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The Astronaut

『JINだもの』

この町の人は当たり前のようにそう言う

ねえ、JINは何の仕事をしているの?
ママは『わからないわ、でも何かはしてうまくやってるわ、JINだもの』
ねえ、JINはどこから来たの?
パパ『わからないなあ、きっと遠くさ。でも気にはならないな、JINだもの』

今わたしが持っている彼の情報は
職業不明
年齢不明
学歴不明
国籍不明
わかっているのは隣に住んでいるということだけ

こんなにいろいろわからないのに
この町の人はJINだもの、ですべてを解決している
そんなのおかしいわ


わたしの意見にぴったり合うのが4軒隣のおばあちゃん
変わり者って評判だけど、わたしは好きなの
おばあちゃんは言う

『いい?JINは宇宙からきたのよ、わたしにはわかるわ』


誰も信じないその言葉を、わたしは信じる
そう考えればすべてつじつまがあうもの

今日も庭先でぼんやりしているJIN
いつも何を見ているかさえわからない
斜め向かいの家のお姉さんは、だいぶ長い間JINにご執心だったようだけど
あまりに反応が無いのであきらめたみたい

『ねえJIN』
わたしは話しかけた
『宇宙に帰りたい?』
JINは少しだけわたしを見て今度は晴れた空を眺めた
『JINの星はここから見えるの?』
JINは黙ったままだ
昼間でも、宇宙の人には星が見えるのかもしれないな


わたしは最近まで自転車に乗れなかった
パパとママは仕事が忙しくて、なかなか練習に付き合ってくれなかったの
転びそうになっていたら
後ろをJINがつかんで押し出した
初めは恐くてずっとつかんでもらって
何日も何日もJINが練習に付き合ってくれて
ある時乗れるようになったの
やったねってハイタッチしに戻ったのに、JINはまたぼんやりしていた

あとで4軒隣のおばあちゃんが
『見た⁈JINったら笑ってたわよ』
そう教えてくれたけど、わたしはその顔を見てないの

JINからは何だか甘いベリーみたいな匂いと
少し何かが焦げたみたいな匂いがする
どこでも嗅いだことがない匂い

そしてわたしと長くいる時に、ほんの少し時々
ハーブみたいな匂いがする
この匂いはよく知っているわ
ママが寝る前に、ミルクと一緒にカップに入れてくれるあれよ


今日も自転車に乗っていたらJINが家から出てきた
ヘルメットをくれたけど
わたしにはちょっと大きいわ
そしてそのまま走っていったの

4軒隣のおばあちゃんが、テレビを指さして窓から何か叫んでいたけど
わたしもうちょっと自転車の練習が必要なの
これでも忙しいのよ

その日、JINは夜遅く帰ってきたみたい
ママの『珍しいわね、お友達のところにでも行ってきたのかしらね』
の言葉に
パパは『JINの友達とは見たことが無いね、ヴィクトリアだけじゃないのか』
と返事した
わたしはそれを聞いたらなんだかくすぐったいような気持ちになった
ママは言った
『ああそうね、JINはちょうどあなたが生まれたころにここに引っ越してきたんだわ 赤ちゃんのあなたをそれは興味深そうに見ていたものよ、まるで生まれて初めて赤ちゃんを見るみたいにね』
パパは笑った
『本当だ、あれから10年も経つのか、JINはまるで年をとらないね』
その後また言った
『まあ、JINだもの』

次の日も良く晴れていた
わたしはJINのうちの窓辺にいって自転車のベルを鳴らす

JINが出てきた
『ヴィクトリアおはよう』
JINにあいさつされたことなんてあったかしら?
不思議に思ってじっと見てみた
首にほくろなんてあったかしら
それに、ラズベリーと焦げた匂いはどこに行ったんだろう

まあいいや、出かけよう
近所にいい公園があるの
おばあちゃんのお庭も素敵なのよ、ハーブと雑草!で
いっぱいなの
ごちゃごちゃなのがいいのよ

庭に寄ったらおばあちゃんは
JINのことをわたしと同じようによく眺めて
もう一度、私を見た
庭に咲く白い小さな花
香りを嗅いだらあのハーブの香りがする
おばあちゃんは言った
『これはカモミールジャーマンだよ』
そしてわたしに耳打ちした、後でこれをJINに言うのを忘れずに、と

カモミールジャーマンの花を少しもらって公園に行った
今日は本当にいい天気
風がちょっと吹いていて
太陽がキラキラしている
木が揺れて、
またカモミールジャーマンの香りがした


わたしはさっきおばあちゃんに言われた言葉を
JINに伝えた
JINはにっこり笑った
なんだろう、胸がどきどきしてくすぐったいな

ねえ、JIN
地球は素敵なところでしょう
ねえ、JIN
だって地球には、
あなたがいるんだもの

『ねえ、JIN、おかえりなさい』



カモミールジャーマン

カモミールジャーマンはリラックスのハーブの代表格で
ストレスや疲れ、緊張をほぐします
ヴィクトリアのお母さんが淹れてくれたのはカモミールミルクティー
安眠のハーブティーとして知られています

カモミールにはローマンとジャーマンがありますが
ハーブティーとして飲むのはジャーマンのほうです
カミツレともいったりますね

精油になると
青りんごのようなハーバルな香りと表現されることもあります

気品があるのに親しみやすい
そんなカモミールジャーマン
精油の色はアズレンブルーという深く美しい青色です
まるで宇宙から見た地球のように

揺れる樹木はパインニードル
土の香りにベチバーをほんの少し
これは地球の香りです

宇宙の香り、はこちらを参考にしました
ラズベリーの精油はなかなかマイナー!あまり使いませんが、ここにツンとして化学的にも感じられるライムと甘い甘いベンゾインを足し
ちょっと独特な宇宙の香りに


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