」の先生に頼んで教育研修
という感じで考えていただければと思っています。
つまり、法律面での対応は「弁護士または社労士の先生」、社員教育部分では「カウンセラーの先生」という具合です。ただし、同じ研修でも管理職向けの研修で法律的な内容を多く必要とする研修・教育の場合には「弁護士または社労士の先生」にご依頼することをお勧めします。
ただし、これはコストの掛かる話ですので、十分に検討した上で外部に委託をするのか考えましょう。
3・ここまではOKのラインは決めない
結構聞かれることが多いのではと思っております。
「どこまでなら大丈夫なのか?」
個人的にはこのような「ライン」を作ることは止めた方がいいと思っております。
そもそもハラスメントとは受けた人間が嫌だと思えば成り立つところにあります。すなわち受けた人間が嫌だと思わなければハラスメントにはあたらないということ。
例えばですが、女性に対して雑談で「下ネタ」を振りまいたとします。この何気ない会話を「面白い会話」と思うか「セクハラ」と思うかは受け手側の判断です。セクハラでいうならば、社内不倫をしていたとします。不倫の最中は「禁断の恋」ですが、別れてしまえば「セクハラ」です。
更に、指導に対しては誰に対しても公平に、かつ、丁寧な指導を心がければハラスメントになる可能性は少ないということ。
例えばですが、自分の部下に顧客の経営者の息子が修行のために入社したとします。これが失敗の連続どころか職務態度も悪いので指導をするわけですが、ハラスメントまがいのことが出来ますか? そりゃ出来ないですよね。だって、いずれは顧客の社長かもしれない自社の命運にかかわる人に対する指導ですからね。これが誰に対しても同じ対応を心がけるということです。
厚生労働省の指針でも、簡単ではありますが、これはハラスメント、これはハラスメントならないという目安を公開しております。
厚生労働省の指針を細かく読むとあくまでも個別の事案の状況によっては判断が異なる場合もあるという記載もありますので、きちんと理解をしないで、このような目安ばかりに頼るのは非常に危険です。
大事なことは、誰に対しても公平で、かつ、職務に関わらない会話については内容に注意を心がけるという事を肝に銘じること。
たったこれだけです。
4・相談窓口
相談窓口に関しては、結構面倒ではないかと思います。
「2・誰がやるのか、誰に頼むのか?」の項目では外部に委託するのは「コストの掛かる話なので十分に検討をしましょう」なんて言っておいてなんですが、そもそも、20人程度の中小零細企業の場合、社内で窓口なんて設置するのは無理があるのでは? と感じています。
特にセクハラなんですが、プライバシーに直結するようなハラスメントの場合、小さな会社ではその相談を受けること自体が窓口担当者にとって、大きな負担になりますし、また、相談をする方も相談しにくい環境になると思っております。
相談窓口を経営者が行うというのも一つの手だとは思いますが、かといって、いきなり相談をされて対応を間違っても……という感じです。
このハラスメントの相談窓口ですが、外部機関に相談窓口を委託してもよいことになっております。もし、顧問の弁護士の先生か社労士の先生がいる場合には窓口の設置が出来るか相談をしてみましょう。
5・コミュニケーションや組織を円滑に進めるための改善は絶対的に必要
社内からハラスメントを無くしたいと思っている場合には、法律的な対策を行って万全ではなく、主にカウンセラーが行うような教育的な対策、例えば「アンガーマネージメント」や「アサーティブコミュニケーション」さらには最近結構話題の「アンコンシャスバイアス」や「心理的安全性」など、コミュニケーションや組織を円滑に進める方法などの改善は絶対的に必要になると思います。
「昔はこうだった」とか「自分もこうして指導された」という所謂ハラスメント体質の人達に多い意見ですが、そういう人達に対しまして、私の個人的意見としましては、「その世代を作ったのはあなた達の世代です」という事を忘れているのでは? と思っており、改善が必要なのは言うまでもありません。
御存じの方もいらっしゃるとは思いますが、最近では「Google re:Work」などで働き方の新しい事例なども参考にすることが来ます。
何も専門的な研修を受けなくとも、こういうことがあるんだという事を知るだけでもある一定の効果はあるかと思います。中々カウンセラーやコンサルタントにまで費用が出ないという中小零細企業様では、先ずはこういったところから参考にしてみるのはいかがでしょうか?
まとめ
今回のハラスメント防止法対策のような対応を行うには、大企業ならばそこに向かって人材を割くこともできますし、外部に委託する費用を捻出することも可能ですが、中小零細企業では人材面やコスト面で非常に難しいところがあります。
かといって、これは義務ですので中小企業とてやらなければなりません。
その中で、比較的コストを掛けずに対策を行っていくためには経営者の方一人ではできません。従業員の皆さんでアイディアを出し合い、チームとしてこの対策を完成させようという意識が必要なのではと思っておりますし、そうやって皆さんで協力し合う事こそ、ハラスメントを防止するための一歩ではないかと思っております。
ここまで長文を読んでいただき、誠にありがとうございます。
SDG’sの8番目の項目として「働きがいも経済成長も」という項目が定められていますが、これはすべての人のための継続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進するという意味です。
私たち社会保険労務士としては、中小零細企業様のSDG’sへの取り組みの手助けできればと思っております。
そのための情報提供を心がけていきたいと思っておりますので、今回の内容もご参考にしていただけますと幸いです。
【お問い合わせ】
151社労士オフィス
社会保険労務士:石田 貴義
https://151sr.com