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「iridium」超短小説集

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文章は初心者なので短い小説的なものから始めてみようと思っています。 感想をぜひコメントでお寄せいただければ励みになります。
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光の因果

光の因果

二千二十一年前、ある宇宙飛行士が記した奇妙な惑星の生態系。

一 惑星

かつてこの広大な銀河を回遊し、星間塵やプランクトン、小魚などを食べる、巨大な鯨がいた。

鯨がふく潮は、あらゆる惑星の夜半球全土の、昼行性の草木や動物たちを、夢から目覚めさせる黄金の潮。

この銀河の生き物たちに朝を届けることが、天の上の主人がこの鯨に与えた仕事だった。

その鯨が格好の餌場として好んだのが、私が一千万年にわ

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【詩】彼岸近づけるふたつ

【詩】彼岸近づけるふたつ

恒星の影響の及ばない
宇宙の角っこ陶芸教室で
作ってみた心臓を交換した
ひとつは焼きすぎているようだ

新しい歌を知った彼女が
作ったらしい歌唱教室で
歌ってみた音の束を交換した
ひとつは枯れているようだ

それらのリフレインが
呆れたように振り返り
湖の端から端にとどく喉声で
私を叱りつけたようだ

届くといいと
思うばかりであった
とてもではないが
と言った具合で

未知の星へ送る便箋

【詩】風の強い日

【詩】風の強い日

ゆらぐ光を誘蛾灯のように反射する宇宙パレットの中には、黒だけが無かった

同じ羅針盤を持つ双子衛星は、その為、この世に影を落とせない
同じ公転速度の双子衛星は、しかし、この世に影を落とさない

ゆらぐ光の出発点とされる雪を溶かしたグラスには、黒だけが無かった

六畳一間に暮らす双子衛星は、核融合炉に誘い合い、沈み、
天使の瞳をとじこめた白い閃光が、風の強い日を選び、十一月の高い空を突き動かした

【詩】光る人

【詩】光る人

永久凍土を破って産声を上げた
透明な宇宙船が私を乗せて光る

明滅する成層圏を見下ろしながら
今来た道を戻る事だけを考える

ただ今は好きな人と話がしたい
一分十円の電話ボックスの中で

輝かしい劣等感を愛する

ある巨大な恒星を目の前にして
仕組みがわからずため息をつきながら
熱い海馬にアクセスする

https://1496ishi.tumblr.com/post/69020689299316

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【詩】しんかい

【詩】しんかい

河川敷に捨てた 蛍光灯
透明なあなたは 笑った

高架下に隠した アンモナイトの化石
新生代のあなたは 困った顔で笑った

街の明かりが失われた日 手紙を書いた

あなたは

口語調で となり合った日曜日
朝まで慰めてくれた

懲りずにこれらの墓石を 磨き続けたいと思った

少しずつあなたの墓石も 磨かせてほしい

空飛ぶおにぎり

空飛ぶおにぎり

今日は朝飯をなんとなく食い損ねた。

以前「天才バンド」の”Joy to the world”を朝起きる時のアラームにしていた。なので、駅に着くまでのシャッフル再生でこの曲が流れると、夢なのか現実なのかわからない感覚に陥った。すでに家を出ているのに、条件反射的に「起きなくては」というような焦りの感覚だけがあった。

それと同様の現象なのか、何年も前、別れを経験し漠然と聞いていた失恋歌が、ふと流れて

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【小説】Solar eclipse

【小説】Solar eclipse

春風が強く吹き、ソメイヨシノの花弁が不満げに舞っている。

初めて大学へと向かうために並んでいたバス停で、陽奈の身体は硬直した。
目の前には、涙を浮かべる見知らぬ男。

「この日が来るのを覚悟していた。あぁ、覚悟していたよ。意味がわからないと思うけど、言わせてほしい。ーーこれから死ぬまで、僕は君を愛する」

陽奈は身の危険を感じ、その場から逃げ去った。

その晩のニュースでは、皆既日食が今日訪れた

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オーパーツ

オーパーツ

灰色の砂の海を背に、僕は巨大な岩の塊にハンマーを打ち立てる。

音叉のような音が、こだまする。

岩に刻まれた、地獄まで延びる譜面のような模様は、その地層が新生代完新世に堆積したものであることを示す。

音叉のような音が、こだまする。

6,500万年前、彼女は歌を聴かせてくれた。その歌は、聴く者を死ねない身体にする歌だった。

音叉のような音が、こだまする。

周りの大人たちは彼女を悪魔と罵った

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