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幸せになれるパートナー選びの秘訣~不倫ドラマ「あなたのことはそれほど」を題材に考える~

 男女の関係は相性が大切であるとよく言われます。

 皆さんは「相性」について考えたことがありますか。
どのようなタイプの人と一緒にいれば幸せになれるか、自分がどういうタイプか、相手がどういうタイプかを考えたことがありますか。

 「相性」には様々な意味がありそうですが、幸せな恋愛、結婚をする上で大切なのはアタッチメントタイプの相性です。アタッチメントタイプとは、愛情の対象を自分に引き寄せるための行動をどうとるかを類型化したものです。自分がどのタイプか、相手がどのタイプかを見極めることは今後の円滑な交際にも役立ちます。また、アタッチメントタイプという視点から自分や相手の行動を分析するのは、穏やかに男女関係の問題を解決することに役立つでしょう。

 今日は、少し前に話題になった不倫ドラマ「あなたのことはそれほど」(原作 いくえみ綾)における登場人物を題材に、男女関係におけるアタッチメントタイプについて考えます。よくあるアタッチメント行動(愛情の対象を自分に引き寄せるための行動)を知ることで、自分を冷静にみて、適切な行動をすることもできるでしょう。

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 「あなたのことはそれほど」は既婚者同士の不倫ドラマです。

 結婚していた三好(渡辺)美都は、あるとき偶然に、中学時代に恋をしていた有島に再開し、肉体関係を結びます。その後、美都は有島もまた既婚者であり、子どもが生まれたことを知るのですが、それでもなお「私も結婚してるから大丈夫」と言い、こうして継続的な不倫関係がはじまります。その関係が、美都の夫である渡辺涼太、有島の妻である戸川麗華にも影響し、徐々に家庭が崩壊する様が描かれるのです。

 今回のテーマはアタッチメントタイプですが、アタッチメントタイプは、次の3つにわかれるようです。ただ、完全にどのタイプかに分類されるということではなく、複数のタイプにまたがる(そのうちどちらかが優位である)という人が多いように感じます。自分はどれにあてはまるのかを考えながら読んでみてください。


Nタイプ(不安型)
相手と常につながっていると感じることがとても大事ですが、それが高じて、「相手は自分ほどは思ってくれていないのではないか」と不安になることもしばしばです。恋人が生活の中心になるのもこのタイプに多く、相手の言動や気分にとても敏感で、なんでも「自分のせいだ」と考える傾向があり、嫉妬や怒りの感情に悩まされ、けんかをふっかけたり、後悔するような言動をすることもあります。


Sタイプ(安定型)
パートナーに対して自然に愛情を表現できるタイプで、いろんなことを心配せずに、相手と深い結びつきを築けます。感情の波も穏やかで、自分のニーズや感情を素直に表現したり、相手の気分を読み取って適切な反応ができます。生活の中でうまくいっていること、困っていることを相手と共有するのは自然なことで、必要なときには相手の支えにもなれます。


Vタイプ(回避型)
自分の自由な時間が何より大切で、独立心が高いです。他人と親密な関係を築きたいとは思っていますが、実際にパートナーが「もっと一緒の時間を過ごしたい」と言ってきたりすると、息が詰まるように感じます。相手に振られたらどうしようと思い悩むこともありません。また、自分の問題をパートナーに話したりすることもないので、パートナーから距離を置かれていると思われることもあります。相手が自分の領域に入ってくることをかなり嫌います。


 アタッチメントタイプは、幼少期の親との関係が影響しているようですが、後天的な経験の影響もあり、とくに恋愛による変化はあるようです。一般的には、人口の50%強の人が安定型、20%が不安型、25%が回避型、3から5%が不安型と回避型の両方という分布のようです。安定型同士のカップルが永続的で穏やかな関係を築くには最適とされますが、回避型と不安型は相性がよくありません。

 アタッチメントタイプを変えることは不可能ではなく、研究によると、4年の間に平均して25%の人のアタッチメントタイプが変化するという言及もあります。
 大切なのは、自分を知ること、そして、相手を知ることなのです。

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 ドラマの話に戻ります。

 「あなたのことはそれほど」というタイトルに象徴されているとおり、主人公の美都は夫を愛しきれていません。結婚後も「運命の人」を夢想し、実際に、中学生時代の初恋の人である有島に再開するや否やためらいなく肉体関係を結びます。有島に「運命」「宿命」「必然」「奇跡」を感じるのです。
そういう雰囲気を察知した夫の涼太がより美都に親密さを求め、コミュニケーションを取ろうとし、「子供欲しくない?」と言いますが、美都は「ずっといらない 子供なんていりません 私」と断定的に述べ、話し合いを拒絶します。
涼太が不安に思って、様々な連絡を美都にしても、美都の対応は実にそっけないもので、美都が涼太の気持ちを受け止めることはありません。
 つまり、美都は、涼太に対しては「回避型」の傾向が強いといえます。
 もちろん、有島との出会いによって、美都の(涼太に対する)回避傾向が強まったともいえますが、もともと美都は涼太との結婚生活において涼太を愛で満たそうとすることを真剣に考えず、流されて結婚してしまったのです。

 回避型が用いるのは「離別ストラテジー」という、相手と親密になりたいという欲求を抑えるような言い方や考え方のことですが、具体的には次のようなものがあげられています。 


・交際中の相手との将来を考えない(が、何年も関係を断ち切らない)
・パートナーの話し方、服装や食べ方、些細な言動が気になり、それが原因で関係が悪化する
・過去の恋人に執着している
・交際している相手がいるのに、ほかの人といちゃいちゃする
・相手に気持ちがあるようなそぶりを見せるが、愛していると言わない
・デートで楽しい時間を過ごした後に電話を数日間しないなど、冷たい態度をとる
・将来がない相手との関係にはまる
・相手が話しているときにうわのそらで別のことを考えている
・相手に話していない秘密がある
・一緒のベッドに寝ない、セックスを避ける、並んで歩かないなど、物理的に距離を置こうとする


 運命の人がいる、完璧な恋人がいるという理想を追い求めることは、回避型の人が現在の恋人と距離を置くために使うストラテジーのなかでも、もっとも強力なものです。美都は、涼太に対してはかなりの離別ストラテジーを用いています。

 他方で、美都は、有島に対しては「不安型」の傾向を強く発揮します。
 そのことは、有島に「結婚」の一文字を発した美都の心理描写にあらわれています。

 「ああ嫌だ 有島君とまた離れるなんてありえない ああ嫌だ そんな事を望んでる女だと思われるなんて 嫌だ嫌だ ありえない

 有島に見捨てられることが怖くて、言いたい事を言えない美都が出来上がっています。
 有島が既婚者子持ちだとわかったあとも、ただ離れたくない一心で「私も結婚してるから大丈夫」と持ちかけるのです。それがどういう状況かを顧みず、なりふり構わずただ一緒にいることしか考えられないという点で、典型的な「不安型」になっています。有島に会える予定の日に会えなくなっただけで、精神が落ち着かなくなるのです。

 美都の夫の涼太はどうでしょうか。涼太は、寝言で有島の名前を呼ぶ美都に気づき、それから、継続的に美都の携帯電話をチェックするようになります。その日以来、美都の携帯の盗み見をやめられなくなるのです。それでも、しばらくの間は、何もいわず、かえって、「子供欲しくない?」などと、より親密になることを美都に求めます。また、美都の行動について、どこへ行くのか、誰といくのかということを細かく聞くようになります。
 これは、不安型の「プロテスト行動」です。
 プロテスト行動には、次のようなものが指摘されています。 


・親密さを取り戻そうと必死になる(着信が何十件入っていた、なんて経験ないですか?)
・わざと距離をおく、仕返しをする、冷たい態度をとる
・「別れる」と脅す
・偽装する(忙しいふりをする)
・嫉妬させる 


 これらはすべて相手に振り向いて欲しい気持ちの裏返しですが、涼太のプロテスト行動は、細かく連絡する、探るという方向であらわれています。美都との親密さを必死に取り戻そうととしているのです。不安型の方は、「今の行動、プロテスト行動ではないかな?」と振り返ることが必要です。プロテスト行動をしても、二人の溝が深まるばかりで、良いことはありません。

 不安型の涼太について、象徴的なのは、一周年の結婚記念日における涼太のセリフです。
 涼太は一連のことを勘づきながら、美都に、すべてを勘付いていること、携帯を盗み見していることを告白します。その上で、次のように言うのです。 私はこの台詞に恐怖さえ感じました。


みっちゃん 僕はこの先どうあろうと 今の君がどうあろうと ずっと君を愛する 大丈夫なんだ ずっと君を変わらず 愛することができるよ 誓うよ
これが僕のプレゼントです
」 


 有島の子を美都が妊娠したと思っても、涼太は「僕の子として育てるよ」と言うのです。

 不安型の人は、相手が最後のチャンスだと思い込む傾向があり、パートナーとの関係に不満があっても別れない方がよいと自分に言い聞かせます。自分を過小評価し、相手を過大評価するのです。そういった傾向が膨らんでいった結果、涼太は、美都が自分の方向を向いていないのに「変わらず愛することができる 誓うよ」と言っているのです。そこには自分を大切にするという発想が欠如しているように思います。
 とにかくやみくもにパートナーに近づかざるをえなくなる、このような不安型の人の考え方は「接近ストラテジー」と表現されます。

 では、美都の不倫相手である有島はどうでしょうか。
 有島は、美都と不倫相手に陥りましたが、美都に比べると、一歩距離をおいています。そうして、不倫がばれそうになると、一言「もうやばいわ これ 終わろう」と言うのです。ひとたび面倒ごとが起こったら、ただちに逃げようとするのです。
 有島の妻・麗華が異変に気付いたあとも、有島は麗華の不安に向き合おうとせず、麗華に責められることを怖がっています。有島には「回避型」の傾向があるといえるでしょう。
 その結果、有島は、妻である麗華に、次のような悲しいセリフを言わせてしまいます。 


「私 今 つらいよ?
つらい私と一緒にいて 息苦しくない?
このままずっと 「つらい私」と一緒にいられる?」

 以上のような回避型、不安型とは異なり、安定型(Sタイプ)は、自分の考えを正確に相手に伝えることができ、パートナーを愛情で包み込んで盾のように守ってくれます。
 特徴としては、次のようなものが指摘されています。 


・平和主義
・柔軟な考え方
・素直
・駆け引きをしない
・親密
・寛容
・愛情あるセックス
・相手への敬意
・自信
・責任感

 安定型、回避型、不安型の3つのなかで、安定型同士が一番関係が良好になると思いますが、回避型、不安型であったとしても、対処のしようはありますので、悲観する必要はありません。

 不安型の人は、自分が「プロテスト行動」をしているなと気付いたら、ただちにやめた上で、アサーティブな方法を用いて相手に自分の気持ちをはっきり伝える必要があります。プロテスト行動が関係を破壊するということをしっかり理解しておきましょう。相手が安定型であれば、不安な気持ちを理解し、きっと、言語や振る舞いであなたを安心させてくれることでしょう。
 回避型の人は、正直に、ひとりになるスペース(時間、空間)が必要であると伝えましょう。適切な言い方は、「相手が誰であっても」そういう時間や空間が必要な人間であるということを伝えることです。安定型の人が相手であれば、あなたのパーソナルスペースを十分尊重してくれるはずです。
いずれの場合でも必要なのは素直さと相手を責めない言い方です。

 残念ながら、不安型と回避型の相性はあまりよくありません。
 不安型は親密になろうという傾向が強く、回避型は親密さを避けようとする傾向が強いからです。性質としては水と油なのです。

 もちろんそれでも相手が心底大切ならばよい関係性を模索すべきですし、回避型や不安型が安定型に変わることもあります。とはいえ、苦しい状況が続きそうであれば離別の選択もあるということを忘れてはなりません。世の中には星の数ほどの男女がいるのです。

 これからの人生で大切なのは、過去の自分の行動を振り返って、自分がどういうタイプであるのかをはっきりと認識することです。それと同時に、自分が幸せになれる相手はどのタイプなのかということをじっくり考えることが必要です。ただし、それぞれ個性があるにせよ、あえて、これからパートナー選びをする人にアドバイスをするとすれば、「安定型」を選んだほうが幸せになれるのではないかと思っています。

 安定型の人は、あなたを次のように扱います。

 
・あなたの幸せが第一である
・あなたに秘密を打ち明けてくれる
・あなたの意見がとても重要だ
・あなたは、愛され、守られていると感じる
・親密さを求めると、より深い愛情で応えてもらえる


 このようなタイプは、あなたの「安全基地」になってくれるはずです。

 もう一つ大切なのは、そもそも論です。

 なぜ人は恋をするのでしょうか。
 なぜ人は特別な人と一緒にいたいと思うのでしょうか。

 「あなたのことはそれほど」と思う状態は、いわば安全基地にエラーが生じている状態といえます。涼太にとって、もはや美都は安全基地ではありません。それでも涼太が美都と一緒にいようとしたのは安全基地として機能しているからではなく、安全基地のエラーである接近ストラテジーが引き起こしている現象にすぎません。離れることに対する恐怖心が過剰になっているのです。そもそも、「あなたのことはそれほど」と思われている時点で、涼太にとって美都と安全基地を作ることは難しいことだったのです。そして、有島もまた、せっかく得られていたはずの安全基地(麗華)を自ら破壊してしまいました。

 コロンビア大学准教授のアミール・レバインは、人が人生を分かち合うパートナーを求める気持ちは遺伝子に組み込まれていると述べています。2人の人間が愛情で結ばれた関係にあるとき、生理的にも心理的にもよい影響があるというのです。そして、特別な結びつきのある人があなたの「安全基地」になっているからこそ、あなたは安心して外に出て、仕事をしたり、安心して将来のことを考えることができるのです。
 もちろん、そういった安全基地が自己肯定感を育みます。

 あなたのことを「あなたのことはそれほど」と思っている相手と一緒にいても幸せにはなれないでしょうし、それはあなたが相手に対して「あなたのことはそれほど」と思う場合でも同じだと思います。

 自分のアタッチメントタイプ、自分が求めるアタッチメントタイプを理解した上で、「あなたのこと『が』それほど」大切だと思い合える人に出会うこと、あるいはそのように思い合える関係性を作っていくことが大切なのではないでしょうか。

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参考文献
1 「あなたのことはそれほど」(いくえみ綾)
2 「異性の心を上手に透視する方法」(アミール・レバイン、レイチェル・ヘラー)

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