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ベッドが印象的な映画 | BED | 12Months Movie

その月に合わせたモチーフが印象的な映画を、映画好きのイラストレーター3人が12ヶ月間に渡ってご紹介する12Months Movieです!

1月はベッドが印象的な作品をご紹介します。

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アメリ(2001)

監督 / ジャン=ピエール・ジュネ

yuki: 神経質な母親と、冷淡な父に育てられたアメリ・プーラン(オドレイ・トトゥ)。 軍医だった父親が心臓に障害があると勘違いし、学校に通わず自宅学習させられ、友人のいない幼少期を過ごしたアメリは、コミュニケーションを取るのが苦手で、妄想にふけるようになっていく。

そんなアメリが実家を出てパリで一人暮らしを始めたある日、部屋の隙間に昔の住人が隠していた“宝箱”を発見する。アメリは持ち主を探し出して“宝箱”を返却し、その人が喜んでくれたら、自分も世界へ一歩踏み出そうと考え、持ち主探しを始める。その捜索を通じて、アメリの“人との繋がり”が動き始めるー。

とってもお洒落なアメリの部屋。特に印象的なベッドルームは、ブタのモチーフ付きのランプや、動物の絵画などの可愛らしいものばかりじゃなく、全体的にはシックでアンティークなものがいっぱいあって、“子供でいたい自分と、大人になりたい自分”がせめぎ合っているような空間だと思いました。

アメリの恋愛ものという視点でも楽しめる映画ではありますが、私はアメリの親子関係変化がすごく好きで、自分を殻に閉じ込めた原因でもある家族から離れて、それでも自分の殻から出ることができなかったアメリが、他者をちょっと幸せにすることで、自分もちょっと勇気をもらう。そして、いろんな人に勇気をもらったアメリが、自分のように動けなくなってしまった父親の背中を、そっと押すことができる人になっていく。その成長があって、初めて自分の幸せに向かう勇気を持てるところに、何度見てもジーンとしてしまいます。

不器用でも、自分を上手く認めてあげることができなくても、誰かをちょっとだけ幸せにすることはできるかもしれない。そんな勇気をくれる映画です。

Eika: アメリの寝室は映画史の中でもかなりアイコニックな場所だよね。初めて観たとき、おそらく中学生だったかな?画面にうつるものがひとつのこらず可愛すぎて窒息しそうだった!ミヒャエルゾーヴァの本を買い、クレームブリュレが食べたいとお母さんにお願いもしました…
丸ゐまん丸: 高校生の時に観て、高校生なりに「まだ自分には早すぎた!」と勝手に気まずい思いをした作品。今見ると、延々と素晴らしい映像が続く傑作ですね。アメリのベッドが映るシーン、あまり覚えてなかったけれど、注目してみると、また変わった印象を受けます。また観るきっかけをくれたYukiちゃんには感謝です。一度観た人でも、歳を重ねると見方が変わるので、オススメです。


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ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ (2017)

監督 / マイケル・ショウォルター

Eika : パキスタンからアメリカへ家族で移住してきたクメイル・ナンジアニ演じるクメイル(つまり、本人!)はウーバータクシーの運転手をしながらコメディアンを目指していた。ある日彼の舞台を観に来ていたゾーイ・カザン演じるアメリカ人のエミリーと出会い、自然と2人の関係は恋人へと発展していく。しかし厳格なムスリムである両親にそのことを打ち明けられないクメイルは、両親の言うままに2人がセッティングしたお見合いを受け続けていた。自分のルーツとアメリカで暮らすことのすり合わせをする中で大きな葛藤を抱えるクメイルだったが、ある日エミリーが謎の病に倒れてしまう。

昏睡状態のエミリーのベッドに、おそらく幼少期に使っていたのだろう可愛いブランケットをかけるエミリーのお母さん(ホリー・ハンター、めっちゃチャーミング)。愛する娘が寝ている病室を少しでも身に覚えがあるもので不安をほぐそうとする行動になんともいえない懐かしさを覚えてしまう。

めちゃ個人的なことなのだけど、私はこの映画を劇場で観たとき、原因がわからない病気になってしまった愛犬の介護の真っ最中でした。いろんな可能性をつぶしながら治療法を探すのだけど、とにかくうまくいかない。苦しむ愛犬が可哀想でたまらなくて、毎日心が削られるような思いで、今まで何度も耳にしてきたフレーズだけど、愛する誰かがいるのはなんて辛いことなんだと生まれて初めて実感しました。

映画の中ではギリギリの状態のクメイルはドライブスルーで店員にキレちらかすのだけど、私は美容院で似たようなことをしてしまい、わかるわかる〜と号泣しながら観た思い出があります。今でもこの映画を観ると、亡き愛犬と、愛犬のベッドを囲んだかわいらしいベビーサークル(この中で愛犬はくるくると歩き回っていた)、そして家族で大衝突を繰り返した日々を思い出します。「病気」というのは、避けて通れない人生の風景ですね。

と、しんみりしたことを書きましたがものすごく軽快でイマドキのロマンティック・コメディである今作。コメディアンであるクメイル・ナンジアニが手がけた脚本はかなり笑えます。世界が今までになく近くなったこの時代だからこそ生まれる衝突と互いを理解する努力の産物、ほんとうにすばらしい!

yuki: エミリーのお母さん。娘が生き写しのように性格が似ていてとってもチャーミングだった!私はクメイルの両親のシーンがグッときたなぁ。
丸ゐまん丸: スタンドアップコメディが登場する作品で近年で印象的なのは「JOKER」(19)ですが、劇中のアーサーは普段の彼からコメディアンに向いていなかった描写が多かったけれど、この作品では逆。クメイルの言動や自分の芯を持っていることが、周りの人たちに「才能がある」と自然と認識させているのがとても上手い。この世には、こんなに素晴らしい作品があるんですね…!


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アンダー・ユア・ベッド(2019)

監督 / 安里麻里

丸ゐまん丸 : 誰からも相手にされない孤独の男、三井直人(高良健吾)。大学時代、彼を唯一「三井くん」と呼び、コーヒーを一緒に飲んでくれた同級生、佐々木千尋(西川可奈子)のことを、三井は忘れられなかった。11年後、興信所を使って彼女の住居を探し出した三井は、向かいに鑑賞魚ショップをオープンし、千尋の監視を始める。11年前と変わり果てた表情の千尋は、何かに怯えながらベビーカーを押している。「もう一度名前を呼んでほしい…」ただそのためだけに、次第に監視がエスカレートしていく三井は、家の合鍵を作り、ベッドの下まで侵入するが、そこで千尋が激変した理由を目撃する……。


原作は大石圭が2001年に発表した同名小説。純文学作家としてデビューした大石氏が、サスペンスジャンルへの移行を決定づけた作品。


日本映画界で八面六臂の活躍をしている高良健吾。「横道世之介」(13)、「きみはいい子」(15)、「シン・ゴジラ」(16)などで全く異なる役柄で、強烈な印象を残す彼の演技を、主演、つまり長時間観れるだけでも眼福。俳優界屈指の顔圧を持つ彼が、ベッドの下に横たわっているポスター。なんとう目力。しかもベッドの下だから余計に恐ろしいし、惹きつけられる。鑑賞しないわけにはいかない。前情報を入れずに鑑賞したら、2019年ベスト10入り確定の大傑作だった。(ちょうど同じ時期に「よこがお」も上映していたので、テアトル新宿に何度も通った)


まずは誰もが、主人公がベッドの下に潜む、という行為に「そんなことするなよ……」と思うでしょう。ぼくも「そんなことするなよ……高良(三井)……」て思っていたが、不思議なことに、観賞後は「三井なら潜んでも仕方ないし、潜んでよかったのかも」となる。余韻を成り立たせてるのは、全体の作り込みが素晴らしいことを土台に、ひとえに高良健吾力だと思う。ほとんどモノローグで、セリフが少ない三井の感情の動きを、視線と表情、しぐさで語ってくれる。序盤から説得力がブーストしていくので、ラストの彼の行動にも納得。オムツはいたり、香水をマネキンにつけて胸を触ったりと、後々考えるとヤバすぎるのだけど。

その相手役の千尋を演じた西川可奈子を知れたのも、この映画最大の利点。同じ役者で、ちゃんと11年経っているように見えるし、なにより一つ一つのしぐさに惹きつけれらる。三井が彼女のことばかりになり、常軌を逸してしうまうのも、なんの疑いもなくなる魅力。家庭の中では、ほとんどスタントアクションとも思える激しい動きもすばらしい。井筒和幸監督の「無頼」(20)にも出ているらしいので、観に行きたくなった。

中盤で、2人の唯一の思い出の「グッピー」によって2人の距離感に変化が訪れる。水槽の中で飼われた美しい魚のような千尋と、自分は石の下にいる虫という三井。千尋にとって決して安らぐ場所ではないベッドの下から、水槽に触れるようにマットレスに触れる三井。ラストカットでとある場所で映る2人に、いつか幸あれと願って止まない、忘れられない作品。

Eika: 観た!ベッドに潜るのが物事の頂点なのかと勝手に思っていたけど、実際はそれどころじゃなくてものすごく見応えがありました。カタルシスが並大抵じゃなく、鑑賞が辛いシーンは続いたけど(役者陣すごいね)なかなか爽快な余韻です。
yuki: 高良くんの狂気見たさに見に行ってしまったんですが(笑)、揺らぐ三井くんの感情の見せ方が丁寧で、私は純愛物だなと感じました。

バレンタインも近い2月は、ドレスが印象的な映画をご紹介します!
毎月12日に更新です。お楽しみに!

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