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教員の長時間労働は「遺伝」する?(中)

(前回のつづき)
 教育学部の1年生を対象にした教職課程の授業で、「教員の長時間労働」の問題について取り上げた。授業後に書いてもらった感想を読むと、多くの学生がその実態に驚きや不安を感じていたようだ。だが、一部には次のような内容もあった。

 私は今回の講義を受けて、自分だったら生徒を優先させる教員になりたいと思いました。
 私は高校で出会った先生に憧れて教員を目指しています。その先生は、いくら残業をしても毎日朝早く出勤し、いつも笑顔でいました。そんな先生に憧れて、自分は今、教員を志しています。
 教員になったら、生徒のためになることをやっていきたいです。辛くても、他の先生方と協力してやっていきたいです。

 同じような感想は他にもある。

 私は中学生のころから中学校の教員になりたいと思っていました。私が所属していた部活は、コンクールで全国大会に出ることに照準を合わせたようなところでした。朝は7時20分から朝練、昼休みは給食を食べ終わったら昼練、放課後も夏は夜7時、冬でも夜6時まで練習。平日の休みは1日だけ、土日もどちらかに午前中は練習、コンクールが近づけば丸一日の練習も当たり前という環境でした。
 練習で毎日、毎時間、先生が指導してくださっている姿を見て、「それが普通」だと思って当時から過ごしていました。だから、朝7時30分に学校に来て夜7時30分に帰る「12時間労働」は普通のことで、別に苦ではないと思っていました。
 でも、もしかすると世間では「当たり前」ではないかもしれないので、長時間労働に反対する人の価値観も受け入れられるようになりたいと思いました。

 私の高校の先生は、「ワーク=ライフ」だとおっしゃっていた。その先生は夜10時くらいまで学校に残っている社会科の先生で、授業がおもしろく生徒からも慕われていた。
 その先生の様子からも、教員がやりがいのある仕事だが、忙しいということはよく感じていた。私自身は「長時間労働」でもかまわないと思っているが、「教員という仕事を勧めたい人が3割」というのは、改善が必要だということを示していると思う。

 ・・・この授業の中では、前回の記事でも紹介した次のようなスライドを示している。

 これらのデータから、
・教員の働き方は、初任から3年目までの間に定まることが多い。
・その働き方に影響を与えているのは、身近にいる「先輩」である。
・そうした影響を与えた「先輩」は、いわゆる「熱血タイプ」だった。
 という傾向があることがわかる。

 しかし、教職課程の授業の感想からは、教育学部への進学を決める段階で、すでにこうした「熱血教師」からの影響を受けている学生がいることが見て取れる。

 中原淳教授は、このように「働き方」が次の世代へ継承されていくことを「働き方の『遺伝』」と呼んでいる。教員の中でのこうした「遺伝」は、就職するよりもずっと前から見られるものなのだ。

 一部の学生たちは、「憧れの先生」の背中を追っているうちに、いつの間にか「遺伝」を受け容れているのだと思われる。それだけに、その想いを一概に否定してしまうのは酷だというものだろう。


 一方、次のような感想もあった。

 私があこがれている先生も、残業時間が驚くほどに長かったようです。そういう姿を見て、疑問すら持つこともなく、かっこいいと思ってしまう部分がありました。でも、そのあこがれの先生は、今年になってから頻繁に体調を崩すようになっています。

 高校でお世話になった先生が、「『働き方改革』っていうけど、実際にはそんなに変わってないよ」「先生が言うのもアレだけど、本当に大変だから、おすすめはしない」「やりがいもあるけど」と言っていたことを思い出しました。

 また、さらに身近なところで「教員の長時間労働」の実態を見つめてきた学生もいる。この学生の母親は、学校の教頭先生を務めているのだ。

 私の母の前任校では、他の先生が来る前に学校へ行って鍵を開けないといけなかったり、全員が帰るまで残って鍵を閉めないといけなかったりで、とにかく仕事が終わらない。小規模校なので、担任が休むと教頭が授業に出ないといけないし、校庭の草取りや、連絡のつかない子の家に行って寝坊した子を起こすなど・・・。
 朝5時30分に家を出て、夜は22時に帰って家でも仕事をして、土日も仕事に追われていて・・・。長時間労働の調査では、ひっかかるからウソをつかないといけない。私も辛かったし、本当に大変そうに見えた。 

(つづく)

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