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我が子を喰らうサトゥルヌス(1819~1823)【140字絵画小説】


我が子を喰らうサトゥルヌス

作  フランシスコ・デ・ゴヤ(1746~1828)
所蔵 プラド美術館

140字小説


 サトゥルヌスは一心不乱に我が子へかぶりついた。先ほどまで抱いていた恐怖が少しだけ消えた。
 でっぷりと脂肪のついた肉は固く、血のせいで生臭く感じた。頭も腕もそれほど美味くはないが、それでも彼は我が子へ喰らいついた。

 すべてはあの予言のせいだ。あの予言が彼を狂気にかえてしまったのだ。



個人的解釈

見るからに恐怖を抱くゴヤの黒い絵作品の一つです。

絵に描かれているのはローマ神話に登場するサトゥルヌス。彼は農耕神であり、ギリシアのクロノスと同一とされるほどの立派な神様です。

そんな彼が我が子を喰らうというのは、まさに狂気としか言いようがありません。ただでさえ人を食べるのはタブーなのに、それを飛び越えて我が子を喰らうなど、これはもはや恐怖としか言いようがありません。実際にこの絵を見たあなたも、狂気や恐怖といった言葉が思い浮かんだのではないでしょうか。

ですが、真に恐怖しているのはサトゥルヌス自身かもしれません。
彼がこのような狂気に陥ったのには、ある予言が関係しています。
それは、彼の子供がいずれ彼を倒す、という予言です。
つまり彼は生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされているのです。
死を回避できるのであれば、どんな方法を使ってでも回避する。それはある意味自然なことかもしれません。彼の場合は狂気じみていますが。それでも生に執着したいという思いは理解できなくはないです。

ただここで注目して欲しいのは、彼が聞いたのは予言であるという点です。
つまり、まだ倒されるかどうかわからないということなのです。
わかりやすく説明するならば、朝の占いで『外に出るな!』といわれたから『外に出なかった!』ということです。

これはあくまでも予言であり、確定事項ではありません。
ですが信じる人は信じてしまう。
現代でも、たった一言で人生が狂ってしまうことってありますよね。それが本当かどうかわからないのに、本当のことのように聞こえることもしばしばあります。

そんなことを感じさせてくれる一枚でした。

なお余談ですが、伝承では食ったのではなく呑み込んだらしいです。それでも十分狂気じみてますが……。

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