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私だけの時間☆ここで飲むしあわせ 【ショートショート】

彼との付き合いは、もう10年以上になる


出会いはチャット


チャットと言えど、いかがわしいものではなく(笑)

会うこともなく、声すら聞くこともない
日常やちょっとした愚痴を、
同じ時間に複数の人で文字で会話を楽しむ・・・
お金もかからない大人の憩いの場(笑)

そのグループの中の一人が彼。

私より一回り以上年上で、
先生と呼ばれる職業であること。
本がとても好きなこと。
独身であること。
お酒が好きなこと。
お気に入りは『クインビー』
とりあえず性別は男性であること。

これが10年間で得た、私が知る彼のプロフィール

彼は毎日のように、
夜中の1時をすぎるとチャットにログインして
グループ内で文字会話を楽しみながら、
同時進行で、自分のnoteブログを2時に投稿する神タイピングの持ち主だった。

毎日のように投稿されるnoteの中には


彼のお気に入りの場所である
ジャズの流れるBAR『クインビー』
彼とマスターとのやり取りが、物静かなのに面白く繰り返される。

そこで飲むお酒は、かなり強めと予想される。

そしてnoteには、
読んだ本の内容や、解説も書かれているのだけど、、、。

彼の読む本はかなりマニアックで、解説もニュアンス程度にしか私には理解できない。

でも私は。
彼の小気味好い言い回しと、博学なnoteの文面が大好きだった。

それは
チャットの文字でも、賢そうな人ということが伺い知れる。

出会ってから10年以上たつが、
お互いの写真を見せあったことはなかった

名前すらしらない。
自分が作ったニックネームを呼び合う仲

チャットは
文字だけが流れていく。
自分勝手に相手を想像して、具体化する不思議な世界。

もしかしたら性別さえも偽りかも知れない。

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そんな、ある夜

後にも先にも、たった一度だけ
チャットのトークルームで、珍しく二人っきりになった。

閑散としたチャットルームの中
テンションだけ上がっていく二人は、ボイス機能を利用して歌を歌おうということになった。

私はユーミンの『無限の中の一度』
彼はサザンの『太陽は罪な奴』をアカペラで歌った。

初めて聞く彼の声は
意外にも若く、耳に心地よかった。

彼の写真をみた他の人の情報では、
『目鼻立ちがはっきりとしており、若い頃も美少年だったはず』と、
何人ものイケメン票が入っていた。

本人のものではなかったり、
奇跡の1枚を見せる人も多い。
写真は信用してはいけないツールだった。

でも日頃の文字での聡明な会話や、声から察するに奇跡の1枚ではないだろうと漠然と感じた。

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そんなあるとき、
私は彼と会うことになる。


きっかけは、同級生のドタキャン。

遠方で行われた元同僚の結婚式の帰り。
途中下車して学生時代の同級生と会うことになっていた。

18時から約束をしていたのに、子供が急に熱を出したとのこと。

ただいま17時30分

致し方ないとはいえ、
予約済の帰りの電車までの3時間
知らない土地でどうしたものか。


大阪で生まれ育った女。
シングルマザーで子育てと仕事しか行き来しない女。
地方で、急に会える友達もいるはずもなく。

夜はチャットで他人と会話するしか趣味はなく。。。

チャット。
チャット。。。
チャットの???

そう彼は
この土地に住んでいた。

チャットの個人トークに、初めて彼にメッセージを送る。
『こんばんわ、今日の18時には○○駅にいます。お会いできますか?』

なんて大胆な行動だったと、
自分自身が一番驚いている(笑)

写真を交換したこともない。
彼を見つけるための返信メッセージには、

『ありがとう。大丈夫です。
帽子に紺色のスーツ。
胸には赤いポケットチーフ
手には黒い革のアタッシュケース。
8番出口の改札を、18時に通り過ぎるのが僕です。』

と書かれてあった。

そして
彼は18時ちょうどに改札を通る。


私に会うからと、おしゃれして来たわけでもなく
しっくりと完璧に自分を着こなしてきている。


『8番出口で待ち合わせ』と、
伝えてもらうだけで良かったかもしれない。


彼は私の想像通りだった。


『どうか。。。帽子の下は禿げていて~』っと思うくらい、フェドラハットが似合いすぎる。
彼の胸の赤いポケットチーフが
“昭和のイケメンバッジ”の称号に見えるくらい格好良かった。

でも私の期待を裏切ることなく(?)
彼は穏やかに微笑み
帽子の下はハゲでもなく、きちんと整えらえた黒髪。
声もヘッドフォンで聞くより凛々しかった。


緊張したのは最初だけ。


彼は紳士なのだけど、小気味好い口調で。
私も、いつもどおり小憎たらしい口調で。


ご飯を食べ終わる頃には、打ち解けることができた。

彼が
『クインビーに行かないかい?』と言ってきた。

いつも
noteで読んでいるBAR『クインビー』

実際に行くことになるとは、夢にも思わず嬉しかった。

バーではジャズが心地よく流れ、
マスターはnoteでのキャラよりも芸人っぽく(笑)
想像だけの彼は具体化して
カウンターに座って私と、お酒を飲んでいる。

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注文することなく、マスターが作ったお酒を持ってくる。
フルーツとベジが合わさったような特製カクテル。
スライスされたオレンジが、可愛く微笑んでいる。


『果物や野菜味のカクテルが好き』と
チャットで一度言ったくらいなのに
彼が私の嗜好を、覚えてくれていたことに満足感が溢れ出す。

本当に自然に、
本当に心地よく時間がながれた。

一回り年上の、素敵なおじさんとの急なオフ会。

私が帰る改札の前で、
どちらからともなく。
『また会いましょう』と約束をした。

それはチャットで?リアルで?と自問自答しながら。

帰りの電車でも、
ふわふわしながらの心地よさ。

その日は余韻を味わうためにチャットには入らなかった。

そして彼も珍しくチャットには入らなかったらしい。


次の日
私と彼のオフ会は、グループの誰も知らないまま。
会ったことが夢のように、二人の間に変化のないまま。
また文字で会話する日々が続く。

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でも
私には少しだけ変化があった。


ジャズを聴きながら
チャットをしたり、noteを読むのが日課になった。

特に彼の
BAR『クインビー』の投稿の時には、
ストックしてあるベジカクテルを、家飲みしながら読んでいる。

子供が寝静まってからの私だけの時間。

夜はチャットだけでなく、
ジャズと、時々お酒を飲む幸せを味わう楽しみが増えた。


あの時の余韻を思い出しながら。


ここで飲むしあわせ
       を感じながら。



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