ベンチが印象的な映画 | NOVEMBER | 12Months Movie
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ベンチが印象的な映画 | NOVEMBER | 12Months Movie

その月に合わせたモチーフが印象的な映画を、映画好きのイラストレーター3人が12ヶ月間に渡ってご紹介する12Months Movieです!

春はもちろん、秋もまた、野外で季節を楽しむ季節。そんな時に腰をかけるのがベンチですが、映画において様々なメッセージを表現してくれる装置のひとつのように思います。今月はそんなベンチが印象深く使われている作品をご紹介します。

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ファイティング・ファミリー (2019)

監督 / スティーブン・マーチャント

Eika: 2018年に引退したイギリス出身のWWEレスラー、ペイジと彼女の家族についてのドキュメンタリーが原作。イギリス北部の田舎町でレスリングジムを家族一丸となって営むナイト家。皆、プロレスを愛していて、それが全てだった。
こどもたちにレスリングを教えながら、ジャック・ロウデン演じる兄のザックと、フローレンス・ピュー演じる妹のサラヤ(後にリングネームのペイジとなる)はレスラーとしても活動。ジムの経営はかなりギリギリ。2人はいつかはアメリカのWWEで活躍し、家族を支えたいと願っていた。そんな2人にある日、またとないチャンスが訪れることになる。

大変楽しく胸アツなスポーツエンターテイメントもの。ペイジの苦悩と成長、ザックのやりきれない思いと、彼自身が気づいていない彼の真の力に気づく、そんな兄妹の物語。涙なしには見れません。

ナイト一家が行っている互いへの干渉の描かれ方が非常に丁寧で面白い。家族という座標の中で本人たちが互いに与える影響は、良くも悪くも本人たちの世界を作りあげ、その非常に複雑な愛からは逃れられない。そういうちょっとした絶望が実に爽快なエンタメに仕上がっていてスゴイ。

また、私自身もペイジと同じく「なんでも知っていていつでも私を助けてくれる頼りになるお兄ちゃん」がいる妹、という立場なのでそういう私にとっての『当たり前』の裏側をしっかりと見せてくれる展開には愛しくて切なくて胸が張り裂けそうになる。けれどもお兄ちゃんってやっぱりすごい!強い!なんでも知っている!それを改めて思い知らされる劇中序盤にある兄妹と、終盤にある兄弟(ザックとペイジの上には長男がいるのだ!)のベンチでの対話。何重にも感動してもう私はこのシーンでは椅子から転げ落ちそうで大変だった。必見!

ちなみに監督のスティーブン・マーチャントはジョジョ・ラビットであのめちゃくちゃ背の高い目のギョロっとしたゲシュタポを演じています。テレビのコメディ番組のディレクションは多く手がけているものの、調べた感じ今作が長編映画は初監督作!

yuki : ファイティング・ファミリーを観るまで、フローレンス・ピューちゃんの作品を観たことがなかったので、映画の中でめちゃくちゃ似合わない金髪を披露したピューちゃんが、ミッドサマーの予告では綺麗な金髪でびっくりだったなぁ。笑 黒髪・メタルファッションがすごく似合っていて好き!
丸ゐまん丸 :Eikaちゃんに教えてもらって劇場で観ました!大当たり!黒髪のピューがグルグル走り回り、戦い、悩み、トライしていく。なぜ彼女がこの役を?と考えると、やはり思い悩むシーンでの表情だと思う。影のある表情と強さの共存が唯一無二。それゆえに、このベンチの対話シーンは表情に注目。


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来る(2018)

監督 / 中島哲也

丸ゐまん丸 : 田原秀樹は、妊娠中の妻・香奈と立派なマンションに住み、仲間にも慕われる、誰もが羨む完璧な人生を送っていた。そんなある日、秀樹の会社に「知紗のことについて」と訪問者が現れる。取り次いだ後輩の高梨は突然肩から出血し、1年後に死亡。戸惑う秀樹だが、同時に驚いたのは、娘につける予定の名も「知紗」だったのだ。知紗は無事に生まれ、娘の成長をブログにアップすることが日課の「イクメン」になっていく秀樹の元に、新たな異常な事態が起きていく。


2000年代から浸透し、今となっては賛否両論のある「イクメン」という言葉を盛大に引きちぎる怪作。我々がやってはいけないことを、この映画で秀樹(妻夫木聡)がほとんどやってくれている。参考に……いやさ、特に男性の方は「襟を正し直す反面教師映画」としてセラピー鑑賞もお勧めだ。セラピー鑑賞ってなんだ。

澤村伊智のホラー小説『ぼぎわんが、来る』を『下妻物語』(04)、『嫌われ松子の一生』(06)を経て『告白』(10)で日本を震撼させた中島哲也監督が映像化。数々の名作CMで「良き家庭」を演出してきた中島監督。この『来る』では「悪しき家庭」をホラーの様式で観客にぶつけてくる。

秀樹たちが住む立派な家は、とにかくライトや色味が明るい。そのあからさまな「作り物」コントラストは、そのまま秀樹の薄さ、徐々に壊れていく香奈(黒木華)の閉塞感、彼らの嘘の具現化だ。その家に影が落ちる時、最大出力で本当の姿を現してくる。

前半パートはそんな人間の恐ろしさに焦点を当て、満を辞して出現する「あれ」。後半はライターの野崎和浩(岡田准一)に視点が移り、霊媒師の比嘉琴子(ギンギンの松たか子)、妹の真琴(小松菜奈)も登場し、未曾有のサイキックバトルに発展していく。

(ちなみに、TBSラジオ好きの丸ゐとしては馴染みのある、伊集院光、柴田理恵の出演は嬉しく、キャラクターもすばらしい。特に柴田理恵は本作のベストアクト。)

ラスト。血だらけの野崎、真琴、知紗たちがコンビニで買ったささやかな食事をとり、笑い合うのは駅のベンチ。腕の中の知紗は幸せな夢を見る。
立派な家も、豪勢な食事も、血の繋がりも必要ない。この映画で最もまっとうな「家族」が画面に映る。秀樹が没頭していたもとは真逆の光景が、すばらしいアンチテーゼとなって幕が引かれていく手際の良さを体験してほしい。

きっと秀樹は、自分がなぜあんな目に合うのか、最後まで理解できなかったように思う。彼は彼なりに娘を愛していただけに、切ない。
観賞後にばつが悪くなる人は、まだマトモかもしれない。「あれ」に狙われないよう、他者に敬意を持ち、秀樹と逆の道を行きましょう。

yuki : ラストのベンチ、全然記憶にない!と思って見返したら、一番最後のあの歌の印象が強すぎたせいだった!笑 ベンチに注目して観ると、ずっと1人ずつ座ってるのに、ラストシーンは一緒に座ってるのが良いねぇ〜。観る視点が変わってより楽しかった!
Eika : 未見だったのでアマプラで観ました。なんともにぎやかな霊媒スペクタル。前にどこかで「ファブリーズは除霊に効く」と読んだことがあってそんなことあるかしらと思ってたら劇中にも使われていてびっくりしました。笑  クリスマスムービーにも含めれるね!


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パターソン(2016)

監督 / ジム・ジャームッシュ

yuki: ニュージャージー州"パターソン"に住む、街と同じ名前の"パターソン"(アダム・ドライバー)。毎朝、最愛の妻・ローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)の隣で目を覚まし、日中は毎日同じルートを走るバスの運転手として働き、空いた時間や、いつもお決まりの『ベンチ』でローラが作ってくれたお弁当を食べながら、自分だけの秘密のノートに詩を書くのが趣味だった。
一方、妻のローラは、家中をペイントをしたり、ギターやマフィン作りなどの新しい趣味を始めて、いつか自分の才能で有名になれるのでは?と毎日に変化をつけて楽しんでいた。そんなタイプの異なる2人の7日間の日常の物語ー。

何か特別なことが起こるわけでもないのにクセになる、ジム・ジャームッシュ監督らしい、いわゆる『オフ・ビート』な作品なんですが、2人の名もなきアーティストの日常を、クスッとさせてくれるユーモアいっぱいに描いた、ゆるくて大好きな映画です!

妻はパターソンの詩が素晴らしいから他人に読んでもらいたいし、評価されるべきだと思ってるのに、パターソンは自分の詩をどこにも発表するつもりはないし、妻にコピーを取れと言われてもなかなか気が進まない。

一見、自己主張の少ないパターソンですが、心に留めた想いは全て『詩』で吐き出していて、言葉で自分を世の中に示すつもりもないし、世の中を変えるつもりもない。

SNSの登場によって、自分を表現することが当たり前になった世の中だけど、パターソンみたいに自分をアーティストだと思っていない"潜在的アーティスト(?)"の方もまだまだ沢山いるのでは?と思っているのですが、ローラと同じく《才能が勿体無い!》という思いもあるけれど、自分の絶対的な価値観を、自分で肯定できるっていうのも素敵だなと思います。

また、このご時世で自由に色々なことができなくなって、同じ日常の繰り返しが息苦しく感じることもありますが、この映画のように、毎日同じ『ベンチ』に座っているだけで、新しい出会いや気づきがある日もある。

あまり変わらない日常を、いつもよりちょっと大切に思えて、誰に認められなくても、自分で自分を前よりちょっと好きになれる、そんなちょっとだけ生きるのが楽しくなるような映画です。

Eika : アダムドライバー、ぱっと見、特徴が集まったような外観なのにとても身近な存在に感じる演技がだいすき。この映画を観た時に、詩とは、それこそ表現とは、生活していく中で毎日こうやってノートに書く機会を与えられていることなのだと思いました。
丸ゐまん丸 : 体の大きいパターソンが詩を書くリアリティを生む、重要なベンチ。スター・ウォーズ/フォースの覚醒(15)でストーリーの都合上、往年ファンから盛大に嫌われたアダムが、世界中の映画ファンを魅了したこの作品。スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け(19)の頃にはすっかり「アダム待ち」になるほどの人物にたらしめた作品として、最重要の1作でしょう。


クリスマスのある12月は、プレゼントが印象的な映画をご紹介します!
毎月12日に更新です。お楽しみに!

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