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エッセイのようなもの

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子どもたちのこと、思い出ばなし、自分のことなどなど。
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2022年1月の記事一覧

イチジクジャムはたっぷりと

イチジクジャムはたっぷりと

 休日のある日。

 起きなくてもいいのに朝はやく目が覚めてしまった。やけにおなかがすいている。

 そうだ、ホットケーキをやこう。家族だれも起きてこないうちに、やきたてを食べるんだ。なんだかウキウキしてきた。

 いつもより時間をかけて準備をする。材料をていねいに混ぜて合わせ、フライパンを熱する。ぬれふきんの上にフライパンを置いて、少し熱をとってからやき始めた。特大サイズのホットケーキ。

 幼

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ありがとねぇ、クロ

ありがとねぇ、クロ

 2022年1月13日の夕方。
 我が家の愛犬、クロはのちの世に旅立った。

 クロが我が家に来たのは、10年ほど前。同じ敷地内に住むわたしの両親が犬を飼うことに。父は保健所の犬を引き取ることに決め、小さなみかん箱ひとつをもって、犬を迎えにいった。やってきたのは、体重20キロの中型犬。当然、みかん箱には入らない。

 黒柴の雑種のようだ。推定2歳のメス。

 茶色の瞳、その上にはうす茶のてんてんが

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チョコクロワッサン

チョコクロワッサン

 夫と息子がにらみ合っている。
 固唾を飲んで見守るわたし。

 ささいなことで夫が息子を叱った。そのとき、息子の中でこれまでの不満が爆発したようだ。いつもは面と向かって言えない言葉が次々と飛び出す。まるで夫を斬りつけるように。そんな言葉を口にするたび、息子自身が傷つく……。

 はじめ怒りの形相だった夫。話をきくうち怒りが戸惑いに変わったようだった。夫にとって息子の主張は思いもよらないことだった

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かたつむり

かたつむり

 1月のある日。
 冷たい雨が降ったあと。
 玄関を出て、ふと足元をみると、かたつむり。

 あぶない、あぶない。踏んでしまうところだった。

 はて、かたつむりは冬眠するんじゃなかったっけ? どうして、きみはそこにいるの?

 もう少し暖かだったら、春と間違えて起きてきたのかなと思うけれど、吐く息は白い。

 お腹がすいたの? 体は動く?

 つのはぴーん、じりじり、じりじりと前進中。顔色はわか

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だんだんと…

だんだんと…

 結婚して自分の呼び名が変わったのち、これほどあたふたするとは夢にも思っていなかった。

 苗字だけが変わっただけで、わたしの自身は変わらないから、いつも違和感がつきまとう。

 もともと、わたしはぼんやりしているところがある。新しいことを身につけるのに、どうしても時間がかかるのだ。

 うっかりすっかり自分が「小林」だと忘れてしまうのはどうしてだろう。病院の待合やパート先など、何度も名前を呼ばれ

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