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Clubhouseをジョブ理論で捉えてみる

こんにちは、外資系IT企業でプロダクトマネージャーをしていますハヤカワです (@kzkHykw1991)

普段からTwitterでプロダクトのことやジョブ理論のことを呟いています。特に今年は #ジョブ理論図解 というのを練習していて、有名な事例や身近な例を図にして紹介しています。

そこで、今IT界隈を賑わしているClubhouseについて、ジョブ理論で捉えてみました。

ジョブ理論図解 (39)

大きなジョブとしては「会話を通して誰かと同じ空間を共有したい」というのがあると考えました。

その下に、下記のような機能的ジョブ、感情的ジョブ、社会的ジョブが紐付いている形です。

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そして、Clubhouseというソリューションを通して、主に4つのできることをユーザーに提供することで、このようなジョブが達成されているというのが今回のジョブ理論の仮説です。

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このようなジョブで捉えると、従来の音声SNSやメディア、ポッドキャスト、Voicy, Himalaya, Spoonなどが達成しているジョブとは異なると思います。つまり競合ではないと言えます。

平たくいえば、音声SNSというよりはClubhouseは誰かとおなじ空間を共有することができるアプリなのではないか?という捉え方です。ここで言っている空間の共有とは、人と人が同一の仮想的な空間にいて、考えや状態、出来事を誰かと共有することができるような環境のことを指しています。

よく例にあげられるのがClubhouseは音声版のTwitterであるという表現です。Twitterは文字や画像を通して、リアルタイムに考えやその場の出来事をツイートをしてフォロワーに共有する、ある意味Twitterも「今の自分自身の考えや出来事を誰かに共有することができる空間」を提供していると捉えることができるのではないでしょうか。それが、テキストか画像、または音声なのかという違いです。

しかしここまではあくまでも仮説であり、ある意味"バズっている"状態でのユーザの行動や声が正しいのか?というのも私自身疑問が残ります。

本noteではその真偽ではなく、ジョブ理論という問題の捉え方をするためのフレームワークを通して、どのようにClubhouseを捉えることができるのかという、その方法や過程自体を説明したいと思います。

ジョブ理論について詳しく知りたい方はこちらのnoteをぜひご覧ください!

1. Twitterでユーザーの声を収集する

ジョブ理論においては、ジョブ(顧客の求めている進捗 Progress)は必ず「実際のユーザーの声から生まれる」という前提があります。

そこで、ジョブの仮説を作るために、実際にClubhouseを使っているユーザーの声をTwitterから拾ってくることにしました。

まずは、こちらのNode.js moduleを使って、"Clubhouse"を含む日本語のツイートを約1500件取得しました。

この中から、今回知りたいのは"実際に使っているユーザーの声"となります。したがって、この中から多くを占めている「招待コードほしい!」や「Clubhouseというのは云々」という解説系、「陰キャのおれには...」や「○○したい!」的な未利用ユーザーのコメントはすべて削除し、1000件弱になりました。

元のcsvデータがみたいかたはこちらのGoogle Spreadsheetでご覧いただけます。

その中でもさらに、具体的に「なぜClubhouseを使ったかのモチベーション」や「どういう行動をしたのか?」というジョブで定義されているユーザーの行動や経験、動機という過去の事実を含んだツイートに絞ります。さらに、ただの批判的なものや関係ないものを省きまくり、結果100件弱が有効なユーザーの声になりました。

2.ユーザの行動を分類する

それらを見てみると、大きく5つの行動の傾向が見えました。

誰かと繋がる
- 有名人、著名人、インフルエンサーの生の声が聞けることの喜び
- 長い間話していなかった友達と話せたことの喜び

気軽な会話をする
- 雑談, ダベる, 他愛のないなどの内容や、部室や居酒屋などの場所に例えた表現

話し合いをする
-議論, ディスカッション、専門的な会話できる環境あることを示したキーワード

ただ聞くだけ
- "ながら"で何かをしながら気軽に聞けるというラジオやその他の音声SNSと同様の使いかた

機会損失を防ぐ
- 音声コンテンツ自体を聞き逃したくない、アプリ自体に早く入らないと乗り遅れてしまうという機会損失を煽られたことによる行動

3. ジョブを考える

そして、これをジョブに変換するために、ジョブ理論で使われる3タイプ19の根本的な欲求で捉え直します。

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すると、

機能的ジョブ
- インサイト (会話を通して気づきを得たい)
- 時間短縮 (セットアップが容易で気軽に会話に参加できる)
感情的ジョブ
- 自尊心 (招待制により、早期にアクセスしていることが誰かよりも優れると感じたい)
- 喜び (退屈な生活ではなく、精神的・物理的に楽しみたい)
- 自己表現 (考えや思いを話して表現したい)
社会的ジョブ
- インフルエンス (スピーカー側がオーディエンスに対して一方的に喋り、影響を与えたい)
- 関係性づくり (普段繋がれない人と繋がりたい)
- 認識 (狭いコミュニティの中で認識されたい)

が該当しそうであることが分かります。

4. ジョブが発生する状況を考える

次に、ジョブ理論で重要なのが状況です。課題やニーズ、それに対してユーザーが求める結果(Expected OutcomeやDesired outcome)は状況によって変わってくるという前提があるからです。

今回の状況は何か?というのを決めるには実際にユーザーがいつその行動を取っているかを観察する必要があります。今回は厳密には観察できないので、Twitterの傾向から推察するに「昼や夜でも問わない」「家や移動中など場所を問わない」「家事や作業などをしていても関係ない」という状況が見て取れるので、唯一ある共通の状況が「一人で耳が空いている時」というものです。

もちろん、盛り上がりに乗じて、複数人で集まって、その場でClubhouseにつなぐこともあると思いますが、現時点での使い方ではそのような使い方は少数であると思います。

そして、「耳が空いているかどうか」という点は、耳が空いていなくても、つまり音楽を聞いていたりYouTubeを見ていたりしても、このジョブ「会話を通して誰かと同じ空間を共有したい」を達成したいとユーザーが思い、そこにソリューションがある場合には、「耳を空ける」という行動を取るはずなので、これを状況に入れるかは悩ましいですが、一旦は外してみました。

5. ジョブパフォーマーを考える

次に、ジョブ「会話を通して誰かと同じ空間を共有したい」を抱えている人は誰なのか?というのをジョブパフォーマという形で表現します。

ジョブパフォーマーは一般的なペルソナアプローチとは異なり、明確な人物像を描きません。さきほどのジョブを抱えている人全員がジョブパフォーマーになります。便宜上、独身や家族、カップルや、業種業界、職種など様々な表現で捉えることができますが、そのジョブを抱えている人の総称と理解してください。

今回のケースでは、さきほどのジョブを持っている人を区分する最適な表現が見つかりませんでした。おそらく社会やコミュニティで生きていく人間であれば、「会話を通して誰かと同じ空間を共有したい」というジョブは多かれ少なかれあらゆる人が持っているからではないでしょうか。そこで今回は「あらゆる人」と表現しました。これは、現時点でのClubhouseのユーザーやアーリーアダプターを表現するものではなく、このジョブを抱えている人を総称したものです。

6. 代替手段を考える

そして、最後にClubhouseでできることと、このジョブを満たすためにユーザーがすでに取っている他の手段を考えます。代替手段は既存の音声SNSというよりは、Twitterや、もっといえば実際に人と会ったり、今の時期ではオンラインで交流をはかる、イベントやコミュニティ自体がClubhouseの競合に当たると考えられます。

ジョブ理論図解 (38)

おわりに

最後にお伝えしたいのは、ジョブ理論はあくまでも問題を定義するための考え方であるという点です。Problem SpaceとSolution Spaceで区分すると、前者にあたります。ジョブ理論の原則としても、Solution Agnostic(ソリューション依存しない)という考えがあるので、あくまでもClubhouseを使っているユーザーが抱えているであろうジョブ(達成したい進捗、進歩、ニーズなど)を定義したに過ぎません。機能を説明するものではないということです。

ここまでの仮説を作ったらあとは、この仮説が正しいかどうか、より洗練させるためにひたすらユーザーインタビューを繰り返します。そして、問題定義の精度が上がったら、Solution Spaceに移り、実際にどのようなソリューションで解決できそうかという具体的な製品アイデアやアイデア出しや、プロトタイプというリーン開発のアプローチを取ります。

もちろん、プロダクトがマーケットで成功するには、Solution Spaceでも大きな価値があることが必要です。したがって、ここではClubhouseの機能やUXに関する考察をしていないという点はご理解いただけたと思います。さらには、資金調達の状況やアーリーアダプターの獲得、Viral Marketingやコミュニティ醸成などビジネス的な観点が様々組み合わさって今のClubhouseの爆発的なバズがあります。

本noteを見ていただいて、ジョブ理論による既存ソリューションが解決している問題定義の考え方の参考にしていただければと思います。

これからもプロダクトやジョブ理論などプロダクトマネージャーに関する経験や知識を発信していきたいと思うので、Twitterのフォロー、noteのスキをお願いします!


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