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アートとたてもの‐同時に楽しめる2つの名建築美術館

先日訪れた、岡山県倉敷市の美観地区。
他に追随を許さないのでは、と思えるほどフォトジェニックな街並みはどこを切り取っても絵になります。
洋館、なまこ壁、蔵、そして町を廻る川、そのどれもが、古き良き日本を思い出すようなノスタリジックな気分にさせてくれます。

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川舟流しが日本の風情を感じさせます。
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重工なタイルと瓦のコントラストが美しい。
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暗闇の水面と緑が幻想的です。


そして私にとって何より魅力的なのは大原美術館。
大原美術館の本館は1930年(昭和5年)に建てられた倉敷の代表的な近代建築であり、日本最初の私立の西洋美術館です。

倉敷美観地区のランドマーク的存在です。

地元の実業家である大原孫三郎が、彼の援助を受けて絵を勉強・留学をした岡山県出身の洋画家・児島虎次郎の収集したコレクションを展示するたに、私財を投じ建設した美術館です。

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細部の装飾までこだわりを感じます。

美術館の正面に位置する本館は、ギリシア・ローマの神殿建築を模し、中央2本のイオニア式のオーダー柱(古代ギリシア式における建築様式)、その上に三角ペディメント(屋根の下にある山形の部分)を構える姿は、実に威風堂々とした佇まいです。
訪れる人に驚きと期待感を与えてくれます。

重厚な石造のように見えますが、実は建物の殆どは鉄骨が入った鉄筋コンクリートで作られています。
仕上げには、色の付いた石を粉にしモルタルに混ぜたものが、左官技術によって施されているそうです。

正面入り口では、オーギュスト・ロダン の「カレーの市民」が迎えてくれます。

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反対側は同じくロダンの「洗礼者ヨハネ」があります。

エル・グレコ<受胎告知>をはじめとする西洋絵画、日本画、現代美術、工芸、東洋・オリエント美術は、そのどれもが名品と言われるものばかりです。

この収蔵品が見ることができる!と思うだけで胸が高なります。


建物は、内部もまた天井が高く
窓などの開口部が最小限に抑えられています。
十分に余白を持って絵画が飾られ
壁も時間の経過そのままの様相で、
明るすぎず綺麗過ぎず、まるで中世の城にでも迷いこんだような錯覚に陥ります。

残念なことに内部の写真は撮れませんが、
それを十分に納得できるのが、大原美術館の〝美術館と作品、見る人への愛情〟を感じとれるところです。

美術館には、理由のない規制はありません。全ての理由が「作品を守る」「他のお客様の迷惑にならない」という二つに要約されます。
ですから、この2点を守っていただければ、たとえばお客様同士で、ゆっくりとおしゃべりをしながら展示場をめぐっていただいても良いわけです。
かつて、大原美術館では、館内での自由な写真撮影を認めたことがありました。しかし、これを取りやめることとなったのは、エル・グレコやモネの人気作品の前で団体の記念写真撮影会が始まってしまったことが理由です。次々とフラッシュがたかれ、順番に集団での撮影が行われて、他のお客様の鑑賞機会を著しく損ねる状況が生まれたためです。
美術館を訪れていただく皆様全員が、よりよい環境作りにご協力くだされば、私どもの美術館は、もっともっとたくさんのサービスを提供したいと考えております。
皆様のご協力をよろしくお願いいたします。

大原美術館H.Pより

鑑賞のハイライトは、なんといっても日本に2点しかない巨匠エル・グレコの作品。
ここ大原美術館にある作品「受胎告知」には、聖母マリアがキリストを身ごもったことを天使ガブリエルから告げられる新約聖書のワンシーンが描かれています。

この作品のために一つの部屋が用意されています。

大原美術館のすごさは、ひとつの美術館で近現代の美術史をたどれるほどの圧倒的なコレクションにあります。
セザンヌ、モネ、ゴーギャン、ピカソ、ルソーからジャスパー・ジョーンズ、ジャクソン・ボロック、青木繁、岸田劉生、草間彌生、横尾忠則・・・だれもが一度は見聞きしたことのある作家の作品が多く収蔵されています。

この開館当時の建物である本館の他に、工芸館・東洋館分館があり、各建物を廻り作品を鑑賞します。

米蔵を改造した工芸館、東洋館は、庭を囲むように配置されています。
本館で絵画を鑑賞した後に、ここで一旦、ひと休み。
石のベンチでかすかな疲れと、興奮をゆっくりと沈めていきます。

工芸館では、バーナードリーチ、濱田庄司、棟方志功等の陶磁器や版画、東洋館では、中国、エジプト、イランなどの仏像や工芸品等が展示されています。

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工芸館、東洋館の前には〝モネの睡蓮の池〟があります。初夏にはフランスにあるモネの自宅庭園から株分けされたスイレンが咲くそうです。
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工芸館、東洋館を本館前から望んだところです。空間も空気もゆったりしてます。
本館をバックにポーズをとっているかのような木ですね。
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休館中の分館の庭には、ロダン、ムーア、イサム・ノグチなどの彫刻が並ぶ彫刻庭園になっています。


大原美術館を十分に堪能したら、歩いて4〜5分に位置する倉敷市立美術館へ向かいます。
この美術館は、1960(昭和35)年に世界的な建築家であり、文化勲章を受章した丹下健三によって設計・建設されました。

丹下健三は東京都庁舎や国立代々木競技場の設計でも知られる、言わずと知れた日本を代表する建築家です。
この美術館は、鉄筋コンクリート造、地上3階建ての建物で、元々は倉敷市庁舎として建てられ、1983(昭和58)年に美術館となりました。

コンクリートの柱や梁を平滑に見せる直接的な構成は、太い柱と長い横架材で支える構造をとっており、丹下によるモダニズム建築の特徴がよく表れているように感じます。

モダニズム建築は、鉄とガラス、コンクリートなどの工業製品を使う合理的精神のもとで、従来の建築の概念から脱却して新しい建築をつくろうという考え方です。

国の登録有形文化財に登録されています。


倉敷のイメージとは一線を画すこの建築ですが、その設計の発想は、倉敷のイメージとの調和を考えたモダニズム建築にあったようです。

白壁となまこ壁が続く家並みと倉敷川沿いの柳並木、大原美術館という一般に定着した倉敷のイメージに加え、倉敷のニュー・シンボルとしての建物が望まれていました。設計を依頼された丹下健三は次のコメントを残しています。「倉敷市の伝統と近代的発展にふさわしい、しかも市民のよりどころになるにふさわしい建物をと思って設計した」

倉敷市立美術館H.Pより


市庁舎時代のエントランスの庇の曲面は、この迫力!
直線でまとめられている建物の中で存在感を示しています。

かつてのエントランスは、美術館のカフェとなっています。

築60年以上の経過を経ても、打ちっぱなしコンクリート面が奇麗に保たれています。

規則的な縦ラインが美しい。


縦横ラインと方形のコントラスト、そして高さ10mを越える吹抜空間は圧巻です。
市長室の机や椅子などのインテリアも丹下自身がデザインしたそうですが、残念ながら一般公開はされていません。

原色のアクセントカラーが際立ちます。

収蔵品は、地元出身の画家、池田遙邨の日本画を始め、洋画、彫刻、現代アートなど幅広いジャンルの所蔵品があります。

池田遙邨は、1987(昭和62)年に文化勲章を受章した日本画家です。


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大原美術館の日本の近代建築と、倉敷市立美術館モダニズム建築

建築としては相反するほどの違いが感じられますが、2つの美術館に共通するのは、それぞれの建築スタイルに沿った完璧な造作十分な空間にあるように感じます。

それぞれの様式に忠実である建築物には、視界に余分なものが入ってこない、すっきりとした心地良さを感じます。
空間の大きさは、作品一つ一つを独立させ、人との距離をとり、作品とじっくり向き合う時間を与えてくれます。

一言で言うならば、
ストレスなくアート鑑賞ができる美術館、
アートを十二分に堪能できる美術館。

そして、美術館そのものも鑑賞したい美術館です。


最後まで読んでいただき有難うございました☆彡

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