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第14回・口から黙々と魂を出す

口元から吐き出された煙が、モクモクと空間に漂い、フワフワと、そしてシンシンと消えていく様が心地良かった。

最初は、何かに反抗する気持ちや、ただ単に格好いいかもと始めた習慣だったが、いつの間にかその様に、そんな風情のようなものを重ねようとしていたとは、流石こじつけの達人である。

これは煙草の話だ。

考えてみれば、子供の頃は、空をじっと見つめ、カタチを変えていく雲をいつまででも見ていた。
その無限の雲の世界に空想を重ね、頭の中で物語を作っては、その楽しさに満足していた気がする。

自分にとって、想像したり空想したりしている時間こそが、一番の贅沢であり、完全にひとりになって寛げる。
その感覚は、良い歳になった今でも変わってはいない。

きっとあの楽しさをひとときでも感じたくて、自分は煙草を吸っていたのかもしれないと、本気で思っていた時期もある。
煙草を吸わなくなって、暫くしてからのことだ。

例えば『仕事をする』『集中する』の合間、休憩のためのオン・オフのスイッチとして、それは習慣となっていたのだが、その習慣自体を止めてしまった後は、どうやって自分の状態をオフにしたら良いのか、わからなくなっていた。

そこで私は、ニコチンもタールも入っていない電子タバコを購入し、それを休憩のきっかけにし、空想の世界への導入にもしようとした。

その電子タバコは、吸い込んだ時にだけ電源が入り、その間に本体へ充填されたリキッドが加熱され、水蒸気となって排出される代物。
その様子はまるで煙草そのもので、煙に見立てた水蒸気はモクモクと宙を漂い、静かに消えていく。
立ち上るモクモクをボンヤリと見つめながら、ひとりの時間を嗜み楽しんだ。

だが、数日も経つと飽きてしまった。
まるでそのモクモクと同じように楽しい感覚は消えてしまった。
「一体、自分は何度も口から水蒸気を出して、何をやっているのだろう」という疑問が、頭の中に漂ってしまったのだ。
しかも、それなりにする金額を払って、何にもならない不思議。
自分にとっては、どうにも説明出来ないし、合わない行為なのだと理解出来た。

そして、もう一つ理解出来たことがある。
それは、確かに私はモクモクに心地良さは感じていたが、オフの時間にそれを求めていたのではないということ。

私が求めていたのは、限度のある時間だったに違いない。
煙草に火を着けてから消えてしまうまでの数分間は自由という感覚と約束だ。

電子タバコは、自分のさじ加減で、いつまでも水蒸気が出続けた。
充電が無くなれば止まったが、なかなか終わりが見えないものに、風情もへったくれもない。

終わりのある風情。
それは歳を重ねることにも言える。
少しばかり肺を汚してしまったが、仕方ないな。

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