今日会いに行きたい!気になる土偶#041千葉市埋蔵文化財調査センター
先月の始めに奈良へ旅をした時のこと、
好奇心のおもむくままに一日中歩き廻り、気づけば昼食もとらず、くたくた…。
しっかりとデイナーをいただいて明日に備えようと、奈良公園近くの小さなビストロへ。
お肉のコースを頼むと、4つのお肉からセレクトできるとのこと。牛ステーキ赤ワインソース、プロヴァンス風豚のグリル、鳥の…何か?。
そして最後に記されていたのが、まさかの「シカ」の2文字。ラムでなく「シカ」!
それも〝シェフの叔父が山で射止めた〟と注釈が付いています。
久しぶりの奈良は見るもの全てが珍しく、あちらこちらでシカとも戯れてきたばかり。
武甕槌命が「白鹿」に乗って春日山の山頂に降り立ったとする神話が、より鮮明に思い描かれた一日でもあります。
奈良公園のシカは特別な遺伝子を持っている、というニュースを少し前に聞いたとはいえ、さすがに今ここで食すことは…⁉
私はすぐさま「牛ステーキ赤ワインソースで」、と注文したのでした。
さて今日ご紹介するのは、イノシシを表現した獣面把手。
千葉県四街道市 木戸先遺跡から見つかった、今から約6,000年前のの土器に付いているイノシシです。
縄文時代のイノシシとしては珍しく写実的に表されています。
なかなかの貫禄の年取ったイノシシに見えますね。
イノシシは多産であることから、縄文時代には子孫繁栄や豊穣のシンボルであったと考えられています。このような土器やイノシシを象った土製品の他に、オスの犬歯から作った装飾品などもあり、また子どものイノシシ(うりぼう)は墓に大切に葬られている事例も見られます。
本来は分布していない筈の北海道道南部や伊豆諸島、その縄文時代の遺跡からもイノシシの骨が多数出土しており、縄文人が本州から連れていったと考えられています。
イノシシの肉は脂肪が多くエネルギーになり、皮は衣服などに利用できるなど、大変使い勝手の良い動物であったようです。数いる動物の中から、このようにイノシシが特別に扱われていたのは、生活を支える大切な存在であったからかもしれません。
こちらは少しデフォルメされたイノシシの獣面把手。
千葉県市原市 草刈遺跡F区から出土し、「笑ういのしし」として紹介されています。
笑顔がかわいいですね。
後ろにも小さなイノシシの顔が見えています。
こちらも上のイノシシと同じ場所から見つかった獣面把手。
正面から見ると目が殆ど確認できず、その分鼻がやけに強調されてしまって、一見イノシシ?と思ってしまいます。
こちらの鼻息荒そうなイノシシは、千葉県千葉市太田法師遺跡からの出土品。
写実的で立体的な表現が特徴的な獣面把手です。
似たような表現のものは群馬県で多く見つかっていて、そこから運ばれた可能性が考えられるそうです。
獣面把手の表現だけを見ても、実に様々なイノシシが見られますね。それだけイノシシが身近な存在であったということでしょうか。
貴重な食料源であったイノシシを余すことなく使い、精神的なシンボルとしても祈りの場にも用いる。
これらの獣面把手は、〝命をいただく〟ということを教えてくれているように感じられます。
奈良のビストロのシカ、
神聖な、かわいらしい、といった奇麗ごとでない、〝駆除〟ということ現実に直面したシカ。
人間と共存できなかったが為に〝命をいただく〟ことになったシカ、この重みを感じるには、あの時シカを選ぶべきだったかしら、と思い返しています。
*参考図書
縄文時代の不思議と謎 山田康弘 監修 実業之日本社
千葉市「遺物から見える地域文化の発達」パンフレット
最後までお読みくださり有難うございました☆彡
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